離婚が頭をよぎったとき、真っ先に不安になるのはお金のことではないでしょうか。子どもを抱えて本当にひとり親として生きていけるのか、いざというときにどんな支援があるか、子どもの心を傷つけないためにはどう伝えればいいのか…。

 

離婚はプライベートでセンシティブな問題だけに、誰にも相談できずに一人で思い悩んでしまいがちです。賢い離婚をするためには、どんな準備が必要で、誰に相談すればいいのか。損をしないために知っておくべきことを家庭問題カウンセラーの新川てるえさんに伺いました。

 

離婚をする・しないに関わらず、いざというときにどうすればいいかを知っておくだけでも、気持ちのゆとりにつながります。

心にしてきたフタが壊れたとき…まずやるべきことは

── コロナ禍をきっかけにパートナーへの不満が爆発して離婚に至る“コロナ離婚”が増えていると聞きます。新川さんにも、そうした相談は増えていますか?

 

新川さん:

コロナ禍で、オンラインカウンセリングでの離婚相談をする方が急増しているのは確かです。在宅ワークで家族の時間が増えたことで“絆を感じる”など、自粛生活がプラスに働いた家庭も多い反面、これまで見えなかったことやフタをしてきたことが表出し、離婚を考えるケースが多いようですね。

 

さらに最近の傾向として、男性からの相談も増えています。オンラインでのカウンセリングができるようになったことで、対面のカウンセリングよりもハードルが下がって相談しやすくなっているのでしょうね。妻から離婚を言い渡され、“自分を変えたい”とメンタルトレーニングのプログラムを受けるケースもあります。

不仲な夫婦

── コロナ禍が夫婦の在り方を見直すきっかけになっているのですね。離婚が頭をよぎったとき、まず最初にやるべきことは何でしょうか?

 

新川さん:

最初にやっていただきたいのは、自分の気持ちをきちんと整理すること。離婚を考えるときというのは、つい感情的になって冷静さを欠いてしまいがちですが、感情に任せ、焦って決断するのは得策ではありません。ですから、自分自身と向き合って本当はどうしたいのか、時間をかけて考えましょう。

 

特に子どもがいる場合は、いろんな側面から考えたうえで、離婚に向かうのか、修復をはかるのかを決める必要があります。

 

また、離婚するかどうか思い悩んでいたり、離婚したいけれどなかなか決断できないときは、たいてい自己肯定力が下がった状態になっているケースが非常に多いんです。自己肯定感が低いと正しい判断がしづらく、自分の決断にも自信がもてないので、なかなか前に進むことができません。まずは、自己肯定力をしっかりと上げたうえで、離婚問題と向き合うことが重要なんです。

 

── 自己肯定感が下がった状態では、不利な条件を受け入れてしまうなど、適切な判断ができなかったり、自分の決断に自信が持てず悩み続けてしまうため、まずはメンタルを整えることが重要なのですね。

 

新川さん:

自信をもって前に進むためには、とても大切なことです。自分で行うことが難しければ、専門家の手を借りるのが有効。私のところでも、自己肯定感を上げるために、3か月間、メンタルトレーニングを受けてもらう場合がありますが、皆さん、自分の決断に自信をもって前進することができるようになります。

 

また、メンタルトレーニングを受けることで自分の考え方が変わって気持ちがラクになり、夫との関係性もよくなったというケースも。相手を変えることは難しいものですが、自分が変わることによって夫の対応が変わり、それによって夫婦関係が少しずつ改善されることもあります。

 

あるアンケート調査によると、離婚をするときに「誰にも相談しなかった」と答えた人が多いんです。ですが、ひとりで思い悩まずに、ぜひ誰かに相談してほしいですね。第三者の意見をもらうことで、状況を客観視することにもつながります。

抱えている問題に応じて第三者に相談するのが賢い選択

── 離婚はセンシティブな問題なので、ひとりで抱え込んでしまい、どんどんネガティブな思考にはまりこんでしまいがち。相談したいと思っても、“誰に何を相談していいかわからない”というケースも多そうです。

 

新川さん:

自分が今、抱えている状況や課題によって相談相手は違ってきます。つらい心の内を打ち明けたいとか気持ちの整理をしたいなら、心理カウンセラー。できれば、離婚相談の実績がある専門家を選びましょう。

 

法律的な問題なら、無料相談ができる法テラスや家庭裁判所の家事相談へ。地域の男女共同参画センターの相談窓口では、法律相談だけでなく、離婚に関するさまざまな情報も得られるので、そうした場所を活用することをお勧めします。自分で弁護士を探す場合は、離婚に強い弁護士を探しましょう。

 

ひとり親家庭の支援について知りたいなら地元の行政窓口、離婚後の就労情報に関することなら、女性センターやハローワークが相談にのってくれます。ひとり親になった場合のマネープランなら、ファイナンシャルプランナーにシミュレーションをしてもらうのがいいと思います。

 

── 自分の状況や今後の課題を掘り下げながら、何が必要なのかを整理してみる。いざというときにどういう手段があるのかを知っておくだけでも、気持ちが落ち着きそうです。

 

新川さん:

情報収集をするときに気を付けていただきたいのは、正確な情報に触れることです。インターネットを活用する方も多いと思いますが、ネット上のクチコミのなかには、間違った情報や個別のケースで自分にはそぐわない場合も。専門家が発信する正しい情報であるかを確認しましょう。離婚に関する書籍などを活用するのも有効です。

 

── 事前に適切な場所から情報を得ることが大切なのですね。

 

新川さん:

そうですね。後悔しない上手な離婚ができるかどうかは、事前の準備にかかっています。思いに任せて急いで離婚を決断せず、ある程度の時間をかけ、入念に準備して計画的に進めることが大切です。

 

私のクライアントには、“子どもが大きくなったら離婚する”と計画し、経理や保育士の資格などをどんどん取得して、ひとり親でも生きていけるように着々と準備をしている方もいらっしゃいます。

 

もちろんお金をしっかり貯めておくのも大事。いつでも離婚ができるように準備をしておくことで、逆に気持ちにゆとりが生まれ、うまくやっていけるようになる場合もあります。

 

Profile 新川てるえさん

新川てるえさん
作家・家庭問題カウンセラー。2度の結婚、離婚経験を生かし、1997年に情報サイト「母子家庭共和国」を開設。2002年子どもと家庭問題に悩む女性の自立支援のためのNPO法人「Wink」を設立。2014年子連れ再婚家族を支援するNPO法人「M-STEP」の理事長に就任。著書に『子連れ離婚を考えたときに読む本』(日本実業出版社)など。
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取材・文/西尾英子 イラスト/Akira Ayumi