親による過干渉や過保護が、子どもの成長によくないというのは、一般的によく言われることです。しかし、いざ親になってみると、自分の行動を客観的に見るのは意外と難しい場面も。そもそも、なぜ過干渉や過保護が問題なのか?そして、自分がそうなっていないか判断する方法は?子育ての専門家である東京成徳大学教授の田村節子さんに詳しく教えていただきました。
親が、子どもの頭や手足になることの危険性
── 過干渉と過保護の定義を教えてください。
田村さん:過干渉は、子どもが考えるべきことを親が考えて、子どもに行動させること。親が子どもの頭になってしまうことです。一方、過保護は、子どもが行動すべきことを親がやってしまうことを言います。親が子どもの手足になってしまうんですね。
── なるほど。いずれも子どもがすべきことの一部を親が代わりにしてしまうんですね。反抗期に過干渉、過保護をやってしまうと、どうなりますか?
田村さん:子育ては何のためにやるかと言ったら、自立のためです。反抗期は、自分でやってみて、自分をつくっていくのにとても大事な時期なんです。自分の頭で考えて、自分で行動して責任をとる、というのが自立ですよね。それなのに親が子どもの頭や手足になっていたら、当然、問題が生じます。
過干渉の親に反抗し続けられる子はまだ分かりやすいけれど、あきらめて反抗しなくなるケースもあって、これも心配です。過干渉な親に育てられた子をカウンセリングするとき、よく聞かれる言葉が「自分がない」です。自分の考えを確立すべき時期に、親が子どもの頭になって代わりに考えてしまっているわけですから、自分が何が好きで何が得意か分からないという感覚に陥ります。
過保護は、さまざまなことを親が代わりにやっているので、いざひとりで行動するとき、どうすればいいのか分からなくなる。社会性が身につかない、ということになります。
「子どもが学校で叱られないように」と思って、親が準備を全部やってしまうことがあるのですが、忘れ物をして叱られたらラッキーです。子どもは「もう忘れないようにしよう」と思うし、叱られることにも慣れます。ひとつスキルを身につけたことになるんです。それがないと、ちょっと叱られただけで、すごい心の打撃になってしまう。
ゲームでは、アイテムを身につけて、どんどん強くなりますよね。子どもの成長で言うと、そのアイテムは社会的スキルに当たります。過保護は、そのアイテムを親が取り除いてしまっている感じになるんです。
過干渉の簡単な見極め方
── 過干渉も過保護も、子どもを可愛く思っての行動なのに、本人が後々とても困ってしまうんですね。自分がそうなっていないか、見極める方法はありますか?
田村さん:過干渉の見極め方は簡単です。自分と子どもが並んでいる状況で、誰かに、子どもに向かって質問してもらってください。それでだいたい分かります。
子どもに向かって聞いているのに、親が思わず答えてしまうなら、それは過干渉です。または、子どもが答えるんだけど、親の顔をしょっちゅう見る。友達でもいいですよ。友達といて、自分が何か答えるときに、しょっちゅう友達の顔色を見るとか。カウンセリングをすると、過干渉な家庭の子は、そういう子がすごく多いです。
過保護の見極め方は、ちょっと難しいんです。たとえば、この話を聞いて過保護ととるかどうか。ある中学3年の女の子が夜、受験勉強をしていました。お母さんに、後で食べようと思って「おせんべいどこにある?」と聞いたところ、お母さんは、棚にあるおせんべいを持ってきて、「はい、ここだよ」と言って渡します。それで「お腹すいてるんだよね、食べなよ」と言ったところ、その子は「今食べたいんじゃないんだよ」と怒って、親子関係が悪化してしまったという事例です。
この親子は一事が万事で、毎回同じことが起きています。「どこが悪いの?」と思うかもしれないけど、子どもは「どこにあるの?」と聞いているわけですよ。だから「あそこ(棚)だよ」でいいんです。でも、お母さんは、「どこにあるの?」と聞かれたら、「いるんだろう」と先回りして持ってきてしまう。
この先回りが問題です。もっと先回りして、「お腹がペコペコになる前に食べな」とか言うと余計にうるさくて、「うっせーな」となる。この子は、「あらゆることで、ずっとそうされてきた」と言うんです。そこまで求められていないのにやってしまうのは、過保護になります。
それから、子どもの友達と親ぐるみで遊んでみると、過干渉や過保護ではないか分かることもあります。同年代の子がどの程度自分のことをやれているか見ることができますから。そういう機会がなければ、参観日でもいいです。よく観察して見ていると、ある程度分かります。
効率が悪くても、子どもにやらせる
── 子どもが何歳になったら、過干渉、過保護に特に気をつけたほうがいいですか?
田村さん:親はある日、突然過干渉や過保護になるわけではありません。大事なのは、子どもが出来るようになったら、その段階に応じて少しずつ手放すことです。親は子どもとつながっているような感覚があって、気づかずに過干渉、過保護をやっていたりするんだけど、子どもが反抗して気づかせてくれる、ということだと思います。
だからぶつかるのはすごくいいことです。私も含め、完璧な親なんていませんから。でも子どもがそういう態度を出してくれば、嫌なんだと分かるじゃないですか。
親がやったほうが効率がいいことも多いのですが、効率は無視して、なるべく子どもにやらせる。当然失敗するけれど、それが勉強になります。それに、親がやる方がその時は効率が良くても、子どもの一生を考えたら絶対に効率悪いですよ。大人になって、うまく行かなくなってしまいますから。
── 過保護、過干渉にならないために、アドバイスはありますか?
田村さん:親が自分の時間を持って、心にゆとりを持つことですね。何もなくても、ちょっとしたことが見逃せなくて、つい口出ししてしまうと思うんです。親の気持ちにゆとりがないと、拍車がかかります。
だから親がいかにゆったりできるか。それには、父親や他の家族の協力が大事だし、外のサービスも使えるものは使う。子育ては大変だけど、力を抜いて楽しむことが大切だと思います。
私は男の子3人を育てましたけど、自分の子は自分の体から出てきてるから(自分の考えが)伝わるような錯覚が起きるんですよね。でも伝わらなくて、「どうしてだろう?」とすごく不思議に思ったこともあったんですけど、考えてみたら、子どもは身内ではあるけれど、別の人間という意味では、限りなく他人なんです。
他人だと思うと、親の言うとおりにならないのは当たり前。だから、自分の好きなやり方でやらせる。子どもに失敗させたくないけど、それも勉強ですから。
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親が手伝ったほうが効率が良くても、「子どもの一生を考えたら、効率が悪い」という言葉が心に刺さりました。子どもの成長は早いので、親は気持ちの切り替えに苦労することもあります。でも心に余裕を持って、自立に向かう子どもを見守りたいと思いました。
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PROFILE 田村節子さん
東京成徳大学大学院教授・博士(心理学)。長年、小中学校のスクールカウンセラーを務める。著書に『子どもに「クソババァ」と言われたら-思春期の子育て羅針盤-』など。
取材・文・撮影/木村彩