今年はコロナで家計が冷え込み、生活が苦しい…と思いきや、じつは予想外の傾向を示していると話すのは、家計管理を得意とするファイナンシャルプランナーの坂本綾子先生。家計において、いったい今年はどんな年だったのでしょう?
収入の格差拡大 その構図に変化が
—— 今年の家計状況として、どのような特徴や変化があったのでしょうか?
坂本さん:
当初はコロナ禍から回復する年になるだろうと思われていましたが、実際は昨年からの流れが引き継がれ、自粛傾向の強い一年だったと感じます。
家計を支える収入の観点でみると、これまでは「大企業=安定」「中小企業=不安定」といった構図が一般的でした。しかし昨年以降は、「業種や職種」による収入の増減が目立つように。
例えばIT・通信業は安定的に業績を伸ばしたので、個人の収入も安定。一方で旅行・ホテル業や飲食業などは、経営自粛による業績悪化で、そこで働く個人の収入も減少。ここまで業種によって、収入が明暗ハッキリわかれた年はないかもしれません。
思ったよりも「貯め込んでいる」人が多い?
—— 業種によって収入の増減があったのですね。貯蓄の傾向はいかがでしょうか?
坂本さん:
今年の家計は前年からの流れを受けていますので、まず昨年の状況を説明しますね。昨年5〜6月にかけて、10万円の「特別定額給付金」が配られました。これは国民の生活を支えるため、国の経済を活性化させるために配られたのですが、実際は「貯蓄」に回った可能性があります。
「家計の金融行動に関する世論調査(二人以上世帯調査、令和2年)」によると、2人以上世帯の金融資産の保有額・預貯金額は、次のように推移しました。
<年別の金融資産保有額(カッコ内は預貯金額)>
- 2018年:1,174万円(517万円)
- 2019年:1,139万円(487万円)
- 2020年:1,436万円(678万円)
このように昨年は金融資産保有額が大きく増加。背景には、自粛生活で旅行や外食などが制限されたこと、そして特別定額給付金の配布があるのではないか、と言われてます。
この流れを受けて、今年も引き続き貯蓄が多いだろうと予想しています。「意識して貯められた」というよりも「旅行などで使えずに残った」家庭が多いのではないでしょうか。
—— こうした流れを受け、家庭での夫婦の会話にも変化が見られましたか?
坂本さん:
家計のことをあまり話さなかった家庭でも、コロナによる社会や収入の変化を受けて、家計について話す機会が増えています。
また共働き家庭の強みを感じた方も多かったかもしれません。仮に一方が会社から休職するように言われて収入が落ち込んでも、そのパートナーがこれまで通り働ければ、家計状況はそこまで悪化しないからです。
有事の際にも2人で協力すれば乗り越えられる。そんな実感が湧いたと思います。
「予備費」を厚くして安定家計に
—— 今後も、急な収入減少やリストラなど、家計に大きな変化があるかもしれません。今からできることは何でしょうか?
坂本さん:
住宅購入資金や教育資金など、目的のある貯蓄とは別に「予備費」を確保をしましょう。予備費は万が一のときに家計を支えるためのお金で、目安は生活費3か月分程度。定期預金などの安定資産で確保しておくといいでしょう。
この予備費を「余裕資金」とみなして、株式や投資信託などの資産運用に回すのは要注意。万が一お金が不足した際には、損失が出ても現金化する必要がありますから。予備費はなるべく定期預金などの預貯金で持ってください。
—— 収入が減少したときに、国や自治体に頼ることもできるのでしょうか?
坂本さん:
家計が苦しい方向けの公的制度はありますが、そのほとんどは「失職してすでに家計が底をついている」など、本当に苦しい場面でしか利用ができないものがほとんどです。少し家計が苦しい程度では利用できないので、当てにしにくいでしょう。
家計が苦しくなったときこそ、夫婦や家族で話し合って、ムリなく節約できる方法や、収入が増やせる方法を考えてみてほしいです。自炊で料理の品数を減らす、などの無理は禁物。例えば、パートで働いている方は可能な範囲内で勤務時間を増やす、休みの日に外食やレジャーに行くのはやめて、自宅で自炊を楽しみながらゆっくり過ごすなどです。
心身の健康に留意しながら、ムリなく取り組めるプランを検討してみてはいかがでしょうか。
PROFILE 坂本綾子さん
監修/坂本綾子 取材・構成/金指 歩 イラスト/かりた
参照/金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査(二人以上世帯調査、令和2年)」