生きていくためには欠かせない「食べること」によって起こる「食物アレルギー」。特にお子さんが小さい場合は、心配になってしまう保護者も少なくありません。

 

今回は、子どもの食物アレルギーの傾向や、検査、最新治療について、国立病院機構相模原病院臨床研究センター長であり、日本アレルギー学会・理事長を務める海老澤元宏先生に教えていただきます。

子どもの食物アレルギー 最近は木の実類が増加

食物アレルギーとは、特定の食べ物を口にすると、かゆみや腫れ、呼吸困難などの症状を引き起こす疾患。

 

食べ物の「タンパク質」が体内で異物と見なされることで、アレルギー反応が起こることをいいます。

 

食物アレルギーの3大原因食物は、卵・牛乳・小麦。この3つが全体の大部分を占めます。

 

これらの3大原因食物を原因としたアレルギーは0歳で発症しますが、80%近くが小学校入学までには自然に治ります。

 

乳児では鶏卵アレルギーが10人に1人ほど、小学生では何らかの食物アレルギーを有する子どもは40人のクラスで2人ほどの割合ですが、食物除去対応が必要になる子どもは1人程度と推定されています。

 

食物アレルギーは増加しているという話を耳にすることがあるかもしれませんが、鶏卵・牛乳・小麦などの食物アレルギーが増加し始めたのは1980年代で、その後2010年頃にかけて増加し続けました。

 

この10年ほどはほぼ横ばいですが、一部、木の実類は急増していて、クルミやカシューなどのナッツアレルギーは、幼児から思春期前後の子どもに増えています。

ちなみに、魚卵や甲殻類、果物類の食物アレルギーは、食生活の幅が広がる幼児期から認められます。

「食物アレルギー」自己判断をしていませんか?

食物アレルギーは、専門医による正しい診断と適切な指導が必要な病気です。自己判断で食物除去を行ったりせずに、まずは医療機関を受診しましょう。

血液検査や皮膚テストだけでは診断できない

診療は、病歴を詳しく聞かれることから始まります。何をどれだけ食べて、どのような症状がどのような時間経過で出現したかが重要です。

 

それらの詳しい情報と食物アレルギーの疑いがある場合に行われる、「血液検査」や、「皮膚テスト」の結果が一致した場合には診断は比較的容易です。

 

アレルギー検査の結果を元にアレルギーがあると思っている方がいますが、これらのテストによりアレルギーを確定できるものではありません。

 

「血液検査」はアレルギーを起こすIgE抗体の量を調べる検査であり、特定の物質に対してIgE抗体を有していることを示すに過ぎません。

 

「皮膚テスト」は皮膚でのアレルギー反応を誘発する試験ですが、こちらも陽性というだけでアレルギーを確定することはできないからです。

 

では、病歴と検査から食物アレルギーを正しく診断できない時にはどうすればいいか。そのためには、次のステップの検査である「食物経口負荷試験」を受ける必要があります。

「食物経口負荷試験」は確実な診断方法

食物経口負荷試験とは、原因と疑われる食物を医師の管理下で食べさせてみて、症状が出るかどうかを見る検査です。

実際に、原因と疑われるアレルゲンを直接口にするため、症状が出た場合でもすぐに対応できる体制が整った認定医療機関でなければ行えません。

 

私が国立病院機構相模原病院で、食物経口負荷試験を始めたのが26年前。その頃は、食物経口負荷試験を診療の一貫として行っていた病院は全国的にほとんどなく、保険も適用外でした。

 

その後、食物経口負荷試験を全国に普及させる活動などを通して、2006年には保険適用に至っています。

 

食物アレルギー研究会ホームページでは、全国の都道府県別に食物経口負荷試験を行っている日本小児科学会専門医研修プログラム 基幹施設・連携施設を掲載しています。お住まいの病院に相談しましょう。

食物アレルギーの管理は「安全に食べさせること」へ

この10年あまりで食物アレルギーの管理は、「除去から、少しでも良いから安全に食べること」へと変化しています。

 

以前は「アレルギーの原因となる食物は絶対に食べてはいけない」と指導されることが多く、そのことにより生活の質の悪化を招くこともありました。

重症度に応じた対応で日常摂取を目指す

乳児期に発症した鶏卵・牛乳・小麦などの食物アレルギーは幼児期に自然に治ってしまう方が多いですが、約20%程度は小学校まで遷延します。

 

食物アレルギーの治療管理の最終目標は、普通の食生活ができることです。

子どもの食事のイメージ

 

医師の指導の元、少量、中等量と段階的に負荷試験を行い、最終的には日常摂取量を摂ることを目指します。

 

日本は、食物経口負荷試験での経験を重ね、アレルギーの管理方法が世界で最も進んでいます。食物経口負荷試験の結果に基づいて、食物アレルギーを管理することができているのは、我が国だけであると思います。

アレルギー表示の落とし穴にも注意

容器包装された加工食品と添加物には、卵、乳、小麦、えび、かに、落花生、そばの7品目の「特定原材料表示」が義務付けられていますが、実は外食やテイクアウトは表示の対象外です。

 

最近はメニューにアレルギー品目をわかりやすく表示しているお店も増えてきましたが、アレルギー表示がされていたとしても、調理スタッフの知識不足で事故につながることもあるため注意が必要です。

 

学校給食でさえ、2008年にアレルギーのガイドラインができたものの、なかなか徹底されず、2012年に学校給食でアナフィラキシーにより亡くなってしまったお子さんが出ています。

 

その後、国が本腰を入れて学校でのアレルギー対策を行ったのは実はつい最近のこと。

 

まだまだ、アレルギーに対する正しい知識や理解が得られていない状況があると感じています。当事者だけでなく、社会全体で食物アレルギーに対する意識を高めていくことが求められています。

 

PROFILE 海老澤元宏

国立病院機構相模原病院臨床研究センター・センター長。日本アレルギー学会・理事長。日本小児アレルギー学会・副理事長。厚生労働省アレルギー疾患対策推進協議会・座長。専門は小児アレルギー疾患、食物アレルギー、アナフィラキシーなど。

取材・構成/仲宗根奈緒美