「防災グッズを準備することは、とても大切なこと。けれど、用意するだけでは安心できません。ポイントは、非常時に備えて普段から実際に使ってみることです」
今回は、国際災害レスキューナースの辻直美さんに、防災グッズを準備する際に意識しておくべきことを教えてもらいました。
防災グッズを使ったことがありますか?
災害に備えていろいろなグッズを買いそろえ、防災リュックを準備しているご家庭は多いのではないでしょうか。
では、準備している防災グッズを、実際に使ってみたことがある人はどれくらいいるでしょう。たとえば、災害時の簡易トイレのパッケージを開けて、なかを確認してみたことはありますか?
簡易トイレには、ビニール袋と凝固剤(高分子ポリマー)が入っています。これをどこに置いて、どうやって使えばいいのか…使用方法まで知っている人は少ないかもしれません。
また、多くの場合は、簡易トイレひとつにつき1回分しか入っていません。家族の人数を想定すると、いくつ準備したらいいのか考えることも、とても重要です。
災害への備えは、生活の質(QOL)アップにつながる
最近は、長期保存が可能な水やアルファ米など、便利な防災アイテムがたくさんあります。
いつか来るかもしれない日のために高価なものを買って、賞味期限がきれたら捨てる…ではもったいないですよね。
防災は、「わざわざやらなきゃ」と思うから面倒に感じます。でも実は、日常の中にあるもので十分備えることができるのです。
節約と時短につながる「ローリングストック法」
おすすめは、ローリングストック法。お気に入りの銘柄の水・レトルト食品・缶詰を多めに買っておき、普段からそれらを食べたり使ったりして、なくなった分を買い足しながら非常時に備える方法です。
私の場合、防災用の特別な缶詰は買わず、いつも食べている好きな銘柄のツナ缶やサバ缶をいくつかストックしています。
ですから、たとえこの週末に大雨が降ったとしても、家のなかにあるもので食事ができるので何の問題もありません。
非常時は、心も体も疲弊します。そんなとき、食べ慣れているもので在宅避難できれば、大きな心の支えになるでしょう。
置き場所とストックする数を決めておけば、日常的に無駄買いがなくなるので節約に繋がります。また、家族全員が保管場所を把握できるので、探しものに時間を奪われることもなく、時短にもなる。
もちろん、いざというときも慌てなくて良いという安心感にもつながります。
災害に備えた調理経験が、生活を豊かにする
皆さんに試してほしいのが、鍋とカセットコンロを使ってご飯を焚くことです。
被災時にライフラインが途絶えても、ホカホカの温かい白米が食べられる…きっと不安な気持ちがやわらぐのではないでしょうか。
しかも、これまで炊飯器しか使ったことのなかった人が、鍋でご飯が炊けるようになれば、生き抜く力も生活力も上がりますよね。
考え方を少し変えると、防災=面倒なものではない。むしろ生活のクオリティを高めてくれるものだと思えてきませんか?
我が家に必要な備蓄量をアプリでチェック
防災グッズをそろえるとき、もうひとつ大切なことがあります。それは、各家庭に必要な量を準備すること。
災害が起こったとき、72時間は人命救助が最優先です。水道や電気、ガスなどのライフライン復旧は、いつになるかわかりません。そのため、水や食料などの準備は必須。用意しておいた備蓄量に比例して、生き延びられると言っていいでしょう。
特に、飲料や調理用以外にも、あらゆる用途で必要な水は、最低でも3日分は準備しておきたいもの。
一般的に、1日で必要な水の量は3リットルですので、1人あたり合計9リットルの計算になります。家族がいる場合は、人数分をかけた水の量が必要です。
食料は、最低7日分、できれば14日分ほど用意しておきましょう。…といっても、何をいくつくらい準備しておけばいいのか、判断が難しいこともありますよね。
そんなとき便利なのが、備蓄量が簡単にチェックできるアプリです。
私が利用しているのは、「東京備蓄ナビ」(https://www.bichiku.metro.tokyo.lg.jp/)。
家族の人数と性別、年齢、戸建てかマンションか、ペットの有無など簡単な質問に答えるだけで、自分の家庭に合った水やレトルト食品、ティッシュペーパーなどの備蓄量がわかるのでおすすめです。
目安の量がわかれば、準備は簡単。とはいえ、診断結果はあくまでも最低限必要な量です。被災時に豊かな生活をしたい場合は、それ以上の備蓄量が必要です。
防災は日常の延長線上にある
防災を「あえてやらなきゃいけない特別なもの」「お金がかかる」「準備に時間もかかる」と捉えると、少し億劫に感じてしまうかもしれません。
けれど、防災は日常の中にあり、普段の暮らしに結びついているもの。しかも生活の質をも高めてくれると考えれば、忙しい毎日の中でも前向きに取り組めるのではないでしょうか。
どこか特別なものだと捉えていた防災グッズも、お子さんと一緒に中身を確認しながら、実験気分で使ってみることで、身近な存在となり、「使えるアイテム」へと変わります。
今からできることを実践しつつ、日々の防災に生かしていきましょう。
PROFILE 辻 直美(つじ なおみ)
取材・構成/水谷映美