介護離職を検討する女性

近年家族の介護のために仕事を辞める「介護離職」が問題になっています。

 

男女関係なく仕事をするのが当たり前である現代において「介護離職」は、社会にとっては損失、本人にとってはキャリアが中断する、経済的に困窮するといった問題があるからです。

 

仕事をしながら介護をする多くの子ども世代を取材し、情報を共有してきた介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さんに、介護離職の問題について聞きました。

介護はなんとかなるが、お金はなんとかならない

介護を理由に退職する人は年間10万人と言われています。

 

2016年10月から2017年9月の1年間に、介護・看護のために離職した人は9万9千人。うち男性は2万4千人、女性は7万5千人で、女性が75%を占めていました(※1)

 

親の介護で今の仕事を退職し、転職をした場合、年収は大幅にダウンするという調査結果もあります。介護のために転職した前後の年収を調べたところ、男性は約40%、女性は約50%も収入が減っていたのです(※2)

 

親の介護のために再就職しようとしても、再就職先が見つからずに、親の年金で生活している人も珍しくありません。しかも、親の年金は親が亡くなったらストップしてしまいます。

 

もちろん、退職をしても経済的に困らないケースや、ちょうど仕事を辞めようと思っていたタイミングの人は問題ないでしょう。

 

でもそうでないならば、安易に仕事はやめるべきではありません。多くの場合、介護はなんとかなりますが、お金はなんとかならないからです。

 

国も「介護離職ゼロ」を推進していますし、退職しなくても、介護はなんとかなるはずだと考えましょう。

親の介護を職場に伝えるメリット

労働者であれば、家族が介護を要するようになったときに仕事を休める法律があります。これを「介護休業制度」と呼びます(※3)

 

これらの制度は、介護が必要な家族を抱える人が、仕事を続けられるようにするための制度です。

 

通院の付き添いや、ケアマネジャーとの打ち合わせ、介護サービスや施設を探すときなどに、ぜひ活用しましょう。

 

育児と違って介護は、周囲から様子がわかりにくいものです。また出産や育児が先行きの目処がつきやすいのに対して、介護はいつまで続くのかがわかりません。

 

実際、職場に遠慮して、介護のことを言わないで休暇をとる人も多いのですが、長引くにつれて、自分の首を絞めてしまい、結局退職せざるを得なかったということもあります。

 

状況が見えにくいからこそ、職場にはできるだけ包み隠さず状況を伝えておいたほうが、周囲の協力や理解が得られやすくなります。

 

仕事と介護の両立で、もっとも大変なのは“介護体制を整えるまで”です。

介護体制を整えるまでのプロセス

  • 親の状況を把握
  • 支援や援助できる介護の専門職を探す
  • サービスや治療法などの契約を検討
  • 契約の手続き

最初のうちは、仕事を休んだり、遅刻や早退が重なったりすることもあるでしょう。でも、上記が整い2〜3か月たつころには、必ずラクになります。

 

またこれらは一人で抱え込むものではありません。地域包括支援センターの職員やケアマネジャーなど専門職の協力を得ることを基本にしてください。

 

この体制さえ整えれば、介護離職はしなくても済みます。

 

遠距離介護であっても同じです。「遠方の実家に通って身体介助をすること」は現実的ではありません。

 

近距離介護でも遠距離介護でも子どもの役割は「司令塔」です。繰り返しになりますが、介護体制を築くことができれば、働きながらの遠距離介護も成り立ちます。

親も子どもも100歳まで生きる時代が来た

「司令塔」というと、介護を丸投げしているようで冷たいと感じる人もいるかもしれません。でも、「丸投げ」と、司令塔になって「マネジメント」することは違います。

 

サービスの契約や治療法の決断などは、ケアマネジャーや医師がやってくれるわけではなく、司令塔である子どもが行う必要があります。仕事で鍛えられているからこそ、こういった決断がしやすいという人もいるのではないでしょうか。

 

いつもそばにいられないことはデメリットではないし、負い目を感じる必要もありません。

 

今や親も子どもも、100歳まで生きる時代です。それは言い換えれば、親子ともども100歳まで生活費がかかるということ。

 

親が100歳になるころ、あなたは何歳でしょう。あなた自身が退職して100歳になるまでどのくらい生活費がかかるでしょうか。

 

果たして親が100歳になるまで、自分が100歳になるまで、働かずに生活をしていくことができるでしょうか。

 

しかも、介護離職は自己都合退職となるため、退職金を支給している企業では、会社都合退職と比較して減額となることが一般的です。失業保険についても額が減り、給付期間も短くなります。
一時的な感情で安易に退職を選ぶのではなく、冷静に考える必要があるのです。

 

親が介護サービスの利用を嫌がったり、施設入居を嫌がったりすることもよくあります。そうした理由から介護離職を決断する人もいます。もちろん、親の気持ちを尊重してあげたい気持ちもわかります。

 

「私には仕事がある。仕事は辞めたくない」と伝え、サービス利用を促しましょう。場合によっては、施設入居をする選択肢も視野に入れてください。
仕事をしていれば、大変なこともありますが、実は仕事を辞めて介護に専念している人の方が、経済的にも精神的、肉体的にも負担が高くなるという調査結果もあります。

 

人生100年の時代、ぜひ自分の人生も大切にしてください。自分の人生を大切にしているからこそ、親のことも大切にできるのではないでしょうか。

 

PROFILE
太田差惠子(おおた・さえこ)さん

京都市生まれ。1993年頃より老親介護の現場を取材。「遠距離介護」「高齢者住宅」「仕事と介護の両立」などの情報を発信。AFP(日本FP協会認定)の資格も持ち、「介護とお金」にも詳しい。一方、1996年遠距離介護の情報交換の場、NPO法人パオッコを立ち上げ、2005年法人化した。現理事長。主な著書に「親が倒れた!親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと」(翔泳社)、「親の介護で自滅しない選択」(日本経済新聞出版社)「親の介護には親のお金を使おう!」(集英社)など多数。

取材・文/樋口由夏 イラスト/福田玲子
(※1)平成29年就業構造基本調査結果|総務省統計局 https://www.stat.go.jp/data/shugyou/2017/pdf/kyouyaku.pdf
(※2)「生活福祉研究」89号、力石啓史「仕事と介護の両立と介護離職に関する調査結果」|株式会社明治安田生活福祉研究所
(※3)介護休業制度について|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/kaigo/index.html