「中学受験の正体」を“イロハ”から進学塾VAMOSの代表・富永雄輔さんに教えていただきます。
今回は、1月に地方の中学校を受ける意味について。なぜ塾は、行く予定のない地方校の受験をすすめるのでしょうか?一方で、寮のある学校を本気で狙う家庭もあるよう。地方校を受験する、その意味を探ります。
東京組にも有意義な1月受験
東京都にある中学校の入試は2月から始まります。1日からおおむね6日ごろまで、いろいろな学校で午前・午後と入試が行われます。東京とその近辺の受験生にとって、本番は2月ということ。
ただ、1月にも千葉県や埼玉県の学校で入試が行われますし、その他の地方校も東京で入試を実施します。1月に入学試験がある中学校を、1月校と呼びますが、東京在住であっても、こうした1月校の入試に、多くの子どもが参加します。
1月受験をおすすめする理由はいくつかあります。
まずは本番独特の雰囲気に慣れること。外部模試とも違うあの緊張感を2月より前に1度でも体験しておくことは、たいせつです。
もうひとつ、1月時点での学力の立ち位置がわかることも見逃せません。1月校は合否だけでなく、得点開示をしてくれるところもあります。12月ですべての模試が終わり、冬期講習や正月特訓を経て、自分がどのくらいできるようになったのか、あるいはどの科目のどの分野にがんばりが足りていないのか、1月校を受験することでわかるのです。いわば模試のかわりですね。
こうした刺激により、子どもの気持ちはぐっと引き締まります。年末年始本気になれなかった子どもも例外ではありません。目の色が変わって、勉強にのめり込む子も出てきます。
受験料はかかりますが、1月校を受けるメリットは120%あると思っています。
千葉・埼玉より地方校受験がいい場合
1月校を選択する際、千葉や埼玉の学校より、地方校がいい場合もあります。
千葉や埼玉に行くのに片道2時間以上かかる子どもは、受験のために現地に前泊しなくてはならなかったりします。
その点、地方校の入試は、神田や早稲田といった都心で実施されることがほとんど。
1月受験は場慣れするためのものと割り切る場合は、受験会場へのアクセスが容易な地方校を受けたほうがいいですよね。
学校の難易度も、佐久長聖、早稲田佐賀、愛光、西大和といろいろあるので、自分に合ったところを選べます。
もちろん、千葉や埼玉に通えるエリアにお住まいの方は、そちらの学校を選ぶといいでしょう。
地方校を本気で狙う家庭も増えている
ほとんどの受験生が地方校を模試がわりに受けているわけですが、実は最近、寮のある地方校を本気で狙う家庭もじわじわ増えてきています。
とくに北海道の北嶺、鹿児島県のラ・サール、奈良県の西大和、愛知県の海陽、愛媛県の愛光は人気ですね。
「1人っ子だから、集団生活を送りながらいろいろな経験を積んでほしい」「共働きでしかも夫婦とも帰宅が遅いから、放課後自宅で1人過ごすよりは、寮で生活してくれたほうが安心」「転勤族で、数年で引っ越すことになるから、自宅通学だと結局転校することになる」といった事情から選んでいるようです。
夜の勉強時間なども決まっていて、先生やチューターが勉強を見てくれるという寮もあります。食事も栄養バランスを考えたものが出ますし、さまざまな面で安心なのでしょう。
勉強をしっかりさせるから進学実績もよく、例えば北嶺は定員約120名のうち、2021年は国公立大学医学部医学科に51名が合格しています。この実績なら、東京に置き換えれば偏差値65はいくはずです。でも北海道にあることによって50台後半になっている。
だから「狙い目」と考える家庭も出てきて、結果、東京から流れる受験生も増えているわけですね。
コロナでライフスタイルが変わり、東京にいる必要性が減っていくと、この傾向に拍車がかかるかもしれません。
ただ、やはり幼さの残る中学生にとって、寮で人間関係を築くのは相当大変なこと。保護者は、その点もふまえて慎重に考えてあげてください。
多くの場合、地方校は「本番に慣れるため」「模試がわり」に受験します。本番前に本人の気持ちを引き締めるためにもぜひ受験させたいところ。
進学実績の高い寮制の学校を現実的な進学先として検討する家庭も出てきていますが、その場合は子どもの性格や意思をしっかり見極めることが必要でしょう。
監修/富永雄輔 取材・構成/鷺島鈴香 イラスト/サヌキナオヤ