中学生のトニーニョくん(15歳)と3人で暮らす、漫画家の小栗左多里さんとジャーナリストの夫・トニーさん。

 

夫婦で子育てをしていくなかで「異文化で育った者同士はどうやったら折り合えるのか?」と試行錯誤した経験から感じたことや自分の幼少期の体験を、それぞれに語ります。

 

今回は「ベルリンの学校行事」について。ドイツに住んでいた頃、トニーニョくんが通っていた学校の行事について印象に残っているエピソードを語ってくれました。

楽しいイベント「ファン・デー」を、より楽しむ方法

ベルリンの息子の学校では2年に1回「ファン・デー」という日があった。訳すと「楽しい日」、内容は日本の「バザー」に近い。学校内外からお客さんを集めて食べ物を買ってもらったりゲームで遊んでもらったりして、クラスでの活動費用を集めるのが目的。

 

この学校は小学校から高校まであって生徒数も多く、敷地も広いため、校門から中庭までたくさんの屋台が並ぶ。親は役割を分担し、手作りのケーキやお菓子のほか、その場でワッフルやハンバーガーを作る。手芸品や協賛企業の提供品の販売、自然保護などに寄付を募るブースもある。

大人気のゲームはなんと「牢屋ごっこ」!?

ゲームはいくつかあって、ちょっとしたお菓子がもらえる輪投げなど、低学年向けのものが多い。ボルダリングのような今どきのものもあるけれど、一番人気だったのは、なんと「牢屋」だ。木枠を使って簡単に作ってあり、入場料は1回50セント。

 

牢屋ってあの牢屋?お金を払って入るの?と最初は意味がわからず2回トニーに聞き直したが、ほぼあの牢屋であった。しかし信じられないのは大人だけで、牢屋の周りには子どもがわんさか集まっている。息子も「牢屋!?入りたい入りたい!」と喜んで走っていった。

小栗さん連載イラスト1

その後ろ姿を見送りながら、そんな発言は今だけでありますように…と祈る。中に入った子たちは枠の隙間から手を出して「出してくれ〜!」「食べ物くれ〜!」と叫び、外にいる子たちは「ダメだダメだ!」と鬼看守になり、魚河岸のように賑わっている。

 

とはいえ、牢屋内は他にやることがないので、短期間で出所する者が多いようだ。「二度と帰ってくるんじゃねえぞ…」私の中の鬼看守も心で声をかけてみんなを見送った。

老若男女がエアロビクスに勤しむ光景にびっくり

お店を見ながら歩いていると、トニーは友達100人いるのかと思うほど、次々に挨拶しまくっている。普段から学校での親の活動に参加しているからだ。そしてこういう日は生徒と家族はもちろん、学校と学童の先生や職員も家族とやってくる。これは日本とは違うところ。私たちは、いつも感じがいい学童の女性スタッフが配偶者と来ているのを見つけ、一緒に中庭に向かった。

 

中庭に行くとステージが作られ、空間をあけて後方の屋台寄りにはテーブルと椅子が並んでいる。私たちはその一つに座ってハンバーガーなど食べつつ、いろんな話をした。ステージでは、親が参加しているバンドの演奏とか、クラブ活動の担当者がそれぞれ自分のクラブのアピールをしている。

 

しばらくすると体育の先生が出てきて、「エアロビクスの時間でーす!」と宣言し、音楽が流れ始めた。「みなさん集まってー!体動かしましょう」と呼びかける。

 

日本育ちの私は「いやいや、踊らないでしょー?特に中高生なんて恥ずかしがるじゃん…」と思ったその瞬間、いろんな方向からわらわらと人が出てきて、ステージ前など空いている場所を埋め尽くした。見れば老若男女が集い、最初からノリノリだ。照れも迷いもない。みんな先生と一緒に全力で両手を上げ、腰をひねり、腿を上げている。

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高校生の男女も超真剣。君たちは思春期ではないのか!?…しかしまあ「たりぃ」とか言ってる子たちはそもそもこの場には来ていないのだろう。最後は見ていただけの者たちも一緒に「イェー!」と盛り上がって終了。

物怖じせず関わることが「楽しい思い出」をつくる

思い返すと、こうして積極的に参加する人たちの姿はいろんなところで目撃した。たとえば街中で開催されるような自然保護関係イベントでも、クイズやゲームに一生懸命トライしたり、発電関係の説明に熱心に質問したり。「聞いてみよう」「やってみよう」という人が、日本より多い気がする。

 

積極的に関わるともちろん得るものも多いし、「良い思い出」を自分自身で作ることになる。そしてそれは、踊らない人にも「いいイベントだった」という思い出を与えてくれることになる。私にとっても、この日は本当に「ファン・デー」になった。ありがとう、踊った人。

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文・イラスト/小栗左多里