現在、公開中の映画『愛のまなざしを』(万田邦敏監督)で、患者と恋に落ち、ひとり息子と対立し、亡き妻との思い出にもがきながら、精神を崩壊させていく精神科医を演じる仲村トオルさん(56)。
最近のインタビューでは、「演じている最中に面白いと思ったことはほとんどない」「俳優業は狭い道を指定された山登り」と、俳優という仕事を楽しめていないような発言をしています。
その真意や、仲村さんなりの仕事観について聞いてみました。
酒は好きでしょっぱいものは食べますが…
――デビューから35年が過ぎましたが、変わらず若さをキープしているように見えます。意識してのことですか?
仲村さん:
ものすごく意識はしていないですね。食べるものには気をつけていますが、酒は好きですし、しょっぱいものも食べますよ(笑)。
ただ、1か月後に病弱なインテリ役でも、マッチョな海上保安官役でも体型を短期間で変えられるよう、ニュートラルな状態を保つようにはしています。
――そんな心がけが、若さを保つ秘けつになっているんですね?
仲村さん:
アンチエイジングに効果があると聞いて、試しにやってみることもあります(笑)。
寒さや空腹を我慢すれば、細胞内のミトコンドリアが活性化するという話を聞いてからは、空腹ではないのに何かを食べることはしなくなりましたね。
――そんなストイックな姿勢で取り組む俳優の仕事は、あまり面白くないものですか?
仲村さん:
撮影で演技をしている間は、現在進行形で楽しいとは思わないということです。
演技というやるべきことに一生懸命なので、そう感じる余裕がないというか…。
ただ、そのテイクにカットがかかり、演技にOKが出て解放感を感じた瞬間に、楽しかった、面白かったと思うこともあります。
舞台は、何十回も稽古をして、何回も本番があるので、千秋楽が近くなると、演技中に楽しいと感じることがあります。
――今回の映画『愛のまなざしを』の演技ではどう感じましたか?
仲村さん:
“よーい、スタート”から“カット”まで、楽しかったのか苦しかったのか、わからないほど記憶がないですね。
万田監督の演出は独特で、セリフは感情より音、演技も内面より動きを重視するので、本番中は忠実に、その音と動きを自分の体を使って必死に表現しているのが正直なところです。
他人を変えないで、自分を変える
――そんな俳優の仕事は、一般的な仕事とは違うものだと思いますか?
仲村さん:
以前、会社勤めの友人と話をしていたときに、僕がスケジュールを思い浮かべて、いついつには仕事がひと段落するという話をしました。
すると、“お前の仕事はひと段落つけるのか。俺は定年までエンドレスだ”と言われたので、独特かもしれません。
僕たちの仕事はうまくいこうが、そうでなかろうが、3、4か月すればそのプロジェクトは終わり、チームは解散します。
でも、うまくいかない上司や後輩とずっと一緒に仕事をしなくてはいけないのは、大変ですよね。
――俳優業を通して、仕事で辛いときの対処法や面白みを見つける方法はありますか?
仲村さん:
ひとからの受け売りですが、他人を変えようとしないで、自分を変えてみることではないでしょうか。
苦痛やストレス源からの距離を置いたり、立ち位置を変えたりして、自分がコントロールできないことは、コントロールしようとしない、ということです。
初めて仕事をする人とは距離をとる
――仲村さんも実際にそれを心がけていますか?
仲村さん:
そうですね。初めて仕事をする人とはある程度、距離をとるほうかもしれません。
監督でもディレクターでも、あらゆる人たちが自分のやり方や方針を持っています。
その人たちに、自分の考えをすべて押し通すことはできませんし、意味のないことです。
だから、“自分は絶対にブレないぞ”という考えはもたないようにしています。
今日(取材日)もラジオの生放送という、僕にとっては慣れない仕事がありましたが、“柔らかい心と柔らかい頭で”という気持ちで臨みました。
うまくいったかどうかは、わかりませんけれど。
…
そういたずらっぽく笑う仲村さんの“仕事術”は、俳優業をしていない人たちへのヒントにもなると思います。
PROFILE 仲村トオルさん
1965年、東京都生まれ。1985年、映画『ビー・バップハイスクール』でデビュー。ドラマ、舞台などでも活躍し、最新主演映画『愛のまなざしを』が公開中。
『愛のまなざしを』(万田邦敏監督)
出演:仲村トオル、杉野希妃、斎藤工、中村ゆり、藤原大祐ほか。渋谷ユーロスペース、池袋シネマ・ロサ、キネカ大森、イオンシネマほかで公開中。11月20日(土) 、大阪の「テアトル梅田」と「イオンシネマ シアタス心斎橋」で、仲村トオルさんの舞台挨拶が決定。
文/CHANTO WEB NEWS 写真/ⓒLove Mooning Film Partners