「『我が子と離れているときに被災したら…』という不安は、ぜひ、命を守るための行動につなげてください。大切なのは、迷わず行動できるような約束事をしておくことです」
家族と別々の場所で被災したときのために、普段から備えておくべきことは? 国際災害レスキューナースの辻直美さんに教えてもらいました。
もしものときの行動を決めていますか?
地震は水害と違って、いつ起こるかわかりません。
たとえば、学校や園に行っているとき、習い事の最中、親は仕事に行っていて子どもだけで留守番中…必ずしも家族一緒のときに被災するとは限りませんよね。
緊急時に親がいなくても生き延びるためには、子ども自身が「どうすれば命を守れるか」をわかっていなければなりません。
大切なのは、普段から緊急時の行動について、約束事をしておくこと。災害時は、瞬時の状況判断や決断力が、生死を分けることもあります。
我が家の場合は、「もしも登校中に地震が起こったら、家に帰る」と約束していました。
加えて徹底していたのが、地震が起こったら、机がある場合は机の下に潜る。ない場合は、物が落ちてこない場所でダンゴムシのポーズ(頭とお腹を守り、ダンゴムシのように丸くなる姿勢)をとること。
小さなお子さんの場合は、いろいろな手段があると、迷ってしまうこともあるでしょう。シンプルに「◯◯のときは、△△する」と、行動を絞っておくことがポイントです。
被災時の連絡手段は携帯以外の選択肢も
被災時に家族が離れていることを想定し、どうやって連絡をとるのかを決めておきましょう。
大人同士であればLINEなどもひとつの方法。しかし、災害時はインターネットが繋がりにくいことも。また、子どもが携帯電話を持っていないご家庭も多いので、別の手段が必要です。
おすすめは「災害伝言ダイヤル」
災害伝言ダイヤル(https://www.ntt-west.co.jp/dengon/)をご存知ですか? 番号は171。
地震などの災害が起こった際は、被災地への電話がつながりにくいことがあります。そんなときに声の伝言板として、安否情報の伝達がスムーズにできるサービスです。
通常は災害時に利用できるサービスですが、災害発生に備えて無料で体験できます。
毎月1日・15日(0:00~24:00)と防災週間(8月30日9:00~9月5日17:00)、正月3が日(1月1日00:00~1月3日24:00)、防災とボランティア週間(1月15日9:00~1月21日17:00)が、体験利用日。家族で試してみる絶好の機会です。
災害伝言ダイヤルを利用するには、パスワードとなる電話番号が必要です。登録できる電話番号は、被災地エリアのもの(固定電話・携帯電話・IP電話等)が求められます。まずはこの番号を決めましょう。
使い方自体はとてもシンプル。171に電話をかけ、パスワードとなる電話番号をプッシュすると、30秒間の伝言を残す、もしくは再生することができます。
家族で体験してみよう
災害伝言ダイヤルは、公衆電話から無料で利用できるので、携帯を持たない子どもも使うことが可能です。
ただし、公衆電話がどこにあるか、そしてどうやって使うかがわからないお子さんは意外と多いもの。
せっかくサービスを知っていても利用できなければ意味がありません。散歩がてら近所の公衆電話を探してみたり、実際に使ってみたりしましょう。
子どもが使い方を覚えやすいように、少しゲーム性をもたせて利用しておくと、いざというときに役立ちます。
たとえば、パパがメッセージを残し、ママと子どもが再生するとします。吹き込む内容は、「夕飯で食べたいメニュー」や「今夜飲みたいビールの銘柄」にしてみてはどうでしょうか?
その日の夜、伝言を残したメニューやビールが食卓に用意されていたら、ミッション成功。
子どもが伝言を残す場合は、「今日食べたいおやつ」などがいいかもしれませんね。録音時間は30秒間なので、時間内に必要な情報を話す練習にもなります。
周囲とのコミュニケーションが命を救う
家族バラバラの場所で被災した場合は、親が子どもを守ることができない可能性も。そんな緊急時に重要なのが、周囲の人とのコミュニケーションです。
たとえば、学校や園の緊急時の子どもの引き渡し。自分やパートナーが行けない場合を想定して、仲の良い友達の親、近所の人、近くに住んでいるならば実家の親などにお願いしておくこともそのひとつです。
こうしたお願いをするために、普段から地域や周囲の方たちとのネットワークを作っておきましょう。
特に挨拶は防災の基本。自分がその地域に存在していることを認識してもらうための大切な手段です。
私の防災セミナーでは、「近所で一番感じの良い人を目指しましょう」とお伝えしています。なぜなら、周囲の人と良好なコミュニケーションがとれていれば、被災時に逃げ遅れたとき「◯◯さんがいない!」と気づいてもらえる確率が高い。
これは、被災時だけでなく、困っているときに、声をかけてもらえたり、助けてもらえたりもすることにもつながります。
毎日の小さな心がけが防災につながる
もしものことを考えると、心配は尽きません。けれど、災害時を想定して、家族でとるべき行動を把握しておけば、不安要素はかなり減らせます。
防災グッズを準備しておくだけではなく、被災したときにどう動くか、どんなことを心得ておくか、一度お子さんを含めて家族で話し合っておきましょう。
そして、普段から、周囲の人とのコミュニケーションを心がける。いざというとき助け合える関係性を築いておくことも大切にしてくださいね。
PROFILE 辻 直美(つじ なおみ)
取材・構成/水谷映美