かつては「裕福な家庭」「優秀な子」のためのもの、というイメージが強かった中学受験。しかし最近では、多くの家庭がチャレンジするようになっています。
気になるけれど、何から始めればいいのかわからない…。そんな保護者向けに、「中学受験の正体」を“イロハ”から進学塾VAMOSの代表・富永雄輔さんに教えていただきます。
今回は、つい気になってしまう模試の偏差値についてうかがいます。中学受験における偏差値の捉え方とは…?
偏差値は受ける模試によって違う
「〇〇中学の偏差値は55」「うちの子の偏差値は52」というようなとき、その偏差値はどの模試によるものか注意する必要があります。
偏差値は、その模試を受けた人たち(母集団)の中での位置づけを示すもの。偏差値50ということは、その試験の受験者の中で平均的な位置にいるというふうにとらえておいてください。
当然受ける模試によって出てくる偏差値は異なります。ひとつの模試を受けて出た偏差値が、中学受験生全体での子どもの位置づけを示すわけではありません。
大手のなかでは、サピックスの模試の偏差値が一番低く出ると言われています。難関校狙いの学力の高い層が多く受けるからです。
サピックスの模試よりも5〜6高い偏差値が出るのが四谷大塚と日能研の模試です。そして、その四谷大塚や日能研の模試よりも、5〜6高い偏差値が出るのが首都圏模試と言われています。
だから、基本的にはサピックスで低い偏差値が出ても落ち込む必要はありません。
ただ、ここ数年は、サピックスが幅広い学力層を受け入れるようになったため、少し事情は変わりつつあります。別の模試も受けながら慎重に判断したいところです。
模試で出た偏差値は、母集団の性質を知った上で、見る必要があります。
くれぐれも首都圏模試で出た子どもの偏差値を、サピックスの「80%合格偏差値」に当てはめて、「受かる!」と勘違いする…ということのないようにしましょう。
1回の偏差値で判断するのは危険
中学受験の偏差値は、三つの意味であてになりません。
受験生はまだ幼さの残る小学生です。
小学生というのはメンタルの起伏が非常に激しく、その日その時のコンディションで問題の出来不出来がずいぶん違ってしまうもの。だから、1回の偏差値は「瞬間風速」に過ぎないと考えてください。
また、模試はどうしても内部生に有利です。
模試は、多くの場合、大手塾が行っていて、受験生の8割はその塾に通う内部生。慣れない模試で、本領を発揮できる子はほぼいません。問題形式や、問題用紙の大きさ、とじ方に慣れている内部生の方が有利です。
さらに言えば、実際の入試と模試の問題傾向が違う可能性もあります。
模試で偏差値50が出たから、偏差値40の学校に受かるとは限らないのです。このギャップは、「問題の難易度が違いすぎる」「問題形式が違いすぎる」「その学校を目指す受験生があまり参加していない」といったときに起こりがちです。
複数の模試を複数回ずつ受けて、偏差値や合格可能性の平均値をみることが大切です。
低い偏差値が出たら塾の先生に相談を
低い偏差値が出ると、「落ちこぼれてしまった」とおろおろしてしまう保護者もいます。
でも、受けた子の半分は偏差値50以下。低い偏差値が出たこと自体は、僕はそれほど問題ではないと思っています。
「何がなんでも御三家狙い」などでなければ、いくらでもいい学校はあり、過去問との相性が良ければ、偏差値とは関係なしに受かる可能性はあります。
子どもが低い偏差値を取ってきたときに保護者が重視すべきは塾の先生の対応です。「これからどうしましょう」と相談したときに、的確な答えが返ってくるかどうか。
その子の学力や性格などをふまえ、どのような志望校を提案し、そこに受かるための具体的な道筋を示してくれるのか。遠慮せず塾の先生に相談して、上手にアドバイスをもらうようにしましょう。
まだ幼さが残る小学生の模試の偏差値は、あまりあてにはならないもの。
複数の種類の模試を複数回受け、子どもの立ち位置を見極めるようにしましょう。