ママ友との会話で「○○ちゃんは小顔でいいね~」「うちの子、地黒で将来心配なのよね」など、子供の見た目に関する話題が出ることはないでしょうか。

 

また「ママ太っちゃった、最悪!ダイエットしなきゃ」などと日常的に口にしている人も(筆者含め)少なくないのではと思います。

しかしこういった「見た目が良いほうが幸せに生きられる」という価値観は「ルッキズム」と呼ばれ、差別や生きづらさの原因になるとして問題視されてきています。

 

今回は、ルッキズムが子育てに与える影響や、私たち大人にできることはなにかを考えてみます。

ルッキズムとは?「不必要な外見重視」

ルッキズムという単語は1970年代から使われ出したとされていますが、日本ではまだまだ認知度が低いのが現状です。

 

そこで、まずは「ルッキズムってなに?」という定義からみていきましょう。

 

ルッキズムは、英語の「Look(見た目、外観)」に「~ism(~主義)」を組み合わせたもので、日本では「外見至上主義」「容貌差別」などと訳されています。

 

「あの人気カフェのバイトは顔採用」などルックスの良い人が優遇されるケースや「薄毛は恥ずかしい」という前提の発毛剤CMなど、本来必要ないはずの「外見重視」の価値観、そしてそこから外れた人に不利益を与えたり差別したりする行為を「ルッキズム」といいます。

 

セクハラ・パワハラなどと違って法的な規制や罰則はありませんが、深く社会に浸透している考え方であり、「シミ・しわ・たるみは絶対作らない」「40代!?若く見えますね!」など、日常会話と思える言葉も無意識のルッキズムから出ています。

 

もちろん、容姿の美しい人を見て「きれいだな」と感じるのは個人の自由です。

 

ただ、「きれいでさえあれば良い」さらに「きれいでないと価値がない」と考えたり、誰かに言ったりするのはルッキズムになってしまいます。

ルッキズムを抱えていると生きにくくなる?

「見た目がよければ幸せ、見た目が良くないとダメ」という共通の価値観が根づく社会では、さまざまな弊害が起こりやすくなります。

 

やせなければと思うあまり過剰なダイエットをして、栄養不足から貧血やメンタルの不調、月経が止まるなどの悪影響が出る人も。反動で過食と嘔吐を繰り返すなど「摂食障害」の患者は全国で推定22万人もいるといわれています。

 

また、美容整形手術や脂肪吸引術には失敗や合併症・後遺症・死亡例も多く、イギリスの英美容整形外科協会(BAAPS)が警告を出しています。

 

肉体的なダメージがなくても、容姿がよくないとダメという価値観を抱えたままだと、「私は容姿がよくないから」と仕事や恋愛をあきらめたり、自己肯定感が低いままで人生を送ったり、理不尽な要求にもNOと言えない…などのマイナスの影響が考えられます。

最近ようやく意識されはじめた「ルッキズム」

「世の中そういうものだから」と、長年、多くの人があきらめてきたルッキズムの問題。

 

しかし最近では五輪開会式の演出で女性タレントの体型を揶揄するような提案が問題になるなど、ルッキズムを意識し、なくしていこうという動きが広がり始めています。

 

「ミスコン」をなくしたり、審査基準を容姿の美しさから学問や社会貢献などにシフトしたりする大学が増えました。

 

就職活動時に性別や容姿でふるいにかけられることがないように、履歴書の性別欄や写真を廃止しようという署名運動が起こり、現在では性別欄のない履歴書が発売されています。

 

フランスでは2017年に極端に痩せているモデルの広告起用を禁止する法律ができましたが、国内でも、ダイエット・薄毛・筋肉増強・美容整形などのコンプレックスをあおる広告の規制が強化されたり、「色白=美しい」という画一的な価値観をなくすため、自社製品から「美白」という文字を撤廃した化粧品メーカーも話題になりました。

 

人気トリオ「3時のヒロイン」の福田麻貴さんも、2021年春に「私達は容姿に言及するネタを捨てることにしました!」と宣言。

 

同じくタレントのバービーさんも「ボディポジティブ」を提唱し、自分の身体に合った心地よさを大切にした下着をプロデュースしています。

子供は親の価値観を受け継いでしまうから

現在子育て中のママ・パパも、これまでの人生で、見た目をからかわれたり不利な扱いを受けたりと、嫌な思いをしたことがあるのではないでしょうか。

 

それでも無意識に刷り込まれたルッキズムに根ざした言動がふと出てしまう…それが今の日本の現状ではないかと思います。

 

子供は周囲の人たちすべての影響を受けて自分の価値観を作っていきますが、小さいうちほど親の価値観というのは大きな存在でしょう。

 

子育て中の親として、ルッキズムを子供に植え付けないための方法は次のようなものがあります。

「あなたは~だから」と決めつけない

子供がフリフリのドレスを着たがったときに、内心(あまり似合わないかも…)と思っても「こういうのは○ちゃんみたいに可愛い子じゃないと無理だよ」などと却下すると、子供は傷つき「自分は顔がかわいくないから、好きな服を着る資格はないんだ」と思ったまま成長してしまうかもしれません。

自分にも「見た目が悪いとダメ」と言わない

パパが「ママ太ったよね~、完全におばさん体型」などと言ったり、子供から「ママはなんでお化粧するの?」と聞かれて「化粧しないですっぴんで外に出るなんて犯罪よ!」と冗談のつもりで言うのも知らず知らずルッキズムを植えつけてしまう可能性が。

 

自分のことを落とす「自虐ネタ」ならよいのでは?とも思えますが、「私なんてデブで終わってますよ~」といった発言も、似たような体型の誰かを傷つけてしまうかもしれません。

「ほめたつもり」にも注意

上のようなネガティブな発言はまだ分かりやすいのですが、いっけん問題ないように見える

 

「○○ちゃんのママ、若く見えてお子さんがいるようには見えない」 「○○ちゃん色白でお人形さんみたいにかわいい」

 

といった言葉も、子供の前で言うことでルッキズムを刷り込んでしまう可能性があります。

 

北欧などの国では、たとえ自分ではほめ言葉のつもりでも「人の容姿について口に出すのはマナー違反」と小さい頃から教えられるそう。

 

ほめるときは「いつも遊ぶときに声かけてくれて優しいね」など、外見に偏らないようにできると良いですね。

おわりに

現在の社会には、まだまだ見た目が良い人が得をする機会も多くあります。

 

「これが正解」とばかりに有名人やモデルのルックスが掲げられ、そこから外れないようにみんなが努力する...という風潮も強く残っています。

 

しかし、見た目が良いことはあくまでも長所の1つ。世の中には容姿以外の要素もたくさんあることを子供に伝えたいですね。

 

さらに美の基準は時代や文化など社会的な背景、相手を好きか嫌いか…という主観によっても変わるもの。

 

そんな外側の基準よりも、本来は「自分がここちよく毎日を過ごせるかどうか」が最優先されるべきではないでしょうか。

 

「太ったらアウト」と過度なダイエットをするのではなく、動きやすく体調が良い体重をキープできるように心がけていればOK。

 

親がそう考えていればそれはきっと子供にも伝わり、他人の容姿をあれこれ判断することもなくなることでしょう。

文/高谷みえこ

参考/厚生労働省「摂食障害治療及び支援の実態把握及び好事例の把握に関する検討」 https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000798701.pdf
BBCニュース「ヒップアップの整形手術で死亡例、最も危険と警告も」 https://www.bbc.com/japanese/45743674
日本摂食障害学会「痩せすぎモデル規制学会声明」http://www.jsed.org/news/%E7%97%A9%E3%81%9B%E3%81%99%E3%81%8E%E3%83%A2%E3%83%87%E3%83%AB%E8%A6%8F%E5%88%B6%E5%AD%A6%E4%BC%9A%E5%A3%B0%E6%98%8E/