赤ちゃんのスキンケアのイメージ

 

前回の記事「子どものアレルギーは遺伝だけでなく、環境にも左右される」では、アレルギーが起こるしくみについて、国立病院機構相模原病院臨床研究センター長であり、日本アレルギー学会・理事長を務める海老澤元宏先生に聞いてきました。

 

アレルギー疾患には、いくつか種類がありますが、アトピー性皮膚炎もそのひとつ。海老澤先生は「アトピー性皮膚炎がその他のアレルギーにも影響を与える」と話します。一体なぜなのでしょうか?

乳児期のアトピー性皮膚炎と食物アレルギーの意外な関係

乳児期のアトピー性皮膚炎は、生後3か月以内の乳児期に発症することの多いアレルギー。

 

かゆみを伴う顔面の湿疹が最初の症状として現われることが多く、よくなったり悪くなったりを繰り返す傾向があります。

アトピー性皮膚炎の赤ちゃんの皮膚はアレルゲンが侵入しやすい

実は、赤ちゃんのアトピー性皮膚炎に、食物アレルギーが続発して発症するケースが多いことをご存知でしょうか?

 

アトピー性皮膚炎の赤ちゃんの皮膚は表面が薄く、アレルゲンが皮膚の奥まで侵入しやすい状態。食べ物に対するIgE抗体が作られやすいと考えられています。

 

実際に、いざ離乳食を始めようとする頃には卵や牛乳、小麦などに対するIgE抗体が非常に高い状態になっていた、ということも少なくありません。

 

初めて与えた離乳食がアレルゲンだった場合は、最悪「アナフィラキシー」という急性のアレルギー反応を起こし、危険な状態に陥ることも十分にあり得ます。

食物アレルギーの引き金になりやすい、赤ちゃんのアトピー性皮膚炎を重症化させないことが大切です。

湿疹とアトピー性皮膚炎のちがいは?

「アトピー性皮膚炎だったら病院を受診するけれど、これはただの湿疹では?」「あせもと、かゆみのある発疹とアトピー性皮膚炎の違いがわからない」と思う保護者の方もいるかもしれません。

 

見分けるポイントは、かゆみの持続性。乳児であれば、2か月以上慢性的に皮膚の表面がざらつく状態が続いたら、アトピー性皮膚炎と診断される可能性が高いでしょう。

 

まだ喋ることのできない赤ちゃんが、かゆみを感じているかどうかは、保護者に肌を擦り付けたり、手で顔を引っ掻いたりしていないかを見て判断します。

 

ただし、自己判断は危険。気になる様子がある場合は必ず専門医に相談しましょう。

「アトピー性皮膚炎」放置が危険な2つの理由

「赤ちゃんには湿疹があることが当たり前」と思って放置してしまうと、アトピー性皮膚炎やアレルギーがどんどん悪化していく場合もあるため注意が必要です。

次々と症状が変わっていく“アレルギーマーチ”のリスクが増大

乳幼児期にアトピー性皮膚炎の管理を怠ると、長年アレルギーに悩まされる可能性があります。

 

アレルギーは、年齢とともに自然治癒力で治っていく場合もありますが、成長とともに次々と異なるアレルギー疾患にかかることもあるからです。アレルギーの症状が次々と変わっていくことを、“アレルギーマーチ”といいます。

 

たとえば、乳幼児期にはアトピー性皮膚炎や食物アレルギー、幼児期にはぜんそく、学童期前にはアレルギー性鼻炎や花粉症というように、年齢によってアレルゲンと症状が変わっていく可能性があります。

 

初期段階である赤ちゃんのアトピー性皮膚炎が、アレルギーの経過の鍵を握るといっても過言ではありません。

“バリア機能”が失われ、トラブルを招きやすい皮膚に

強いかゆみのある湿疹が慢性的に続き、赤くなり、ジクジクとしたブツブツに。お子さん、かきむしるうちに皮がむけて出血し、かさぶたになってしまうことも。

 

このような状態を放置すると、アレルギーの連鎖を生むだけでは済みません。

 

本来皮膚は、皮膚の外側から細菌やアレルゲンが入ってくるのを抑え、体の内側からは水分の蒸発を防ぐ「バリア機能」が働いています。

皮膚のバリア機能を失った重度の火傷を負った方が、感染症を起こしやすいように、私たちの体にとって、皮膚は外界から守ってくれる大切な組織なのです。

 

しかし、アトピー性皮膚炎の子どもは「バリア機能」が壊れた状態。

 

そのまま放っておくと、皮膚につく細菌に感染しやすく、水いぼやとびひ、単純ヘルペスなどの皮膚病にかかりやすいリスクが高まります。

アトピー性皮膚炎の治療は「ステロイド」が有効

アトピー性皮膚炎の治療の切り札は「ステロイド外用薬」です。

 

過去にステロイドに対する誤った報道があり、恐怖心を抱く方もいるようですが、皮膚の炎症を抑えるには、ステロイドの塗り薬が最も効果があります。

 

そのため、赤ちゃんでもそう痒を伴う湿疹には、症状に応じたステロイドを処方します。

 

ただし、子どものアトピー性皮膚炎はほとんどが軽症、あるいは中等症ですので、ステロイド外用療法にスキンケアをしっかりと行えば、コントロールできます。

アトピー性皮膚炎の大敵は乾燥 スキンケアが鍵を握る

アトピー性皮膚炎の子どもは皮膚がとても乾燥しやすいため、日頃の保湿対策も重要。もちろん、これはアトピー性皮膚炎の子どもに限りません。予防としてもスキンケアは有効です。

特に、冬場の乾燥は大敵。体内の水分を蒸発から防ぐ「バリア機能」が失われやすいので注意しましょう。

 

また、夏場の汗や紫外線など「皮膚を刺激するもの」は、アトピー性皮膚炎を悪化させる原因にもなります。

 

汗や汚れはすぐに洗い流し、皮膚が乾く前に保湿剤を使って、皮膚から水分が蒸発することを防ぎましょう。

 

他にも、化学物質や汚れ、衣類に使われる素材などが肌の刺激になることも。その子のアレルゲンにもよりますが、タンパク質や余計な添加物が含まれていない、シンプルな素材で作られている石鹸やシャンプー、保湿剤を選ぶことがポイント。

 

お子さんの肌を守るためにも、将来的なアレルギーのリスクを少なくするためにも、スキンケアはしっかり行いましょう。

 

PROFILE 海老澤元宏

国立病院機構相模原病院臨床研究センター・センター長。日本アレルギー学会・理事長。日本小児アレルギー学会・副理事長。厚生労働省アレルギー疾患対策推進協議会・座長。専門は小児アレルギー疾患。

取材・構成/仲宗根奈緒美