「災害は怖いけれど、防災は、命を守り幸せにつながるもの。捉え方を変えると、面倒ではなく、ポジティブに向き合うことができると思います」

 

日本中のいつどこで災害が起こるかわからない昨今、気になるのは防災のこと。今回は、国際災害レスキューナースの辻直美さんに、今すぐできる防災のノウハウを教えてもらいました。

何かひとつでも備えておけば、助かる確率が確実に上がる

今年も記録的な大雨で、西日本を中心に土砂災害や川の氾濫など大きな被害が発生しました。つい先日も、出動要請があって、滋賀県にレスキューに向かってきたばかりです。

 

さらに日本は、地震大国。震度4前後の地震が頻発している状況もあり、日々防災に関する人々の意識が問われていると感じています。

 

家族がいるならなおのこと、備えは大切。ところが、そう頭ではわかっていても、なかなか一歩が踏み出せない人は多いのではないでしょうか。

 

なかには、どこか他人事だったり、面倒だと感じたりする方もいるかもしれません。

 

災害は恐ろしいというイメージが先行し、必要以上に怖がってしまう方も多くいます。しかし、何かひとつでも対策をするだけで、自分や家族の命が助かる確率が上がるんです。

 

「やらなければ命を落とす」ではなく「やれば助かる」。考え方を変えるだけで、前向きに取り組めるのではないでしょうか。

「今すぐできる防災」=「自分がどんな被災をする可能性があるか調べる」こと

「助かるならやらなきゃ!」と決意したはいいけれど、何から始めたらいいかわからない…そんなときは、自分がどんな被災をする可能性があるのかを調べてみましょう。

 

今すぐにでもやってほしいのが、ハザードマップで家の場所を確認すること。地形的に、水害や土砂災害が起こりやすいエリアがわかります。

 

ハザードマップは各自治体のホームページに載っています。また、被災リスクを測定できるアプリも数多く出ているので、使いやすいものでチェックしてみてください。

 

個人的におすすめなのは、「防災リスマ」(iosのみ)、「じぶんの地盤」、「cmap」の3つ。いずれも、郵便番号や住所を入力するだけで、台風、豪雨、地震などの際にどれくらい被災するリスクがあるのかが表示されます。

被災した方に多いのが、「まさか自分が被災するなんて」という心理です。人は誰でも、自分は大丈夫、と思いたいもの。ですが、実際に自分が被災する可能性を調べてみることこそが、備えや安心につながります。

 

また、自宅だけでなく、外出先で被災するケースも想定しておきましょう。子どもの学校や園、パートナーの会社、実家などの被災リスクも調べて、家族で情報を共有しておけるといいですね。

「地震」と「水害」とでは備えが変わる

自分が遭う確率が高い災害がわかったら、次はいよいよ備えについて考えていきましょう。実は、地震と水害では、備える内容が変わってきます。

「水害」は、前もって準備ができる災害

台風、豪雨などによる水害は、事前に準備ができる災害です。

 

「今週末に台風が来そう」「大雨が続く」などの情報は、天気予報や気象予報図を見て予測することが可能ですよね。

 

水害への対策としては、危険が差し迫った場合に迅速に避難できるよう、自宅近くの避難所の確認と、防災リュックの用意が重要です。

 

ところが、この2つの準備をしておいても、実は万全ではありません。

 

想像してみてください。暴風雨のなか、防災リュックを背負って避難所まで辿り着くためには、防災リュックの量や重さなどを考える必要がありませんか?

 

1番わかりやすくて早い方法は、実際に防災リュックを背負って歩いてみることです。

 

このとき、坂がキツくて時間がかかる、子どもを抱っこしながらだと歩けないなどの支障があれば、ルートの再考やリュックの中身を見直す必要が出てきます。

「地震」は、在宅避難を想定した備えを

一方「地震」は、いつ起こるかわからない災害です。

 

備蓄をしておくのはもちろん、家の中の危険について確認しておきましょう。なぜなら、被災した際、可能な限りは在宅避難をする方が安全だからです。

 

電気やガス、水道などのライフラインが切れても、そこで生活していけるだけの物とスキルがあれば、生きのびることができるでしょう。

 

ただ、地震が起こったときに、家の中が危険では困りますよね。まずは、家の中を見渡し、危険な場所と安全な場所をチェックしてみましょう。

大きな揺れが起こったとき、落下しそうなものや倒れてきそうな家具はありませんか? あるいは、入り口が家具やモノで塞がる可能性はないでしょうか?

 

この時「危ないかも」と思ったところは、地震のときに必ずあなたを傷つけます。

 

反対に、家の中の安全な場所を確保しておくことも重要です。机の下でも構いません。もし安全な場所がない場合は、安全地帯を作っておく。その場所を家族全員で把握しておくことも立派な防災です。

 

このチェックは、ぜひ、お子さんにもお願いしてみましょう。子どもの目線は大人と違うため、危険だと感じるポイントが違ってきます。

防災への一歩を踏み出そう

自分の被災する可能性や災害の種類を知り、危険と安全を知る。これだけでも、あなたの防災レベルは確実に上がります。

 

そして、次にできることは、今自分ができることを実際にやってみるということ。一つひとつの災害対策の積み重ねが、大切な命を守ることにつながっていくのです。

 

とはいえ、今回はあくまでも防災の第一歩にすぎません。実は、防災は、生活の質を上げてくれるばかりか、とっても楽しいものなんですよ。

 

これから私と一緒に、楽しみながら防災のスキルを磨いていきましょう。

 

PROFILE 辻 直美(つじ なおみ)

阪神・淡路大震災で実家が全壊したことを機に災害医療に目覚め、JMTDR(国際緊急援助隊医療チーム)にて救命救急災害レスキューナースとして活動。現在は講演会と防災教育をメインに、要請があれば被災地で活動を行っている。近著は『保存版防災ハンドメイド100均グッズで作れちゃう!』(KADOKAWA)。

取材・構成/水谷映美