こんにちは。メンズカウンセラーの中村カズノリです。
夫婦関係に問題を感じている読者の悩みの解決方法を探っていく本連載。前回はコロナの感染対策意識の夫婦間格差に悩むJさんのお話を紹介しました。今回はJさんご夫妻のコミュニケーション面の「引っかかりポイント」を取り上げたいと思います。
繊細な夫に意見を伝えたいけど…見えない壁にモヤる妻
Jさんの困りごとは、パートナーがコロナの感染・重症化のリスクを軽んじて、本気で予防しようと努めているようには見えない、ということ。ところが、Jさんにはパートナーに対し「もっとちゃんと感染対策をして!」と強く言いづらい事情がありました。
というのも、パートナーにははたからではわかりづらい繊細な一面があり、特に「妻が悲しんでいる、辛い思いをしている」と感じたとき、それを「全部自分の責任だ」と思って背負い込んでしまうところがあるというのです。
Jさんとしては「あなたのこの行動をやめてほしい」と伝えただけつもりなのに、「妻をこんな悲しませるなんて俺は夫失格だ、生きている資格がない」と思い詰め、意気消沈してしまうといいます。
パートナーがそんな調子では、「そんなつもりじゃなかったのに…私の言い方が悪かったの?」と当惑してしまいますよね。そんな経緯もあり、Jさんはなるべく感情的にならないように、淡々と事実や要望だけを伝えるようにしてきたそうです。
ところがこの伝え方では、パートナーの行動になかなか変化が見られず、自分の要望を理解してくれているのかどうかがわからない。「使用済みのマスクは洗濯物専用の袋に入れてほしい」という簡単な頼みごとすら聞いてもらえず、モヤモヤがおさまらないといいます。
相手の問題まで背負い込んでしまうことが問題
僕が思うに、これは双方が、相手の問題まで自分の問題と捉えているせいで話がややこしくなっているのだと思います。
本来、「妻が自分の行動で困っている」というのは妻の身に起こっている事実にすぎず、それ以上でも以下でもありません。
「自分の〇〇で」の部分に責任を感じてしまうということは夫婦ともに真面目な方なのだなと思いますが、ここでフォーカスすべきは「妻が困っている」「夫が悩んでいる」というポイントであり、「誰のせいか」ということではないのです。
「そうなんだ、困っているんだね」と受け止めたうえで、じゃあどうやって折り合いをつけるか。そこがお互いに話し合うべき点なんですね。
例えば、「夫が(妻が)パワハラ上司に追い詰められている」ということなら、夫婦一致団結して解決策を考えよう、となると思います。
ところがこれが夫婦間の問題となると、「マスクを食卓に置きっぱなしにする夫が悪い」「コロナの感染リスクを気に病みすぎる妻が悪い」といった具合で堂々めぐりになりがちです。
Jさんの例で言うと、妻は家族の健康のために予防を徹底したい。一方で夫は感染対策を徹底するよう頼まれても他のことに気を取られて失念してしまう。これはどちらが良くてどちらが悪いという話ではありません。
「どっちが悪い」ではなく気持ちをすり合わせること
まずは、「こうしたい」とか「そこまでしなくてもいいのでは」といった、夫婦の気持ちのすり合わせが大事と思います。
Jさんはもともと先回りして気遣いをするタイプで、自分の言動に対する周りの反応も気にしすぎてしまう性格。両親やパートナーに対しても、先回りして何かをしてあげることで相手に喜んでもらいたいと願うあまり、結局自分だけが空回りしているようで辛かったといいます。
そんな経験を経て、最近はできることはやりつつ、自分の負担にならない範囲にしようと方針変更したそう。僕はそれはとても良いことだと思います。
一方、パートナーは他人に共感するのが少し苦手なタイプ。Jさんの分析によると、頼ったり甘えたりということができないのは、両親が共働きで忙しかったこともあり、自分で食事を作ったり1人で通院したりしていた家庭環境の影響もありそうだとのこと。
とはいえ、Jさんからマスクのことなどで注意を受けても露骨に不快そうな様子は見せないという面からみても、価値観の相違はあれど、Jさんを頭ごなしに否定するつもりはなく、自分の行動倫理もしっかりもっている人なのだろうと推察します。
Jさんは今回の取材を受けることを事前にパートナーに伝えたそうなのですが、その際も「自分は一緒に受けなくていいのか」という反応だったそう。そもそもカウンセリングはパートナーに内緒で受ける人も多いので、こんな会話ができている時点で、Jさんご夫婦にはしっかりとした信頼関係が築かれているのではないかとお見受けしました。
ただ、夫婦の問題は双方から話を聞いて初めて見えてくる部分もあります。機会があればぜひパートナーのお話も伺ってみたいところです。
文/中村カズノリ イラスト/竹田匡志