親の介護について相談する夫婦

親に介護が必要になったらどうするか、夫婦で話し合ったことはありますか。

 

夫婦がいて、それぞれの両親が健在であれば、夫婦1組につき、親は4人。その4人のほとんどが同世代の場合、同じように年をとり、同じようなタイミングで病気をしたり、入院をしたり、心身の不調が出ることは珍しくありません。

 

ひと昔前と今では、義父母の介護に対する考え方も変わってきています。

 

どう変わっているのか、介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さんに聞きました。

義父母の介護は長男の嫁の義務!?

「義父母の介護の主な担い手は長男の嫁」

 

いまだにそう思っている人もいるかもしれません。でも実はこれ、ひと昔前のスタンダードです。

 

今は、「親の介護は実子が担当する」が常識。

 

つまり、夫の親の介護の担い手は、子どもである夫なのです。

 

夫(男性)の年齢が60代以上の場合、いまだに長男の嫁が義父母の世話をするのが当然と思っている人がいるのも事実ですが、50代以下になると、そういった人は、かなり減ります。30代、40代の男性になれば、ほとんどが妻にやらせようとはしないでしょう。

 

30代や40代の女性の場合、「実母が義父母(自分から見て祖父母)の介護をしていたのを見ていた」という人もいます。だから「自分も義父母の介護をしないと嫁失格なのでは」と心のどこかで思っているかもしれません。

 

ですが、義父母の介護に対する世間の価値観は変化しています。

 

長男の嫁だからといって、義父母の介護をしなければ、と気負う必要はありません。

実子である夫がメインで介護すべき理由

介護は親の自立した生活を応援できるように、体制を整えること。

 

入浴や排泄、食事の介助といった身体ケアだけではなく、サービスの情報を集めたり、医療や介護の専門職と話したり、親の話に耳を傾けたり、幅広い領域のことを行います。

 

だからこそ、長男の嫁よりも、実子である夫の方がスムーズであることは多いのです。

 

たとえば親に「ヘルパーさんを使いましょう」と提案する場合。

 

これは、「心身機能が低下していますよ」「介護のためにお金を使いましょう」という2つのことを意味します。

 

嫁に言われたら「余計なお世話」と、カチンとくる親もいるかもしれませんし、デリケートなお金の話は伝え方が難しいでしょう。

介護の現場では女性の視点が生きることも

ただ、介護の現場ではどうしても、女性の視点が生きることがあります。

 

買い物にしろ、家の掃除や料理などの家事にしろ、身体介助にしろ、女性だからこそ気がつくことが多いのも現実です。

 

よく妻側である女性から聞くのは「夫に義父母の介護を丸投げされたら絶対に嫌だけど、夫から“手伝って”と言われたら私のできることはやる」という言葉です。

 

義父母の介護は夫がメインで行い、妻はできることをサポートする、というのが最近多い介護の形態です。逆に、妻の実家の力仕事は夫が手伝う、という声もよく聞きます。

グループLINEには配偶者を入れない

夫にきょうだいがいる場合、義父母の介護のことは、きょうだい間で情報共有しておくとスムーズです。

 

きょうだいでグループLINEを作っている人も多く、即座に情報が共有できたり、迷っていることを相談できたりとメリットが多いようです。

 

きょうだいのグループLINEには、それぞれの夫や嫁(配偶者)は入れずに、実子だけのグループにしておいた方がいいでしょう。

 

いくら配偶者とはいえ、親のお金の事情など、知られたくないこともあるでしょうし、きょうだい間でしかわかり合えない本音や、親の愚痴なども言いにくくなるからです。 

 

通常の友人関係や仕事での人間関係でも、「あの人には言えるけれど、この人には言えない、あるいは言いにくい」ということ、ありますよね。

 

グループ内の人数が増えるほど人間関係も複雑になり、スムーズに進む話も進みにくくなります。

親の介護で夫婦間に溝を作らないために

ある男性は、一人暮らしの母親が入院した際、「退院後は家に呼んで療養してもらおう」と妻に話しました。

 

ところが、その提案を妻は拒否しました。

 

男性は日頃から、そうするのが当たり前と思っていましたが、妻に伝えたことはなく、妻からすれば、いきなりの提案で戸惑うことばかりだったのです。

 

結局、義母を実家で一人にさせることはできず、なし崩し的に同居することになったものの、夫婦間には溝ができてしまったそうです。

 

親の介護は、事前に夫婦で話し合っておかないと、この夫婦のようになりかねません。以下の3つのポイントを押さえて話し合っておくようにしましょう。

夫婦で話し合っておきたい親の介護

  1. 1. 自分はどのように親と関わりたいか

  2. 2. 配偶者やきょうだいは、どのように親と関わりたいと考えているか

  3. 3. ①と②は、実現が可能か。意見が違う場合は、話し合って折衷案を考える。

親の具合が悪くなってからだと、3.を話し合う時間はなくなります。親が元気なうちに話し合っておくようにしましょう。

 

新聞やテレビでは、連日のように介護のことがニュースになっています。

 

テレビの映像などを見ながら話を切り出し、「実は親の具合が悪くなったら、実家を引き払って、近くに住んでほしいと思っているんだ」などと、さりげなく自分の意見を伝えておくのもいいでしょう。

 

PROFILE
太田差惠子(おおた・さえこ)さん

太田差惠子さん
京都市生まれ。1993年頃より老親介護の現場を取材。「遠距離介護」「高齢者住宅」「仕事と介護の両立」などの情報を発信。AFP(日本FP協会認定)の資格も持ち、「介護とお金」にも詳しい。一方、1996年遠距離介護の情報交換の場、NPO法人パオッコを立ち上げ、2005年法人化した。現理事長。主な著書に「親が倒れた!親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと」(翔泳社)、「親の介護で自滅しない選択」(日本経済新聞出版社)「親の介護には親のお金を使おう!」(集英社)など多数。

取材・文/樋口由夏 イラスト/福田玲子