「ねぇお母さん、本当の運動会ってどんな感じなの?」

 

先日、小学2年生の息子にこう聞かれました。去年小学校に入学した息子は、2年連続運動会が中止となり、「本当の運動会」を知らないまま。私が説明してもどこか「信じられない」といった様子で、「大勢の人が集まって、大声で応援できる運動会なんて、一体いつになったらできるんだろうね…」と寂しそうにつぶやきました。

 

我慢や制限、また感染への不安が続く生活は、子どもたちのメンタルヘルスに影響を及ぼし始めています。

 

悩む少女
文部科学省は今月、20年度に「不登校」とみなされた小中学生と、小中高校から報告された児童生徒の自殺者数が過去最多であることを発表しました※1。文部科学省の担当者は「(コロナ禍で)生活リズムが乱れやすく、学校では行事なども制限されて、意欲がわかなくなったのではないか」と指摘しています。                            悩む少女のイメージ(PIXTA)

「子どもがコロナのことで思い悩んでも、それを言葉にして伝えるのは、実はとても難しいんです」と指摘するのは小児科医で「みんながヒーロープロジェクト(慶應義塾大学SFC研究所・健康情報コンソーシアム)」メンバーでもある工藤紀子さんです。

 

1年半にわたってコロナと戦っているのは大人だけではなく、子どもたちも同じ。子どもたちの不安や自粛疲れに寄り添いつつ、これからも続く感染対策について子どもに伝えるにはどうしたらいいのでしょうか──

※本記事は「うつ」「自殺」などに関する描写が出てきます。ご体調によっては、ご自身の心身に影響を与える可能性がありますので、閲覧する際はご注意ください。

「コロナのこと考えるの嫌」42% 「イライラする」37%

長引くコロナ禍が、子どもの心身の不調を引き起こす原因になっていることは以前から指摘されてきました。

 

新型コロナウィルスが流行し始めてから約1年後にあたる今年2月から3月に、国立成育医療研究センターが実施した「第5回コロナ×こどもアンケート」によると、子どもの心の様子について、次のような結果が出ています※2

 

  • コロナのことを考えるとイヤだ…42%
  • すぐにイライラしてしまう…37%
  • 最近集中できない…32%
  • 寝付けない、よく目が覚める…24%

 

また子どものメンタルヘルスに焦点をあてて去年末に実施された「第4回コロナ×こどもアンケート」では、子どもたちが抱える「うつ症状」が明らかになりました。

 

小学 4~6 年生の 15%、中学生の 24%、高校生の 30%に「中等度以上のうつ症状」があり、小学4年生以上の子どものうち24%が「​​体を傷つけたい、死にたいと思った」という項目に「はい」と答えているのです。同センターは「早急な対策が必要」と強い危機感を示していました※3

 

アンケートに答えた子どもたちからは具体的に以下のような声があがっています。

「なんでも『コロナだから』ばっかりで、自分の行動や気持ちを制限されている気がした。大人は大人でいろいろ大変なのかと思って、相談しづらくなってしまった。心の中でいつもイライラしている(小6・女子)」

「コロナで、卒業遠足がなくなりそうです。 社会見学もなくなりました。 勉強以外の、 楽しいイベントがなくなって学校が楽しく感じなくなりました。(小 6・女子)」

「コロナに縛られて自由がない。 子供も我慢してるんだってことを 大人に理解して欲し い。 もっと子供の気持ちを考えて欲しい。(中3・女子)」

「きゅうしょくもだまって食べるのがつまらない。」(小2・男子)

子どものSOS気づくため 具体的な声かけ3ステップ

自身も2児の母で、年間のべ1万人の子どもを診察しながら育児のアドバイスをしている小児科医の工藤紀子さん(慶應義塾大学SFC研究所 健康情報コンソーシアムメンバー)は、保護者から「具体的な声かけをしてほしい」と話します。

 

「コロナについて何か思い悩んでいたとしても、それに気がつき、そして言葉にして伝えるということは、子どもでなくてもとてもエネルギーがいることです。子どもがなんとなく元気がない、食欲が落ちている、笑顔が減っている、興奮しすぎているなど、いつもと様子が違う時は、「心配しているよ」と保護者の方から意識して話しかけてほしい。」

 

工藤医師は、子どもたちの思いと向き合う時に大切にしてほしいポイントが3つあると言います。

 

【1】心配していると伝える
【2】評価・解決しようとしない
【3】子どもの力に一緒に気がつく

 

まずは「心配している」と伝えること。

 

その際は「コロナって嫌だね」「給食黙って食べるの悲しいね」と子ども気持ちを決めつけて話すのではなく、「最近、元気ないよね」と印象を伝えたり、「コロナのことを考えるとどういう気持ちになる?」と子どもの気持ちを聞き出してあげることが大切。

 

「時短授業になったけど、どんな感じ?」や「マスクや手洗いが嫌になっている子もいるみたいだよ」など、学校の変化や他の子どもたちの実際の声を取り上げてみる方法も有効です。

 

次に、評価・解決しようとしない。

 

子どもから悩みや困りごとを話をし始めた時に「それはつらいね」「嫌だね」と評価したり「だったら〇〇すればいいんじゃない」などと解決しようとするのは逆効果。

 

大人が推測する子どもの気持ちと、子どもが実際に思っている気持ちとは異なっていることもあるため「うんうん、もう少しお話ししてくれる?」「どういう気持ちになったの?」と子どもの気持ちに耳を傾けます。

 

そして最後に、子どもの力に一緒に気がつくことが大切。

 

子どもたちに「そういう気持ちになった時どうしてる?」「どうしたら良くなると思う?」と聞いていくことで、子ども本人が持っている力を見出していくプロセスです。

悩む少女
悩む少女のイメージ(PIXTA)

「子どもたちの中には「大丈夫」と答えて終わってしまう子もいるかもしれません。「親に心配をかけたくない」と思っている子が意外と多いのです。子どもたちには『心配をかけることも子どもの大事な仕事だよ』と伝えた上で、こうなったら声をかけてねと【声をかけてほしいポイント】も伝えておくのが有効です。

 

眠れないとき、いつもやる気が出ない時、自分や周りを傷つけたいと思う時、学校や家で嫌だなと思うことがあるときは声をかけてねなど、具体的にお子さんに伝えてあげてください」

子ども向け予防啓発ツールを有効活用

子どもたちとコロナについて話をする際、「きっかけ作り」として、子ども向けに開発された予防啓発ツールを使うことも有効な手段です。

 

工藤医師がメンバーを務める慶應義塾大学SFC研究所 健康コンソーシアムが去年立ち上げた「みんながヒーロープロジェクト」では、若い世代に向けた予防啓発ツールを積極的に開発・発信していて、「キッズ・ママ向け」のコンテンツも充実しています。

 

パパやママの疑問に専門家が答えるコンテンツのほか、世界8カ国で翻訳された啓発絵本「ゆうまくんはスーパーヒーロー」の日本語版を読むこともできます。工藤医師が監修した「コロナウィルスやっつけろぬりえ」は、日本の幼稚園や小児科、歯科でも幅広く活用されているといいます。

コロナウイルスをやっつけろぬりえ
慶應義塾大学健康情報コンソーシアム「みんながヒーロープロジェクト」が開発した「コロナウイルスをやっつけろぬりえ」

「このぬりえは、『なぜマスクをつけなければいけないの?』『なぜ手洗いをしなくてはいけないの?』『不安になったときにはどうしたらいいの?』という子どもたちの素朴な疑問や気持ちに寄り添い、親子で楽しく学べるように、との願いから生まれたものです。

 

色を塗ったり、手を動かしたり、気持ちを書き出したりという行為はとても良いストレス発散の方法の一つ。子どもたちと一緒に取り組んでいただき、家族でコロナについて話をする際のきっかけにしてほしいです。

 

また工藤医師は最も大切なことの1つとして「大人も気持ちを抱え込まないこと」と指摘します。

 

「コロナ×こどもアンケートでも、過半数の保護者の方が心に負担を抱えている状態との結果が出ています。大人が悩みや不安を抱えたままでは、余裕を持って子どもの想いと向き合い、話をゆっくりと聞くことが難しい悩みを一人で抱えるべきではないのは大人も子どもも一緒です。大人側も不安やストレスを解消できる方法を見つけ、自分自身のストレスケアを行ってください。」

 

 

子どもの心の様子についてのアンケートを見た夫がポツリ。「これ全部自分にも当てはまるわ…」と。大人も子どもも心の不調を抱えやすい今だからこそ、我慢が続く生活について「こう感じている」「こんなことがつらい」と家族の間で気持ちをシェアし、分かち合うことは、とても大切なことだと言えそうです。

※1 文部科学省:平成30年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について(10月17日)
※2 国立研究開発法人国立成育医療研究センター「コロナ×こどもアンケート第5回調査 報告書」より
※3 国立研究開発法人国立成育医療研究センター「コロナ×こどもアンケート第4回調査 報告書」より

取材・文/谷岡碧 取材協力/慶應義塾大学SFC研究所 健康情報コンソーシアム みんながヒーロープロジェクト