このコロナ禍で、バーチャル世界への注目度が高まっています。

 

例えばアーティストのライブ。昨年はほぼ「無観客のオンラインライブ」という選択肢しかなかったのが、今年に入って「バーチャルライブ」という新しい形も目立つようになりました。今まで敷居の高かったバーチャル世界が、徐々にポピュラーなものになりつつあるのです。

 

最近は、2Dまたは3DのCGアバターを用いて動画投稿や生放送の配信を行う「VTuber」(「バーチャルYouTuber」の略)も増えています。

 

そこで今回、子育てをしながらVTuberとして活動中のおふたりにお話を伺いました。見えてきた

のは、“コミュニケーションツール”を主としたバーチャルから一歩進んだ、“自己実現”のためのプラットフォームとしての可能性です。

自己評価が低い自分を変えた「VTuber」の反省

まずお話を伺ったのは、「昭和生まれVTuber」の「昭子(しょうこ)」さんです。

VTuber昭子さん

プレ幼稚園生のママで、パートナーはサラリーマン。転勤族でしたがコロナが流行し始めてからはリモートワークがメインだといいます。

 

そんな昭子さんがVTuberになったきっかけは、スキルアップのためでした。

 

「以前、副業で司会の仕事をしていたんですが、話すことに自信が持てなくて。トーク力を磨きたかったのと、動画編集などのスキルを身につけたいと思っていたので、もともとは顔出しありのリアルYouTuberになりたかったんです。

 

それが、パートナーから個人が特定される活動はやめてほしいと反対され…それなら匿名性が守られるVTuberがいいかも!と」

 

まず自分で絵を描いてLive 2D(2次元のイラストをWebカメラの前にいる自分の動作に合わせて動かすアニメーション)のアバターを作り、Twitterを開設。準備には1か月半ほどかかったそう。

 

現在は、自分自身の経験を生かした「婚活動画」や「メンタル系動画」を制作して配信したり、ゲーム実況の配信を中心に活動しているといいます。

 

<昭子さんの配信動画>

「VTuberを始めて良かったことは、絵が描けるようになったり、苦手なホラーゲームを楽しめるようになったりと(笑)、今まで苦手だったことやできなかったことを克服できたことです。自己評価が低いタイプだったんですが、始めてから自分に自信がつきました。

 

お酒が好きで“飲酒配信”もよくしますね。なんと言っても気分転換になりますし、“バーチャル飲み友達”ができたのも嬉しくて」

 

活動時間が合いやすい子持ちのVTuberとコラボすることも多いと話す昭子さん。先輩ママにトイレトレーニングなど子育ての相談をすることも。リアルママ友と違って、子どものことだけでなく、VTuberとしての会話も楽しめることに救われる面も多いそう。

 

苦労しているのは、やはり「子育てとの両立」。寝かしつけた子どもが起きてしまって作業を中断することも多々あり、思うように活動できないこともあります。

 

それでも、配信の時間帯はパートナーが子どもをみてくれ、寝かしつけもしてくれるので助かっているという昭子さん。

 

「夫は基本的に私のやりたいことは応援してくれるので、感謝しています。ただ最近、VTuberの活動が忙しくパートナーとの会話が減ってしまって…。先日ケンカになってしまい、反省しました。今後は家族との時間を確保しつつ、VTuber活動をもっと広げていけたらと思っています」

産後うつに苦しむ日々…VTuberへの誘いが転機に

2人目は、「人妻子持ちお姉さんVTuber」の「日向(ひなた)ひみ」さんです。

VTuber日向ひみさん

お子さんは1歳7か月で、最近復職して正社員で働くワーキングマザー。もともと土・日・祝日が休みの仕事でしたが、コロナ禍で平日も月4日休みが増え、その時間を動画制作や配信に当てているそうです。

 

ひみさんがVTuberを始めたきっかけは、友人からの誘いでした。

 

「出産後、少し落ち着いた時期にコロナが流行し始めました。育休中に友達と会ったり食事に行ったりするつもりが、誰とも会えなくて…。いわゆる産後うつのような状態になってしまったんです。

 

そんなとき、友人から『オンラインでならいろんな人と話せるし、一緒に配信しない?』と誘われて。なんだか楽しそうだなと思い、始めることにしました」

 

アバターは「VRoid Studio」(3Dアバターが作れるアプリ)で、夜中にちまちま自作。「特別なスキルはいらない」と聞いていたものの、実際の作業はかなり難しく、「正直『嘘つき!』と思った」と笑います。

 

「でも、現実の世界では仕事と育児で自分のおしゃれを楽しむ時間もなく、寝かしつけで気づけば寝落ち…という毎日。だからこそ、寝グセにパジャマのリアルから、一瞬で“人前に出られる可愛い自分”になれるのが魅力なんですよね」

 

しばらくは最初に誘ってくれた友達と共同のチャンネルでゲーム配信を中心に活動していたひみさん。ところが、自分のやりたいことがはっきりしてきたため、チャンネルを分けることにしました。

 

「今は子育てに関する動画が主ですね。わが子の興味がどんどん変わっていくというのもあるのですが、子育てのリアルタイムな大変さは子どもが成長するにつれて忘れてしまうなんて、先輩ママに言われて(笑)。

 

この頃は授乳が本当に大変だったという自分の思いや、23か月の頃は“ちょちちょちあわわ”のふれあい遊びが好きだったなとか、テレビに同じ年頃の赤ちゃんが映ると反応していたなとか…そういうことをできるだけ、記録に残しておきたいという気持ちもあります」

 

<ひみさんの配信動画>

 

パートナーはひみさんの配信を横で聞いていることも多く、「趣味ができて良かったね」と応援してくれているそう。おかげで共通の話題も増えたといいます。

 

「私もVTuberの活動がモチベーションになって、仕事も育児も頑張ろう!と気力が湧いてきます。ただ、時間が足りないという悩みは尽きません。やりたいことはいっぱいあるのに全然追いつかない感じです。

 

今後は子どものアバターを作って、動画に登場させてみたいんです。テレビでも同じ年齢くらいの子が映っていると興味を示すので、YouTubeでもそうなのかな?と思って。それが他のお子さんやお母さんたちにも楽しんでもらえたら嬉しいです!」

 

 

おふたりとも、目標を持ってキラキラ輝いている姿が印象的でした。パートナーの理解が得られているのも素敵ですよね。

 

アバターは「もう1人の自分」とも言われますが、活動内容にはその人の個性が強く出るということもよくわかりました。

 

自宅で始められて、興味に応じたスキルが身につき、趣味の仲間とも繋がれるVTuberの世界。機材などは必要になりますが、技術の進歩で参入のハードルは下がってきています。

 

子育て中のママに限らず、「新しい自分」に出会える場として、今後さらに広まっていくのではないでしょうか。

取材・文/癒色えも