会社を辞め、自宅を引き払い、貯金を切り崩し、病気と闘いながら、キャンピングカーで日本一周をする様子を配信する夫婦が注目を浴びています。
最近は、テレビ番組で取り上げられることもあるふたりに、旅を始めたきっかけや、生活ぶり、これからについて聞いてみました。
単純な娯楽と思われるとモヤモヤ
「キャンピングカーで旅を続けていてると、単純な娯楽と思われ、うらやましがられますが、モヤモヤするところもあります」
そう話すのは、YouTubeチャンネル『ガタガタGOGO』で、キャンピングカーに寝泊まりしながら旅をする「バンライフ」を発信するむっちゃん(35)。
11歳年上の夫・がっちゃんとの車中泊の旅は、すでに4年目を迎えています。
「コロナが始まってからは、移動を控えるようになり、この10月まではYouTubeの視聴者さんの好意で、大阪のマンションの片づけを手伝っていました。
11月からは和歌山のみかん農家で収穫のお手伝いをしています」
その間も、寝泊まりするのは駐車場に止めてある「オルビス」というキャンピングワークス社製の車。
定員7名の本格的なキャンピングカーで、愛称は「ゆーちゃん」。約500万円の中古で購入したふたりの“愛の巣”です。
「朝起きて片づけや農作業に行き報酬をもらう生活は、会社員時代に似ていますね。コロナが収束すれば、またキャンピングカーで転々とする旅に戻りたいと思っています」
そんなむっちゃんが、がっちゃんと日本一周の旅に出発したのは、2018年11月でした。
同じ一部上場企業に勤めていたふたりが、仕事も家もあきらめたのには、むっちゃんの強い気持ちがあったからです。
持病が併発して悩みぬいた結果
「夫と日帰りでの遠出のドライブはしていましが、日本一周の旅は、定年退職後の夢としてぼんやり持っていた程度でした。
でも30代になり、持病が併発してしまいました。特に腎臓が思わしくなく、後10年で人工透析をすることになりそうだという診断が出ました」
透析を受けながら車中泊で旅行をすることは難しいので、1年半は悩んだというむっちゃん。
「でも、できるのは今しかないと思い、“一緒に会社を辞めて、日本一周してくれない?”と夫に提案しました。
私が、泣きながらひとり悩んでいることに薄々気づいていた夫は、驚きつつもすぐに同意してくれました。
私の母親も“ようやく自分のしたいことができるね”と賛成してくれました。
というのも、父が昔からガンの闘病を繰り返していて家計も苦しかったからです。
家族で遊びに行った記憶もなく、大学も学費を稼ぐためにアルバイトをかけ持ち。
就職後も、奨学金の返済で苦労していたことを知っているので、私の気持ちを尊重してくれました。
むしろ、会社がなかなか退職届を受理してくれず苦労しました。当初は、定年まで勤めあげるつもりで、順調にキャリアを積んでいたので引き留められました。
体調も悪化していたので、最後は何とか辞めさせてもらいましたが…」
収入が不安定になると心も不安定
夫婦ともに収入源を絶ち、持病を抱えたままの出発に不安はなかったのでしょうか?
「もちろん不安はありましたが、YouTuberとしても少しは稼げるだろうから、大丈夫だろうとも思っていました。
実はあまり稼げず2年目あたりから、かなり焦りましたが(笑)。収入が不安定になると、心も不安定になります。
体調は今でも波があり、実家近くの病院に通っています。
それより、今できることをしておきたい、同じような境遇の人と気持ちを共有したいという思いがあり、バンライフを決めました。
だから、単なる娯楽や気楽な旅だとは見てほしくないところはあります」
ふたりの自宅は賃貸だったので解約の手続きですみましたが、新たな家となる車選びには時間をかけたそうです。
「新車、中古車あわせて100台以上のキャンピングカーを見て、現在のオルビスにしました。
ガソリン代や保険代などの維持費は年に100万円ほどかかるので、月々の家賃だと思って払っています」
“自宅”選びのポイントは、シャワーやキッチン、トイレなどがあり、電源を必要としない完全自立型であることだったそうです。
「特に私の持病の関係でトイレがあることは必須でしたね。
運転席の上にバンクベッドがあり、そこに私たちが自宅で使っていたマットレスと布団を持ち込んでいるので、快適に過ごしています。
たまには、ホテルや家に泊まりたいと思うことはないですね」
ケンカができるようになってよかった
そんな車上での非定住生活になり、よかったことをむっちゃんはこう話します。
「やはり夫婦で一緒にいる時間が増えたことですね。
会社員時代はすれ違いが多かったので、朝の“おはよう”から、同じ時間に同じものを食べ、同じ景色を見ることができるのは3年以上たった今も新鮮です。
常に一緒に生活することで、喜びは2倍に苦しみは2分の1になることが、いいところですね。
今まではその時間もなかったので、ケンカができるようになったのもよかったです。
2回くらい“危機”はありましたが、お互いに帰る家がないので、きちんとかみ砕いて話し合うようにしています」
職場で営業を担当していたがっちゃんは、頼もしい存在だそうです。
「夫は世間一般の型にこだわらず、芯がある優しい人です。目線が同じで正面から向き合えるので、年の差を感じない心地よさがあります。
天気図も読めて、危険察知能力があります。台風のときなども、状況を判断して安全な場所に駐車してくれますよ」
おおまかな行き先を決めて、寄り道しながら進むのが、夫婦の“ガタガタ・スタイル”。
「福井県でたまたま立ち寄った平泉寺白山神社という場所は、まるで映画『もののけ姫』の舞台のような神秘的で厳かな場所で、印象に残っています。
新潟の公園では、クマが出没して危険だから“ウチにおいで”と誘ってくださる方もいました。
ある場所で会ったバンライフ仲間と、たまたま別の場所で再会したこともあり、運命的なものを感じたこともあります。
観光地だけではなく、人との出会いも楽しみのひとつです」
実際には、どんな完全車中泊ライフを送っているかというと…。
「車内に唯一ないのは、洗濯機です。行く先々のコインランドリーで済ませています。
食事は、私が持病で塩分を控えているので車内での自炊が多いです。
ただ、ご当地ものを食べたり、イオン系のスーパーのお惣菜を割り引きする時間帯を狙って購入したりすることもあります。
水や電気は、各地にRVパークという車中泊施設があり、そこで補給して、汚水の処理もすることができます」
定住していないということで、収入や税金、住民票などの扱いも気になるところ。
「YouTubeの収益はあまりありませんが、私はキャンピングカー系の雑誌などでライターとしての仕事を、夫は映像の仕事依頼がくるようになったので頑張りたいです。
住民票や車庫証明は実家に置いていて、各種手続きは行っています。
税金もまとめて納付すると特典としてポイントが付与されることがあるので、工夫して納めています」
むっちゃんは、そんな旅を体調が許す限り、残り6~7年は続けたいそうです。
「日本一周は、残すところ奈良県と沖縄県だけになったので完走したいです。それ以外にも、キャンピングカーで行けるかわかりませんが、いろいろな離島にも行ってみたいです。
さらには、キャンピングカーの楽しさだけではなく、災害支援もできる車だということを発信していきたいです。
千葉県が大きな被害を受けた令和元年房総半島台風のときに、近くに滞在していたので、私たちの車で電源供給車としてボランティア活動をしたこともあります。
そのような人助けができる活動も続けながら、バンライフを続けたいです。
病気が悪化して車中泊ができなくなれば、裏方としてバンライフの発信者として、キャンピングカーやバンライフに恩返しをしていきたいですね」
そうキッパリと話すむっちゃんが進もうとしている道筋は、“ガタガタ”しているようには見えません。
PROFILE むっちゃん
1985年、神奈川県生まれ。大学卒業後、クリーニング系企業に就職。職場で夫のがっちゃんと出会う。2018年に退社し、キャンピングカーで日本一周の旅に。
文/CHANTO WEB NEWS 写真提供/がっちゃん、むっちゃん