選挙ポスターの掲示板

正直、誰に票を入れても一緒だし、そもそも誰がいいのかわからない。そんな理由で、選挙に行かない人も多いのでは? もはや低投票率が当たり前の日本。本来はもっと豊かな生活が過ごせるかもしれない私たちに、今できることとは? 法学者の木村草太さんに、候補者選びのヒントを教えてもらいました。 

自分の関心や不安を解消してくれる人は誰か?

—— 選挙に行かない理由として、「誰に投票したらいいかわからない」、「誰に入れても一緒」といった声も聞きます。たとえば木村さんが候補者を選ぶ際、どんな基準で候補者を選びますか。

 

木村さん:

自分がどんな政策をしてほしいか、がポイントだと思います。私は憲法学者なので、人権とか法の支配、国民に対する説明責任を大事にする点を重視しますね。

 

—— そう考えると、自分が何を大事にしているか、何が好きで何が嫌いかといったことを、まず知ることがスタートなのでしょうか。

 

木村さん:

好き嫌いというより、自分が何を正しいと思うか、公共的な価値があると判断するかを考えてほしいですね。

 

選挙には、多くの人が参加します。ここで、さまざまな視点や意見が政治に反映されてゆくのです。

 

人間には、誰しも、何らかの意味で専門があります。たとえば、今生活に困窮している人や、女性として差別された経験がある人は、生活の困窮や女性差別について、他の人よりも深い知識や情報を持っているということです。それは、どんどん国会議員に伝えてほしいですね。

 

誰に入れても同じと言った声もときどき聞きますが、政策は各々によって全然違います。現在の自公政権では絶対に動かないような政策もたくさんあるので、よく観察することをお勧めします。むしろ「誰に入れても」と言う人って、変えたい政策がないんだと思います。

 

—— しかし、国会議員の人たちってどこか遠い存在に感じてしまう意見も聞きます。

 

木村さん:

それについては、現在の政府の責任も大きいですね。現政権は、国民とのコミュニケーションにあまり重きを置いていない印象です。コロナ対策を見ても、国民に方針をきちんと説明したり、国会議員からしっかり質問を受けようとする姿勢が弱い。

 

国会議員の活躍の場がなくなって、国民から縁遠くなってしまう。

 

ただ、俯瞰して見てみると、国会議員やその候補者の皆さんの中には、かなり頑張って有権者とコミュニケーションをとって、どうにか声をすくい上げようとしている人も多くいます。

低投票率が続く大きな理由とは?

—— 識者やメディアが選挙の重要性を発信しているにも関わらず、依然として低投票率のままなのは、なぜだと思いますか。

 

木村さん:

それが全てというわけでもないですが、「小選挙区制」の導入で、自分の一票が反映されにくくなったことは大きいと思います。

 

小選挙区制だと、当選するのは1人だけ。地盤や知名度が大きい候補がいる選挙区では、他の候補者に投票しても当選しづらい。たとえば小泉進次郎さんの選挙区だと、もう他の候補者は太刀打ちできない、となってしまうんです。

 

または、激戦区でも2人の強い候補者がいると、その2人の間では接戦になりますが、別に自分が投票したい候補がいても、当選見込みがないとなると、選挙から足が遠のいてしまう人もいるでしょう。

 

日本では、小選挙区制は1回の選挙で1人1回のみ投票します。しかしフランスでは、同じ小選挙区制でも1つの選挙区で2回投票します。1回目は自由、2回目は1回目の上位候補の決選投票です。

 

1回目は自分が好きな人に入れて、2回目は戦略的に投票できるわけです。これだと、1回目は当選可能性などを考えて戦略的投票をする必要はなく、一番好きな候補に投票できますね。

 

—— 今後の選挙について、私たちがやっておくこと、意識することはありますか。

 

木村さん:

テーマを持つことだと思います。国会では、物凄くたくさんの案件を話し合っていて、全てに興味をもつことは難しいですが、まずは政治参加のテーマをひとつ持ってほしいですね。たとえば、コロナ対策のための営業補償や、同性婚などの性的マイノリティの権利、児童虐待の防止などに興味があれば、それぞれ十分なテーマです。

 

まずは、自分が望むことを整理していく。そうすると、どの政党や政策が自分の思いに近いのか、どこに争点があるのかといったことがわかりやすくなると思います。

 

PROFILE 木村草太さん

木村草太さんプロフ画像
1980年横浜生まれ。法学者。東京大学法学部卒業後、東京都立大学教授。専門は憲法学。著書に『平等なき平等条項論』『憲法の急所』『キヨミズ准教授の法学入門』『憲法の創造力』『憲法学再入門』『未完の憲法』『テレビが伝えない憲法の話』『憲法の条件』『ほとんど憲法』などがある。

取材・構成/松永怜