選挙に行くと飲食店でドリンク1杯が無料!お菓子もがもらえる!こうした嬉しい特典があるのはご存知でしょうか?じつは「センキョ割」と称したサービスで、投票を促す団体が選挙の度に協賛店を募って活動しています。
このユニークな活動。やっている方は本気です。「センキョ割」を行う選挙割協会代表・佐藤章太郎さんに、その活動内容や思いについて聞きました。
クリスマスやハロウィンのようなイベントにしたい
—— 直球ですが、「選挙活動」と聞くと、政治や選挙の知識を持っていないと気軽に参加できないようなイメージがあります。
佐藤さん:
そのイメージがあるのはすごく分かります。実際、知識を羅列してマウントしたり、「なぜ選挙に行かないんだ!」と正論を振りかざして投票に行かせようとする語り口があります。もちろん、投票において知識は必須です。ただ促し方次第で余計嫌がる人も大勢いる。そうした行動こそが、ますます選挙から遠のいてしまう原因になっていると思います。
—— 佐藤さんが活動されている「センキョ割」では、違う視点から活動していると?
佐藤さん:
たしかに熱量高く、過激な言動を繰り返せばメディアにも取り上げられて知名度も上がるかもしれません。しかし、僕らは感情を押しつけて人を動かしたり、一時的なブームで終わらせるつもりはないんです。
むしろ、今は多様性に富んだ時代。一部のエリートだけで議論を進めるのではなく、本来痛みを抱えている人や、学歴にこだわらずもっと幅広い人たちにこそ、話し合いに参加できるようにしたいと考えています。
その為にはもっと選挙のすそ野を広げる必要があるし、長期的な活動を“緩く”続けていくことが大事だと思っています。
—— まずは選挙の土台作りが必要なんでしょうか。
佐藤さん:
そうなんです。選挙に無関心な人でも、仲間内のクリスマス会やハロウィン、地元のお祭りは気軽に参加すると思います。それなら、選挙にもそういった文化の“雰囲気”をつくってみる。たとえばクリスマスと聞いてワクワクするように、選挙と聞いたときもワクワクするような感覚にしたらいいのでは?と考えました。
はじめは「選挙とはなんぞや?」といった状態でも、何となく参加したら楽しそう。まずはそんなふうに関わってもらえたらいいですね。
一方で、どんな議員か知らないで投票するリスクについてもちゃんと伝えたいです。気軽に入れた1票が、たとえばマイノリティに対してものすごく叩く人とか、権力を乱用する人に入れてしまう可能性もなかにはあります。
知名度とか勢いがありそうだからと、何となく票を入れた場合、そうした危険があることは意識する必要がありますね。
そこで、僕たちはセンキョ割という活動を行っています。センキョ割とは、投票済証明書や投票所の看板写真を、協力店舗で提示すると受けられるサービスのこと。飲食店でのドリンク1杯無料、来店しただけでお菓子がもらえるなど、店舗によって内容もさまざまです。
中学生から定年の人までがメンバーとして参加!
—— そもそも、センキョ割を始めたきっかけは何だったのでしょうか。
佐藤さん:
僕自身は以前から政治に興味がありました。しかし、政治についていろいろ勉強していくうちに、今の政治や選挙のやり方を続けていたらまずいな…と直感して。そこで、友人に現状を話すと、早稲田の商店街では選挙に行くと、割引などサービスしている話を聞いて、面白そうだなと思いました。
そこで僕たちもセンキョ割の活動を始めようと。どうせなら全国的に展開しようとなったのが始まりです。当初は、一番投票率の低い埼玉県からスタートし、徐々に活動範囲を広げていきました。
メンバーは、中学生から定年を迎えた人まで幅広い年齢層の人たちが参加。僕はいま予備校講師ですが、はじめは予備校の元生徒や口コミで興味を持った人が参加してくれたりしながら、人数も地域も広がっていきました。今では、東京だけではなく47都道府県で参加店舗があり、その数は全国で2000店舗以上にわたります。
——具体的にどんな事例がありますか。
佐藤さん:
たとえば、『猿田彦珈琲』さんをはじめ、『一風堂』さんでもセンキョ割の思いに賛同してくれています。『一風堂』さんでは「替え玉!」というところを「選挙割!」と威勢よくオーダーする声が聞こえたときは、ちょっと嬉しかったですね(笑)。
また、飲食店だけでなく渋谷で人気のクラブ『WOMB』さんなど、全国各地、幅広い業種で展開しています。
他にも、選挙権がない若者に、センキョ割の制度を用いながら、選挙について考える場を提供しています。たとえば、品川女子中学校の文化祭では、センキョの模擬戦としてセンキョ割を行いました。実際にタピオカチェーンのタピスタと提携。文化祭の企画ながらセンキョ割を実施していました。
また、センキョ割を広めるために、生徒みずからが足を運び、地域ならではの課題や問題点、改善策などヒアリングを行いました。こうした子たちが6年後(当時中学1年生)、18歳になっていざ選挙権を持ったときに、ただ票を入れるだけではなく、人の痛みや辛さも共感しながら選挙に向き合えると思っています。
ただ、気をつけていることは、僕らはあくまで選挙に対して何より中立の立場を大切にしています。どこかの政党や主義に偏らないことをモットーにしているので、「センキョ割」に参加する企業を選ぶ際は慎重に精査していますね。
あくまで緩く活動しつつも、センキョ割のブランディングは意識しながら、徐々に広められたらと思っています。
取材・構成/松永怜