極端な大雨や猛暑、台風の接近数の変化など、地球温暖化の影響と考えられる気候の変化に、私たちはどのように対応していけばいいのでしょうか?そのヒントは、朝ドラ『おかえりモネ』やSNSで話題の美しい空にあるといいます。
気象予報士・佐々木恭子さんにSDGsの13番目の目標「気候変動への具体的な対策を」について伺います。
SNSで話題の「美しい空の写真」たち
── SNSで空の写真が話題になったり、朝ドラ『おかえりモネ』は気象予報士が主人公だったり、「気象」への注目が高まっているように感じます。
佐々木さん:
たしかに私もそう感じています。私の講座の受講生の中には、SNSで美しい空を見かけてから天気に興味を持ち、勉強を始めたという方もいらっしゃいます。
SNSの空の写真といえば、『おかえりモネ』へ気象資料の提供もしている雲研究者の荒木健太郎さんは、有名ですよね。荒木さんは、ご自身のTwitterで美しい空や雲の写真を日々投稿されています。
「彩雲」などは、特に美しいですよね。
小さな水滴が集まってできた「いわし雲」や「ひつじ雲」「わた雲」に太陽の光が当たって、虹色に色付いて見える雲です。
── 美しい霜の写真をSNS上にシェアする「霜活」も話題になりましたね。
佐々木さん:
霜って、よく見るとすごくきれいなんですよ。ネット上には「#霜活」で、美しい霜の写真がたくさん投稿されています。
「霜活」は、これからの季節がまさにベストシーズンです。
よく晴れて風の弱い夜間は、放射冷却(地面の熱が宇宙空間に逃げること)がよく効きます。そんなときの翌朝は、芝生など地面付近にある植物に霜が降りている可能性がありますので探してみてください。
100円ショップで売っているスマホ用のマクロレンズを取りつけて撮影すると、美しい霜の結晶が撮れますよ。
マクロレンズを使用しての撮影は、腕を固定してズームするなど多少コツがいりますが、練習して霜の写真が撮れるようになったら、今度はぜひ雪の結晶を撮影してみてください。
雪の結晶については、雲研究者の荒木さんが中心となって行っている「#関東雪結晶プロジェクト」(※1)があります。タグ付きでSNSに投稿された雪結晶の写真と、天気などの状況から、雲の特性を調べ、首都圏で降る雪の実態を解明するというプロジェクトです。
私たちは、SNS映えする雪の結晶を撮影して楽しむことができますし、しかもタグ付きの投稿をするだけで、科学や社会に貢献するプロジェクトに参加していることになるのです。
ワクワクしますよね!
美しい空の写真が「防災の入り口」になる理由
── たしかに天気を身近に感じてきました。身構えるような難しい世界ではないんですね。
佐々木さん:
そこが大事なところです。
SNSで美しい空や雲に関する発信を続けることについて、荒木さんはいつも「防災のため」と言っています。
SDGs13番目の目標「気候変動への具体的な対策を」ということに関して言えば、変化する気候に対して適応する、安全に過ごすための「防災」も重要な側面です。
現代は極端な大雨や猛暑が増えていて、いつ気象災害に遭遇してもおかしくない状況。
誰もが気象災害を自分事ととらえて備える必要がありますが、常に防災しなければ!となると疲れてしまい、長続きしないですよね。
普段からSNSで素敵な空や雲の写真を投稿することで、それが多くの人の目に留まる。「これすごい!」「どういう現象?」という感じで、それまで空や雲に見向きもしなかった人たちが、空に興味を持ちはじめる。
すると、そういう皆さんは自分でもそんな空や雲に出会いたいと日々の空模様を気にかけ、天気予報にも耳を傾けるようになる。美しい空の写真が興味の入り口となり、それが、防災への第一歩になっているというわけです。
── ご自身の活動でも意識されることはありますか。
佐々木さん:
荒木さんの活動に刺激を受けて、私自身も講座や講演活動の際は、参加した皆さんの「天気を楽しみながら自然と防災が身についている未来」を意識して話すようにしています。
実際、講演の後に「佐々木さんから教えてもらった方法で、雨に濡れなくて済みました」なんて言われると本当にうれしくなります。
空や雲の変化から天気を予想するには
── 雨に濡れない方法があるんですか?最近はネットなどのピンポイント天気予報が便利ですが、そうしたものを活用するのでしょうか。
佐々木さん:
ピンポイントの天気予報は便利ですが、それだけでなく、空や雲の変化から「天気が変わりそうだな」ということを自分でも察知できるようになるとさらにいいと思います。
空や雲の様子から天気の変化を予想することを「観天望気」と言います。
例えば、ゲリラ豪雨と言われるような積乱雲によってもたらされる局地的な雷雨は、天気予報の技術が発達した現代においても、その発生場所や時間をピンポイントで予想するのは難しいんです。そこで役立つのが「観天望気」です。
── 具体的にはどのような「観天望気」があるのでしょうか。
佐々木さん:
「急に空が暗くなってきた」とか「急に冷たい風が吹いてきた」というのは、積乱雲が接近している兆しです。
ただ、それらの前兆を感じてからでは、避難に間に合わない場合もあります。
そこで、遠くの雲を見て、もう少し前の段階で天気急変の可能性を知ることが大事になります。
モクモクと空高く成長している最中の雲は、一般に「入道雲」と言われますが、正式には「雄大積雲」という名前で、積乱雲に発達する手前の状態の雲です。
雲の頭の部分に、ベレー帽をかぶったようなかわいらしい雲が見られることがあります。これは「頭巾雲」という雲で、雲の中に強い上昇気流があるときに現れます。そのため、雄大積雲の頭に「頭巾雲」が現れていたら、このあと積乱雲に発達するかもしれないことが読み取れるのです。
積乱雲まで発達すると、やがてその頭の雲は横に広がるようになってきます。これは「かなとこ雲」と言われ、積乱雲が限界まで発達していることを表します 。雲の下では、雷が鳴り、土砂降りになっています。
また、こぶのような形の雲が見え始めたら要注意です。これは「乳房雲」という雲で、積乱雲の進行方向前面の、かなとこ雲の底の部分に現れます。つまり、「乳房雲」が見えたら、積乱雲がこちらに向かってきているかもしれないということなのです。
これらの雲を見かけたら、すぐにレーダーの雨量情報を見て、その雲は今どこにあるのか、この後どのように動くのかチェックします。その上で、丈夫な建物に避難する、洗濯物を取り込むなど行動すれば、雨に濡れることもなく安全に過ごすことができるのです。
「大気の状態が不安定」や、天気予報の中に「ところにより雷」や「竜巻」というワードが入っていたら、それは積乱雲発生の可能性がありますよということです。
これらの言葉を聞いた日は、天気急変の可能性を少し意識して、時々空を見上げて、先ほど紹介した雲が見えたらレーダーをチェックするといいと思います。
このような習慣を重ねていれば、災害のときにも慌てずに的確にツールを使いこなせるようになり、防災につながりますよ。
── お天気ツールが便利になっても、空を見上げることも忘れてはいけませんね。
佐々木さん:
どちらかだけでは不十分だと思います。観天望気で空や雲に注目しながら、あわせてお天気ツールも活用していく。このような日常の活動が防災につながり、いずれ「気候変動への具体的な対策」に続いていくのだと思います。
PROFILE 佐々木恭子さん
取材・文/鷺島鈴香
(※1)気象庁気象研究所「#関東雪結晶プロジェクト」https://www.mri-jma.go.jp/Dep/typ/araki/snowcrystals.html