同僚が言った通りのことをしてくれない…。上司の指示通りにしたのに「違う」と怒られた…。
相手との認識や理解のズレはよくあること。これって相手のせい?私に問題が?認識がズレてしまう“たった1つ”の理由って何?プロコーチとして多数の現場をみてきた斉藤由美子さんにうかがいました。
認識がズレるのは誰のせい?
自分はきちんと依頼したはずなのに、なぜか相手からは的はずれな返答が。こうした「認識のズレ」がなぜ起こってしまうのでしょうか。
「相手がちゃんと話を聞いていなかったからだ」「適当に仕事をやったんでしょ」など、自分に思い当たる点がないからと、“相手に問題がある”と思いこむ人は要注意。気をつけているつもりでも、知らないうちにあなた自身が原因を作っているかもしれないからです。
その要因のひとつには、デジタルのコミュニケーションが主流になったことが関係していると私は考えています。
仕事上でのやりとりは、以前は対面や電話でのコミュニケーションでしたが、メールやビジネスチャットツールを利用する機会が増えました。その結果、無意識のうちに丁寧に説明しない悪いクセが身についているのかもしれません。
「ビジネスメールは簡潔に」の落とし穴
丁寧に説明しないクセが身につくと、次の2つの問題が起こります。
1つめは、大事な情報が抜け落ちる問題です。ビジネス上では、一般的にメールは簡潔にまとめることが好まれます。しかし簡潔さを優先するあまり、本来伝えておくべき背景や因果関係を相手に伝えきれない場合があります。
例えば、あなたが客先への提案資料を上司に確認してもらっていたとします。
その回答メールが「Bプランで進めて」と用件のみの場合と、「金額面をアピールしたほうが○○社には通りやすいので、Bプランで進めて」のように理由が添えられている場合では印象が違うのではないでしょうか。
上司の判断理由がわからなければ、客先で見当違いのアピールをする可能性も否めません。
また、プライベートでのコミュニケーションも、一文や単語、スタンプだけでやりとりをするケースが増えました。短文のコミュニケーションに慣れることで、相手に丁寧に伝える意識が薄れている可能性があるのです。
2つめは、一方通行のコミュニケーションに慣れることで、自分主体で物事を進めてしまう問題です。
メールやビジネスチャットツールでは、読む時間は相手の都合に委ねられます。また、対面や電話のように、報告途中での相手の顔色をうかがうこともなく、自分の用件をまとめて伝えられます。
このような、相手の時間や都合を気にせずに自分のスタイルで進められる仕事のスタイルはとても便利です。しかし慣れてしまうと、日常的に相手の立場に立って物事を考える力が弱くなります。結果、相手への配慮がおざなりになる恐れも。
認識のズレをなくすためには、必要な情報をきちんと伝えること、そして相手の立場を配慮すること。どちらも欠かすことはできません。
認識のズレを許せる余裕を持とう
認識のズレをなくすための努力は大事なことですが、“ズレは努力でなくせる”とは思わないようにしましょう。
他人とは立場や状況、理解度、仕事のスタイルが違う以上、ズレを完全になくすのはほぼ不可能だからです。
「これだけやったのに、なんでわからないの!」と、イライラしたり落ち込むのは、意味がありません。
コミュニケーションをとる相手と、意識や認識の何らかのズレを感じたら、早めに相手とすり合わせいくのが、トラブルを防ぐ秘訣です。ズレを小さなうちに発見し、早めに軌道修正できるように心がけていきましょう。
監修/斉藤由美子 取材・構成/大浦綾子