パートナーに大きな不満があるわけではないけれど、“仲良し夫婦”か問われると、ちょっと自信が持てない── そんな人も多いのではないのでしょうか?
“子どもの親”という家族の関係だけでなく、夫婦としてもう一度、絆を深めたい。
そんな思いを抱える人に必要な「夫婦関係を今よりよくするための方法」とは?家庭問題カウンセラーの新川てるえさんに伺いました。
小さなほころびが大きな亀裂に…危機に気づけない人も
── そもそも“夫婦のすれ違い”は、なぜ起こるのでしょうか?
新川さん:
夫婦の間に溝ができてしまうのは、圧倒的にコミュニケーション不足が原因です。とかく日本人は“言わなくても察してほしい”と、あ・うんの呼吸を求めてしまいがちですが、思いは言葉にしないと伝わりません。
小さなほころびは、いずれ大きな亀裂につながります。向き合うことを避け続けていると気持ちがどんどんすれ違い、次第に会話もなくなってしまう。そうなると、修復は難しくなります。
私のところにも、夫婦関係を改善したいとカップルでカウンセリングに訪れる方が多いのですが、一方が離婚の意思を持つほど溝が深まってしまうと、やり直すのはとても困難です。ですから、大きな問題になる前にその都度対処していくことが、夫婦関係を良好に保つ秘訣と言えると思います。
── “夫婦でカウンセリングに行く”というと、かなり深刻なイメージがあるのですが、どんな理由で訪ねてくる方が多いのでしょうか?
新川さん:
さまざまなケースがありますが、“夫婦関係を継続してきたいから”という前向きな理由がほとんどです。むしろ深刻な状態になる前に受けてもらうほうが、その後に良い関係を作りやすくなります。
“2人だといつもケンカになってしまい、話し合いが上手にできない”とか“お互いの言いたいことがうまく伝えられない”といった理由で訪れる方が多いですね。
専門家である第三者が間に入ることで問題を整理し、それぞれの思いや意思を引き出しながら、適切な関わり方をレクチャーします。それによって今後、問題が起きたときに2人の力で解決できるようになるんです。
場合によっては、100日間のプログラムを受けてもらい、2人の関係を改善していくトレーニングもあります。
100日あれば自分の行動は変えられる!
── どんなトレーニングを行うのですか?
新川さん:
自己肯定感をあげながら、相手を尊重したコミュニケーションスキルを学ぶという100日間のプログラムです。
ある40代のステップファミリー(子連れ同士の再婚)のケースを紹介しましょう。夫が強めで威圧感のある人で、逆に妻は気が弱く、言いたいことが言えないタイプでした。
妻は夫に終始気を使って過ごしてきたものの、だんだん耐えられなくなり、別居を申し出ました。ところが、夫には離婚する気はなく、妻も“状況が改善するならやり直したい”という意志があったんですね。
カウンセリングを行ったところ、夫にはモラハラの意識はなく、妻の思いにまったく気づいていなかったことが明らかになりました。
── どちらにとっても、相手の思いは「青天の霹靂」という感じだったのですね。
新川さん:
そうなんです。そこで、夫婦それぞれにトレーニングを受けてもらいました。夫は徐々に妻への理解が深まり、意見を尊重するなど、向き合い方が変わっていきました。妻のほうも自己肯定感を上げて思いを言葉にする練習をし、伝えるスキルを磨きました。
その後、私が間に入って話し合いの練習を繰り返したり、週1回は2人きりでデートをして夫婦の距離を縮めることで状況が改善に向かい、結果的には再び一緒に暮らし始めることができました。
でも、なかには「このカップルはカウンセリングをしても改善は難しいだろうな…」と感じるケースもあります。
同じ方向を向かず、相手を変えようとする夫婦の関係は改善しない
── “改善が難しい夫婦”と“そうでない夫婦”は、何が違うのでしょう?
新川さん:
向いている方向が同じかどうか、ということですね。夫婦の話し合いは一方通行ではダメで、相手の立場を考え、譲り合うことが何より重要です。
“夫(妻)を変えたい、変わるべき”と、相手をコントロールしようとする思考から抜けられない限り、平行線をたどってしまいます。自分のなかにある問題や相手への対応の仕方を変えていかないと、決してうまくいきません。
── 相手のせいにしていてはダメ、ということですね。
新川さん:
その通りです。自分の行動や言動は、全てあなた自身が選択していることだと気づくこと。夫婦の不公平感の問題もそうです。
家事や子育てに追われ、“なんで私ばっかり…”と、不平不満を抱えてしまうケースは多いですが、その状況を作り出しているのは、自分自身。協力を得たいなら、みずから働きかけないと事態は変わりませんよね。
夫とのやりとりで嫌な気分になったときも、“相手が私を不快にさせた”ではなく、あなたがその出来事に対して、“嫌だ”という気持ちを選択しているということなんです。
怒りを我慢するのではなく「後悔しない怒り方」をする
── 具体的にはどうすればいいでしょう? 揉めたくないからと言いたいことを言わないのはストレスになりそうだけど、素直に感情を伝えると衝突して空気が悪くなりそうだし…。
新川さん:
怒りは我慢すると落ち込みに繋がってしまいます。自分の行動と言動に責任を持てないので、自己評価が下がってしまうんですね。
ですから、“怒ってはダメ”ということではなく、“後悔しない怒り方”をしたほうがいい。そのためには、「自分の気持ちを上手に伝えるスキル」を磨くことが大事です。
「アンガーマネジメント」という言葉をご存じの人も多いと思います。怒りの感情は6秒間がピークといわれているので、“イラッ”としたらいったんその場を離れるのがおすすめです。深呼吸するなど、最初の6秒をうまくやりすごして怒りが通りすぎるのを待つことで、感情まかせに伝えずにすみ、無駄な衝突を避けることができます。
書籍やネットなどで情報は得られるので、一度アンガーマネジメントの手法を学んでみることをおすすめします。
── 新川さんご自身はイラッとしたときどんなふうに対応しますか?
新川さん:
私のオリジナルの対処法は「神になった気になる」というもの。パートナーにイラッとしたら「大丈夫、腹なんて立たない。なぜなら私は神だから!」と自分に言い聞かせています(笑)。
── 悟りの境地ですね…(笑)。
新川さん:
私の場合はこのやり方で気持ちが波立たずに済むと気づいたんですよね。皆さんも自分にしっくりくる方法を見つけると、対処がスムーズになり、心穏やかに過ごせるようになるはずです。
PROFILE 新川てるえさん
取材・文/西尾英子 イラスト/えなみかなお