過去問を解く

かつては「裕福な家庭」「優秀な子」のためのもの、というイメージが強かった中学受験。しかし最近では、多くの家庭がチャレンジするようになっています。

 

気になるけれど、何から始めればいいのかわからない…。そんな保護者向けに、「中学受験の正体」を“イロハ”から進学塾VAMOSの代表・富永雄輔さんに教えていただきます。

 

今回は、志望校の過去問の取り組み方について、いつからどのように取り組めばいいのか伺います。

合格可能性は過去問ではかる

受験学年の秋になると志望校の過去問(過去の入試問題)を解くことになります。

 

過去問題集として有名なのは、「スーパー過去問」シリーズ(声の教育社)、通称赤本です。学校別に過去数年分の入試問題・解答・解答用紙・合格者平均点や合格最低点などが載っています。

 

入試問題は、学校ごとに癖があります。問題文がものすごく長い、100字以上の記述がある、知識問題が多い、算数の式の立て方まで採点する、など…。

 

入試本番までに、志望校の問題に慣れ、具体的対策を講じるという意味で、過去問は一般模試以上に重要です。

 

模試の結果が悪く志望校の合格可能性が「20%」と出ても、過去問で合格点を取れるなら受かる可能性は十分にあります。

いつからやる?難易度、年数、回数は?

一般的に過去問に取り組むのは、受験生が全範囲を学習し終える6年生の9月以降と言われています。

 

ただ、それは成績がよく上位校を狙う子の場合。僕は、中堅校以下を狙う子は11月スタートで十分だと思っています。

 

基礎力がついていない状態で過去問を解いても、意味はありません。それどころか、まったく歯が立たず、かえって自信をなくしてしまう可能性も。

 

中堅校以下は入試問題に癖がないので、塾のテキストにしっかり取り組んでいればおのずと対策ができます。焦って過去問に手を出す必要はありません。

難易度は低い方から始める

複数の学校の過去問に取り組む際は、難易度の低い方から取り掛かるようにしましょう。

 

2年分やって「合格点が取れた」「今は合格点に達していないけれど、このまま勉強していたら取れるだろう」と思えたら、その学校の過去問はいったん卒業して、次の学校の過去問に移ります。

志望校決定の手がかりにも

ただし、難易度が高めの学校でも、早い段階で過去問に取り組んだほうがいい場合もあります。それは、「海城にするか早稲田にするか」など志望校が絞りきれないケース。その場合は候補の学校の過去問を早めに解き比べてみましょう。

 

「A校の過去問は解けるけど、B校の過去問は苦手ジャンルが中心に出題されていて難しかった」などが見えてくれば、その手応えで、志望校が定まることもあります。

回数は1〜2周、ただし御三家は例外

過去問題集はたいていの場合、3年分の入試問題が収録されています。基本的にはこれを1~2周やれば大丈夫です。

 

最近は時事問題が増えていますし、大学入試改革に対応するため問題の傾向を変えてきている学校が多いので、 昔の赤本をわざわざ入手してまで古い問題をやる意味はないと思います。

 

ただし、御三家は例外です。問題の癖やレベル感、答案の作り方をつかむため、僕は10年分を2周やることをおすすめしています。

直近1年分は直前にとっておく

過去問は、古い年度のものになればなるほど、問題傾向が今のものとは違ったものになります。

 

直近1年分は受験直前用にとっておき、その前の年から、さかのぼって取り組むことを僕はおすすめします。

「解答を隠す」などの環境整備は保護者の仕事

過去問を解く際は、制限時間を守り、問題や解答用紙は実際の入試と同じサイズになるよう拡大コピーしておくなど、本番に近い環境にするのが鉄則です。

 

ただ、忙しい生活の中では、入試と同じタイムスケジュールで4科目に取り組むのは難しいでしょう。朝や夜、土日など、すきま時間に1科目ずつやるのでかまいません。

 

特定の教科を連続して解いたりせず、4科目まんべんなく取り組めればOKです。

 

なお、赤本をそのまま渡すとどんなにまじめな子でもカンニングをします。解答は切り離して、保護者が隠しておきましょう。

 

そうした環境整備は保護者の「仕事」だと考えてください。

採点結果が悪くても落ち込まない

採点は保護者がやりましょう。

 

とくに11月以降は、漢字のとめ・はね・はらいや数字のかき方など細かいところまでチェックしたいところです。

 

採点していると、「えっ、算数で40点しか取れないの?」「できなかったところをちゃんと直して!」と焦ることもあるでしょう。

 

でも、入試で満点を狙う必要はありません。各学校とも、点差をつけるために難問を必ず入れていて、それはよほど得意でない限り捨ててしまってかまわない。そういう「捨て問」の直しまでさせる必要はありません。

 

やるとしたら、15分だけ子どもに見直しをさせて、「ここの計算ミスをなくせばあと5点取れた」というふうに分析させるくらいでいいでしょう。

 

気にするべきは得点と合格点の差です。合格点まで何点足りない、じゃあ科目別に何点上げればいいのか、具体的に分析するのです。

 

そうすれば偏差値に振り回されず、精神的な負担も減りますよ。

 

中学受験の正体_matome1

9月に過去問を解き始めると点数の低さに驚きますが、焦りは禁物。

 

合格点との差、ミスの内容を分析して、どのようにその差を埋めるか考えるようにしましょう。

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監修/富永雄輔 取材・構成/鷺島鈴香 イラスト/サヌキナオヤ