夕焼け

2015年9月の国連サミットで採択されたSDGs(Sustainable Development Goalsの略称で、持続可能な開発目標のこと)。

 

2030年までを期限とする世界共通17の目標により、よりよい世界の実現を目指しています。

 

17ある目標の13番目は「気候変動対策」。

 

地球温暖化による気候変動は、気候モデル研究の開拓者で地球科学分野の研究者である真鍋叔郎さんがノーベル物理学賞を受賞するなど、世界で注目が集まっています。

 

気象予報士として講演活動も行っている佐々木恭子さんに、地球温暖化の行方と私たちが起こすべきアクションについて聞きました。 

気候変動は自然要因か人間要因かを分けて考える

── このところ、「数十年に一度のレベル」と表現されるような自然災害が毎年のように起きています。「これらは気候変動によって起きているもの?」と気になってしまいますが、気象予報士として、どうご覧になっていますか。

 

佐々木さん:

気候が変動すること自体は、特に異常なことではありません。

 

そもそも気候とは、ある程度長い期間における気温や降水量などの大気の平均的な状態のことをいいます。

 

気候が変動する要因には、例えば太陽活動の変化、海流の変化、火山の噴火でエアロゾル(微粒子)が大気中に大量に漂うことなどがあげられます。これは、自然による気候変動であり、数十年、数百年という長いスパンでみると移り変わるのが当たり前のことなんです。自然要因で起こる気候変動を、人間が止めることはできません。

 

問題は、人間活動による気候変動です。  

地球温暖化の主な要因は人間活動にある

 ── では、人間活動による気候変動とは何でしょうか。

 

佐々木さん:

それが、地球温暖化です。

 

地球温暖化自体は、自然要因でも起こりますが、20世紀以降の温暖化は人間の営みによる温室効果ガスの増加で起きている可能性が極めて高いと考えられています。

 

── 温室効果ガス…。よく聞きますが、地球を温めるガスのことですよね。

 

佐々木さん:

そうですね。地球は太陽からのエネルギーで温められているのですが、その地球の熱が宇宙空間に出ていくときに、一部は大気に吸収されて蓄積されるんです。この熱が再び地表面を温める効果を「温室効果」といい、その効果を持つ気体を温室効果ガスと言います。

 

温室効果ガスによって、地球は生物の住みやすい気温に保たれている訳ですが、人間活動によって温室効果ガスが増えすぎ、温暖化が加速しているのが昨今の問題です。

 

主な温室効果ガスには、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、フロンガスがあります。このうち、特に二酸化炭素は、石油や石炭などの化石燃料の使用や、森林の減少など人間活動により増加しています。

 

それが地球温暖化に及ぼす影響が大きいと言われています。 

年間猛暑日が19日、熱帯夜が40日増加する未来

 ── 温暖化によって、気温はどのくらい上昇していますか。

 

佐々木さん:

1891~2020年の世界の年平均気温は、100年あたり0.72℃の割合で上がっています。日本は地球温暖化による気温の上昇率が比較的大きい北半球の中緯度に位置していることもあり、100年あたり1.26℃の割合で上昇しています。

 

日中の最高気温が35℃以上になる「猛暑日」も増えています。

 

── 確かに私が子どものころに比べて、猛暑日はすごく増えたな、という実感はあります。雪も降らなくなった気が…。このまま温暖化が進むとどんなことが起こりますか。

 

佐々木さん:

将来の気候は、主にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次評価報告書で用いられた「2℃上昇シナリオ」、と「4℃上昇シナリオ」に基づいて予測されています。

 

現時点を超える追加的な緩和策を取らなかった場合、21世紀末の世界平均気温は、産業革命時代の18世紀半ば〜19世紀以前に比べて3.2℃〜5.4℃上昇すると言われています。これが「4℃上昇シナリオ」です。

 

一方、パリ協定において決められた「世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して、2℃よりも充分低く抑えた」世界が達成された場合が「2℃上昇シナリオ」です。

 

── 何の手も打たずに「4℃上昇シナリオ」が実現した場合と、がんばって「2℃上昇シナリオ」に抑えた場合で、具体的にはどのような違いが出ますか。

 

佐々木さん:

日本に関しては、いずれのシナリオでも、すでに増加している猛暑日や熱帯夜の日数が更に増加します。

 

具体的には、2℃上昇シナリオでは、猛暑日の年間日数が約2.8日増加。

 

これが4℃上昇シナリオですと、約19.1日も増えるという計算です。辛いですよね。

 

それから、夜間の最低気温が25℃以上の「熱帯夜」は、2℃上昇シナリオで今よりも約9.0日増加、4℃上昇のシナリオでは約40.6日増加します。夏は熱帯夜が当たり前になる、ということです。

 

しかも、単に気温が上昇するだけでなく、氷河や氷晶の融解や海面の上昇、雨の降り方など、さまざまな気候変化を伴います。ですから、温暖化の問題に真剣に取り組まなければならないんです。

「何がどれだけエコなのか」が分かれば続くかも

── SDGsの13番目は「気候変動への具体的な対策を」ですが、やはり、エコバッグの利用などで積極的に地球を守る努力が必要ですね。

 

佐々木さん:

ええ。でも「ポリ袋をやめてエコバッグを持つ」ことって、実際どのくらいの効果があるかあまり分からないですよね?

 

そういうことが分からないと、やる意味あるのかなって思いますし、実行しても長続きしなさそうですよね。

 

やみくもにアクションを起こすよりも、「何をやったら二酸化炭素を年間どのくらい削減できるのか」という効果を把握して、自分ができることを選択して行うということも大切だと思います。

 

例えば、国立環境研究所、地球環境戦略研究機関らの研究者チームにより定量化された、温室効果ガスの削減効果(※1)などを参考にして行動を選択すれば、無理なく、より効果的に、温暖化対策に貢献できそうですね。

国内52都市における脱炭素型ライフスタイルの選択肢サイトページ
国立環境研究所「国内52都市における脱炭素型ライフスタイルの選択肢」トップページ

これは、都市別に数値を出してくれるので、自分の住む都市を選択してシミュレーションできるのも面白そうです。

 

温室効果ガス排出量削減の効果が高いものとしては、屋上太陽光パネルの導入(さいたま市在住の場合、年間1人あたり約1350㎏削減)、電気自動車の利用(同470㎏削減)、カーシェア(同530㎏削減)などがあります。

 

ハードルの低いものだと、テレワークの実施(同240㎏削減)、休暇を近場で過ごす(同150㎏削減)などの選択肢もあります。(単位は二酸化炭素換算)

国内52都市における脱炭素型ライフスタイルの選択肢サイトページ
「国内52都市における脱炭素型ライフスタイルの選択肢」さいたま市をシミュレーションした画面

── 確かに具体的な数字を知ると気持ちが違いますね。とはいえ、個人レベルの努力には限界もあります。メーカーがSDGsや二酸化炭素削減に積極的に取り組んでいるかどうか、消費者として見ていくことも大事ですね。

 

佐々木さん:

そうですね。企業や行政が、二酸化炭素を削減できる取り組みを積極的に進めていくことが、まずは大事だと思います。

 

1人ひとりが無理なく行動することと、企業や社会全体での温暖化対策への取り組みが相まって、大きなうねりを生んでいけたらいいですね。

 

PROFILE 佐々木恭子さん

気象予報士。合同会社『てんコロ.』代表。早稲田大学第一文学部卒業後、テレビ番組制作会社入社。バラエティー番組のディレクターを経て、2007年に気象予報士の資格を取得し、民間気象会社で自治体防災向けや高速道路・国道向けの予報業務などを担当。現在は予報業務に加えて、気象予報士資格取得スクールや気象予報士向けスキルアップ講座などを主催・講師を務める。

取材・文/鷺島鈴香

(※1)国立環境研究所「国内52都市における脱炭素型ライフスタイルの選択肢」https://lifestyle.nies.go.jp/