離婚届を提出すれば、夫婦の関係は解消されますが、子どもの親としての関係は、その後もずっと続くもの。財産分与や養育費、親権や子どもの面会交流…夫と話し合うべきことは山積みです。そのためには、賢く上手な“円満離婚”が不可欠!

 

お金のことで泣かないためには、どんな準備が必要で、夫と何を話し合うべきか。もしも話がこじれた場合はどうすればいいのか。今回は、「損をしない離婚の方法」にスポットをあて、家庭問題カウンセラーの新川てるえさんにお話を伺いました。

8割のシングルマザーが養育費を受け取れていない現実

── 離婚を考えるにあたり、やはり一番不安なのがお金の問題です。離婚前に準備すべきことを教えてください。

 

新川さん:

現在、安定した収入があるかどうかにもよりますが、まずは、離婚の準備資金として、最低200万円は確保しておきたいですね。夫が家を出ていく場合は別ですが、新たに家を借りる場合には、引っ越し代や敷金礼金、当面の家賃のほか、必要なものを買い揃えていると、あっという間に100万円以上のお金が出ていきます。

 

夫の浮気や借金などの理由で弁護士に頼む場合は、それにまつわる諸費用も考えてなくてはいけません。自分のケースに照らし合わせて必要額を算出し、準備をしておきましょう。

 

── 子どもがいる場合、夫と取り決めておくべきことを教えてください。

 

新川さん:

財産分与や養育費、親権、子どもの面会交流について話し合う必要があります。特に、養育費はきちんと取り決めておかないと後悔します。事実、養育費の支払い率は2~3割程度で、約8割が受け取っていないのが実情なんです。

 

── 8割も!? なぜそんなに多いのですか?

 

新川さん:

驚きますよね。“これ以上夫と関わりたくない”とか、“安定収入があるし、ひとりで育ててみせる!”と離婚を急ぐあまり、きちんと取り決めずに別れてしまったり、取り決めても途中で支払われなくなってしまうケースが多いんです。

 

ですが、決して忘れてはいけないのは、養育費は子どもの権利であり、愛されている証でもあるということ。それをしっかり守ることは、親が果たすべき義務だと思うんですよね。

 

子連れ離婚の場合、うまく離婚できるか否かで養育費の支払いや面会交流などの事後が変わってきます。離婚して夫婦が他人になっても、子どもの親としての関係は続いていくわけですから、話し合いができないほど泥沼化してしまうのは得策ではありません。

 

水面下で準備はしつつも、強引に事を進めるのではなく、相手の意向を聞きながら、子どもにとっての幸せを考えて冷静に話し合い、互いに納得のいくかたちで離婚をするようにしましょう。

子供の寝顔を見ながら悩む母

── 養育費の相場は1人につき月3万円ほどと聞きますが、実際はどうなのでしょう?

 

新川さん:

双方の扶養能力に応じて金額を取り決めます。例えば、子どもが0~14歳までで、相手の年収が300万円、受け取る側の年収が100~200万円前後の場合は、相手が会社員なら2〜4万円程度。相手が年収600万円の会社員なら6~8万円程度が相場となっています。

 

ただし、子どもの年齢や受け取る側の年収によっても変わってきます。気になる方は、インターネットなどで裁判所が発表している養育費のガイドラインから金額を算出してみてください。

 

とはいえ、これはあくまで目安ですから、夫婦で子どもの将来プランに合わせて決めるといいでしょう。ちなみに、私は娘が9か月のときに離婚したのですが、娘が大学卒業して自立できるまでを考慮し、通常の“満20歳まで”より2年長い「満22歳まで」の取り決めをしていました。結局、私の場合も未払いの状態が続いたのですが…。

 

大事なのは、養育費や面会交流、財産や慰謝料などを取り決める際には、必ず「公正証書」を作ること。協議離婚での口約束や約束書きでは、もしも養育費の支払いが滞った場合、法的に取り立てることができません。ですから、公証役場で手続きをして「公正証書」を作っておくことがとても重要になるんです。

話し合いがこじれたら「調停」を選択する手も

── 養育費は子どもの権利だということを頭に入れ、冷静に話し合うことが大切なのですね。もし話し合いがこじれてしまったら、どうすればいいのでしょうか?

 

新川さん:

話し合いがまとまらない、相手が応じてくれないといった場合は、裁判所に「調停」を申し立てます。調停では、裁判官と調停委員が第三者として間に入り、話し合いを進める形になります。それでも合意に至らない場合は、裁判となり、判決離婚になります。

 

日本では、夫婦の話し合いで協議離婚するケースが9割を占めるのですが、私のところに離婚相談に訪れる方には、調停を勧めることが多いんです。

 

── それはなぜでしょう?協議離婚のほうが円満離婚のイメージが強いのですが…。

 

新川さん:

第三者が入って調整してもらえることで感情的になりすぎずに、要点をまとめながら話し合いを進めることができるからです。調停離婚であれば、必ず「調停証書」が作られるので、不払いが生じた場合は法的手段が取れます。

 

── 確かに離婚は本当に労力がいりますし、話し合いがうまく進まず、途中で心が折れそうになるケースがほとんどだと思います。私も経験者ですが、まさしくそうでした。第三者に入ってもらうほうがメンタル面でも良い気がしますね。

 

新川さん:

不払いの際には、裁判所が支払いを催促してくれる制度も利用できます。調停で証書が作られることで後々のトラブルを防ぐことにもなりますし、しかも、公証役場で「公正証書」を作るよりも、費用を抑えて作成できることもメリットのひとつだといえるでしょう。

 

Profile 新川てるえさん

新川てるえさん
作家・家庭問題カウンセラー。2度の結婚、離婚経験を生かし、1997年に情報サイト「母子家庭共和国」を開設。2002年子どもと家庭問題に悩む女性の自立支援のためのNPO法人「Wink」を設立。2014年子連れ再婚家族を支援するNPO法人「M-STEP」の理事長に就任。著書に『子連れ離婚を考えたときに読む本』(日本実業出版社)など。
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取材・文/西尾英子 イラスト/Akira Ayumi