「中学受験の正体」を“イロハ”から進学塾VAMOSの代表・富永雄輔さんに教えていただきます。
今回は、併願作戦の立て方について。偏差値を軸に第一志望、第二志望…と決めがちですが、「志望校に序列をつけるのはすすめない」と富永さんは言います。その理由とは…?
第一志望校は本人の意思を尊重
6年生の冬になり、受験校を絞る段階になると、毎年必ず出てくるのが「第一志望校はもっと受かりやすいところにしなさい」「現実をみなさい」と子どもに強制する保護者です。
もし少し難しそうでも、本人に志望している学校がある場合、僕は、その学校を受けることをおすすめしています。「受かりたい学校がある」ことは、子どもが勉強に打ち込む原動力になるからです。
第一志望校は本人の意思を尊重し、併願校は現実路線を保護者が準備する、これが僕が考える受験校選定の王道です。
中学受験は、多くの時間を受験勉強に費やしますが、第一志望校に合格できる子どもは受験生の3割と言われています。
わが子が第一志望校に受かるとは限らない ── 。保護者はそのことを念頭に置いて併願校を決める必要があります。
保護者が併願校を好きになる必要性
仮に第一志望校に不合格だったとしても、本来、それほど嘆く必要はないはずです。
子どもは順応性が高いので、どんな学校に行っても楽しめるし、そこできちんと学力をつけることができるからです。
それなのに、保護者が表面的なランキングにとらわれて「偏差値〇以下の学校は行く意味がない」「御三家に受からなければ公立へ行け」といった態度をとることのほうが問題です。
子どもが保護者の態度に影響されながら受験生活を送り、第一志望校に受からなかった場合、深く傷つくことになるでしょう。
せっかく受かった併願校に進学しても、前向きな気持ちで過ごせず、その後の大学受験や就職活動でも満足できない…ということになりかねません。
保護者は子どもに「この学校は良くない」という先入観を与えないよう気をつけてください。
それには保護者自身が併願校を好きになること。併願校は、受かりそうな学校のなかから「保護者が通わせたいと思える学校」を選ぶ。これにつきます。
「通わせたい」と思える、その尺度は家庭によってそれぞれだと思います。僕なら、時間が大事だと思うので、「通学時間が短い」ことにこだわりますね。
あとは、第一志望校対策の勉強をたくさんしているでしょうから、第一志望校に問題傾向の似た学校を選ぶのもたいせつです。問題が似ているなら、教育方針や校風も似ている可能性があります。
保護者が併願校を決めたら、次は、子どもが「行きたい」と思えるようプレゼンしてください。
難しい話をする必要はありません。本人が水泳好きなら「温水プールがあるよ」、ダンスが好きなら「ダンス部があるよ」、医師に憧れているなら「医学部にたくさん進学しているよ」など具体的なほうが、子どもはイメージがしやすい。
子どもに合わせたアプローチで、子どもをその気にさせるのがこの時期の保護者の大事な役目です。
学校の序列を気にするのは無意味
さらに言えば、併願校は「志望順位を意識しない」くらいの気持ちでいたほうがいいでしょう。
併願校に優劣をつけると、志望順下位校にしか受からなかった場合の、精神的ダメージが大きい。
志望順下位校であっても、僕に言わせればみんないい学校です。
たとえば、東京都の男子校で、本郷、攻玉社、城北、世田谷、巣鴨などの学校は「どっちが上だ」などと比較されますが、どこもしっかり生徒を育てています。
進学実績が、A校は東大15人で、B校は5人だったとして、B校が悪いとは言えません。翌年には逆転しているかもしれないし、東大の数は少なめでも、一橋や東工大、早慶の数は多いかもしれない。
そのあたりは「誤差」の範囲です。
入学金を払う優先順位は決めておいていいのかもしれませんが、それを子どもにわざわざ言う必要はないでしょう。
受験の結果はどうなるかわかりません。
どの学校に決まっても子どもが楽しく通学できるよう、第一志望校は「子どもが行きたい学校」、併願校は「受かる学校のなかから、通わせたいと思える学校を選ぶ」とよいでしょう。