親子で風呂に入るイメージ

慣れない育児で、いまだにミルクを少し熱めに作ってしまうパートナーにイライラ。泣き止まない赤ちゃんを抱っこしながらつい小言…。育児に関するズレも、夫婦のささいな火種に…。そんな小さなズレを放っておくと、いつしか大きなズレになるかも!?育児ストレスゼロを目指す方法について、家事ジャーナリストの山田亮さんに聞きました。

育児の「お風呂担当」その範囲はどこまでか

── 山田さんがよく聞く育児に対する認識のズレ「育児ズレ」は、どのようなものがありますか?

 

山田さん:

「子どもをお風呂に入れるのは俺が担当なんです」というパパは増えたと感じます。でもお風呂に入れて、一緒に出て終わり、というのは夫婦でもめる原因ですよね。

 

お風呂に入れる前に、バスタオルと子どもと自分のパジャマを用意しておく。シャンプーやリンスがなくなっていたら詰め替える。お風呂から出たら、子どもをバスタオルで拭いて、着替えさせて、髪の毛を乾かす。

 

「子どもをお風呂に入れる」は、どこまでやるのか?認識のズレが起こりやすい家事・育児の典型でしょう。

 

他にも、赤ちゃんのミルクを作って飲ませた後に洗わず放置しておく、子どもと一緒に遊んだあとおもちゃを片づけないなども、夫婦の考えでズレていることが多いですね。

 

── 育児歴は原則パパもママも同じ。それなのに育児ズレや経験の差が起きてしまうのはなぜでしょうか?

 

山田さん:

育児は夫婦共にゼロからのスタートだからこそ、経験の一つひとつがズレにつながりやすいんです。例えば里帰り出産した妻が自宅に帰ってきたとき、夫がどんなに育児書を読んで勉強していたとしても、妻のような育児はできないかもしれません。経験の差が生じることで、育児にまつわるズレが起きやすくなります。

「夫婦は同じ価値観で」なんて考える必要はない

── 夫婦間での育児の認識のズレは幼少期だけでなく、子どもが大きくなった際にも何らかの問題につながっていきますか?

 

山田さん:

可能性はあると思います。子どもが大きくなると、小学校で塾に入れるのか、中学校や高校はどこに進学するのか、大学は国公立と私立のどちらを選ぶのか。こうした教育方針の違いが夫婦の亀裂を生む…なんてことは避けたいですよね。

 

育児のズレには、「解消した方がいいズレ」と「解消しなくていいズレ」があります。

 

子どもの命に関わるようなズレは必ず解消した方がいいですよね。食器を買うときはガラス製の食器ではなく、子どもが壊す可能性が低いメラミン製の食器を買うようにする。家具はデザイン重視ではなく、子どもがぶつかってもケガをしにくい角が丸いものを購入する、などです。

 

一方で、子どもの教育方針については、ズレがあってもいいのではないでしょうか。例えばパパが「しっかり勉強しろよ」と厳しくして、ママが「たまには息抜きも大切よ」と気持ちをゆるめる。そんな緩急ついた夫婦が理想的だと思います。

 

── 夫婦の価値観が必ずしも揃っていなくてもいいのですね。

 

山田さん:

大人にもさまざまな性格の方がいますので、夫婦の価値観が揃っていなくてもいい。むしろ子どもに多様性を教えるチャンスだと思います。

 

今の時代、「家族は一枚岩」というのはムリな話。家族それぞれが気持ちよく過ごせるよう歩み寄りながら、パートナーや子どもを見て「そういう考え方もあるんだ!」と、発見するくらいがいいのではないでしょうか。

家事や育児のズレを防ぐ夫婦の「ビジョン共有」

── とはいえ、マイホームをどこに建てるか、子どもの進学方針をどうするかなど、期限を有する場面もあります。どのように折り合いをつければいいのでしょうか?

 

山田さん:

期限までに夫婦や家族でよく話し合うしかないと思います。

 

例えば子どもの進学なら、家から通いやすい公立学校と、有名大学の進学を目的に遠方の私立学校のどちらに行くか。子どもの学力や将来の夢、通いやすさ、学費など、さまざまな条件を整理して、ベストな方法を夫婦で考えるといいでしょう。

 

こうした話し合いの際に、毎回折れてしまう方もいると思います。でも、折れることは決して悪いことではありません。大切なのは、自分が納得して折れているか。その納得感があれば、毎回判断をパートナーに任せている「信頼」を感じられると思います。

 

── 育児ズレを防ぎ、これからも円満な夫婦・家庭でいるコツを教えてください。

 

山田さん:

たまに夫婦で「将来こういう家庭にしたいよね」と、ビジョンを話してみるのがおすすめです。少し照れくさいですが(笑)。企業でも、ビジョンの共有が社員の士気を上げるように、家庭でもビジョンの共有は大切。お互いの思いが理解しやすくなると思います。

 

結婚して間もないなら「いつ頃に子どもがほしいか」「将来どんな家に住みたいか」。子どもが大きくなってきたら「いつまでこの家に住むか」「この先二人とも働くか、一方が家庭に入るか」。

 

ビジョンを共有する際には、「聞く気持ち、伝える努力」を持つといいですね。近い将来の話から老後に夫婦でやりたいことまで話せたら、いつのまにか家事ズレ・育児ズレは減っていると思いますよ。

 

PROFILE 山田亮さん

家事ジャーナリスト・山田亮さん
家事ジャーナリスト、社会福祉士、佛教大学非常勤講師。1967年香川県生まれ。楽器メーカー営業や百貨店業務などを経験しながら社会福祉を勉強し、通信制大学、大学院を修了。当時大学助手だった妻と結婚し主夫に。長年の家事経験から家事ジャーナリストとして情報提供や家事指導を行う。

監修/山田亮 取材・構成/金指 歩