「夫婦の問題にフタをして、気づかないフリでやり過ごす ── そんな“先送りグセ”と“向き合わない姿勢”が、家庭内孤立と孤独を生んでしまう」と話すのは、コラムニストの犬山紙子さん。問題が小さいうちに夫婦で話し合う習慣をつくるには、どうすればいいのでしょう。話し合えない夫婦の原因をさまざまな視点から考えます。

「話し合いの成功体験」を積むことが大事

── 夫婦の信頼関係を損なわないためには、問題が小さいうちに話し合いで解決する習慣づけが大事というのはよくわかりますが、話し合いが苦手な夫婦にはかなりの難題です。きっかけづくりとしてどんなことを心がければいいでしょう?

 

犬山さん:

まずは、どんなことでもいいので小さな議題を見つけて話し合ってみるといいと思います。そうして少しずつ成功体験を積んでいくんです。

 

何事もそうですが、経験値や場数を踏んでレベルアップしていくことが大事なんですよね。普段からあまり話し合いをしない夫婦が、問題が起きたからといって、いきなり大きな議題をぶつけだしても、解決まで持っていくのはなかなか難しいんだなと取材の中で感じました。

 

── 段階を踏んでいくことが大事だと。

 

犬山さん:

話し合いのステップを踏んでいくなかで、それぞれ夫婦のルールができていくのではないでしょうか。例えば家事分担の問題にしても、アプリなどで家事量を可視化して、どれくらい負担がかかっているかを示したほうが伝わりやすいこともあります。

 

夫婦の性格やタイプによっても効果的な方法は違ってきますよね。試行錯誤しながら夫婦でルールを作っていけるといいと思います。夫婦ふたりでうまく向き合えない場合は、専門家の手を借りるという方法もあります。

 

── 犬山さん自身も「夫と話し合うときはアンガーマネジメントを意識した」とおっしゃっていましたが、自分の“コミュニケーションのクセ”に目を向けて、自分自身の傾向を把握するのも大事ですよね。

 

犬山さん:

そうですね。例えば、口下手でうまく意図が伝わらないなら、あらかじめ問題を書き出して整理しておくとか、感情的になりがちなタイプなら、冷静に伝えるために手紙を書いて客観視してみるとか。自分に合った方法を見つけられるといいと思います。

 

ただ、夫婦の力関係を考えたときに、パワーの強い側が自分の内面を整えておくことが特に大事だなと思っていて。というのも、家庭内ではどうしてもメインの稼ぎ手の立場が強くなりがちだからです。妻が出産後にキャリアアップを諦めたり、ペースダウンするケースが多いので、必然的に男性側の発言権が強い家庭が多いのではないでしょうか。

「どっちが稼いでる」という議論はナンセンス

── 妻のほうが稼いでいる家庭だと、逆バージョンもありそうです。結婚当初、犬山さんの知名度が高かったことから“格差婚”と言われたこともあったようですが、どのように感じていましたか?

 

犬山さん:

本当は夫は音楽や映画出演など、幅広く活動していたんですけどね。それを知らない人からは、格差婚とか夫がヒモ扱いされたりと、正直かなりモヤモヤする発言もありました。

 

でも私たち夫婦としては、そういったことはまったく気にしていませんでした。夫が率先して家事を担当してくれるから私が働くことができるわけで、とても感謝していますし、お互いに自分の仕事に誇りをもってやっています。私自身、稼いだお金はふたりで頑張って得たものだという考えです。

犬山紙子さんの夫・劔樹人さん

── 同じ方向を向いて進んでいけるパートナーがいると、それだけで心強いですよね。

 

犬山さん:

本当にそう思います。著書でたくさんの夫婦の取材をしたことで、自分たちのことをあらためて振り返る良い機会にもなりましたし、「うちらも頑張ってきたよね」とお互いを認め合う気持ちがいっそう強くなり、絆が深まった気がしますね。

 

夫婦の問題を解決するには、その問題に対する温度差を埋めてふたりで向き合う姿勢が大切だとお話ししましたが、解決を阻んでいるものとして、もうひとつ根深い要因があると思っています。

夫も「無意識のジェンダーバイアス 」に苦しんでいる

── 根深い要因とは、何でしょうか?

 

犬山さん:

男女の役割に対する「ジェンダーバイアス」の問題です。女性だから夫を立てるべきとか、母親だから家事や育児を率先して引き受けなくてはいけないといったジェンダールールに囚われている人は意外なほど多いです。

 

それは女性だけではなく、男性も同様です。“男だから弱音を吐いたり、人前で泣くわけにいかない“とか”大黒柱として家族を養うべき”といったジェンダー観に囚われ苦しんでいる場合もある。そうしたジェンダーバイアスが、夫婦問題を覆い隠してしまうケースも多いのではないかと感じています。

 

── 男性側も“らしさ”に苦しめられているケースがあるという視点をもつことで、お互いにもっと歩み寄ることができるといいですよね。

 

犬山さん:

いまだに「仕事の愚痴は家庭に持ち込まない」ことが美徳のように言われることがありますが、じゃあ男性はどこでストレスを吐き出して、どうやって心を保てばいいんだろうって思うんです。

 

女性のなぜ女性はキャリアを諦めたり、家事育児を多く担わなきゃいけないんだろうという辛さ、男性の“育児をしたいのに育休を取りにくい、仕事で人を養わなければ一人前ではない、弱音は吐いてはいけない”という辛さ。男性も女性もジェンダーの”らしさ“から抜け出すために何ができるか、夫婦で話すこともできるかもしれない。心の距離もグッと縮まる気がします。

 

PROFILE 犬山紙子さん

コラムニスト。1981年、大阪府生まれ。2011年、“美女にもかかわらず負けている恋愛エピソード”を収集した著書『負け美女〜ルックスが仇になる〜』(マガジンハウス)でデビュー。『言ってはいけないクソバイス』(ポプラ社)など計14冊の著書を上梓。近年はテレビコメンテーターとしても活躍。

取材・文/西尾英子 画像提供/犬山紙子