「命のバトン」という言葉を聞いたことはありますか?
9月からスタートするNHKドラマのタイトルでもありますが、実は以前からいろいろな場面で使われてきた言葉で、小学校の道徳の授業などで取り上げられることもあります。
今回は、「命のバトン」あるいは「いのちのバトン」とはどんな意味なのか、それぞれ解説します。
授業で取り上げる「いのちのバトン」とは
「いのちのバトン」とタイトルに入った本はいくつかありますが、そのなかでも小学校の道徳でよく題材となるのが、相田みつをさんの詩集に収録された「自分の番 いのちのバトン」という詩です。
「父と母で二人 父と母の両親で四人…」と先祖をたどっていくと、二十代前では「なんと百万人を越すんです」と、自分の命は数えきれないほどの人たちから受けついだ「いのちのバトン」であるということを伝えています。
あ、どこかで見かけたことがある…という人も多いのではないでしょうか。
そして作者は
「過去無量のいのちのバトンを受けついで いま ここに 自分の番を生きている」
と語っています。
たしかに自分の命はひとつですが、ずっと昔から親たちが子供へと、厳しい自然環境や戦争や疫病にも負けずたくさんの命をつないできてくれたからこそ、いま自分が生きている…そんな日頃は忘れている奇跡のような事実を思い出させてくれますね。
105歳で亡くなる半年前まで現役医師として働いた日野原重明さんは、78歳から、命の大切さを伝える「いのちの授業」を全国の小学校200校以上で行いました。
著書『いのちのバトン―97歳のぼくから君たちへ』に収録された詩には、
いのちとは、「君たちの持っている時間」「君たちが使える時間」
とあり、前書きでも「大きくなったら、自分以外の誰かのためにもきみたちのいのちを使ってください」と子供たちへ語りかけています。
救急救命で使われる「命のバトン」とは
一方、各地の自治体では、おもにひとり暮らしの高齢者や障害のある人を対象として、緊急時にかけつけた救急隊員がすぐに医療情報がわかるように冷蔵庫で保管する取り組みを行っています。
リレーのバトンに似た筒状の容器に、名前・緊急連絡先・持病・服薬情報・かかりつけ医などを書いた紙を入れて、どこの家にもある「冷蔵庫」で保管します。
そして冷蔵庫のドアに「命のバトン」が入っていることを示すステッカーを貼っておけば、意識がなくても見つけてもらいやすいという仕組みです。
子供たちにとっては離れて住むおじいちゃんやおばあちゃんと気軽に会えない日が続きますが、ご両親がお住まいの地域に「命のバトン」の制度があれば、テレビ電話の時などに「お薬の種類は変わってない?」などとたずねてみるのも良いですね。
また、福井県にはNPO法人「命のバトン」もあり、県内の学校や団体向けに、AED・救急救命講習会の開催や、一次救命教育、AED無料貸出などの活動を行っています。
NHKの新ドラマ「命のバトン」とは
2021年秋に放送開始予定のNHKドラマ『命のバトン』では、予期せず妊娠してしまった高校生を支える児童相談所の児童福祉司の姿を通じて、「赤ちゃん縁組(新生児特別養子縁組)」について理解を深め、命の尊さと多様な家族の形を伝えていくとのことです。
生まれた赤ちゃんが親によって死亡させられるのは、実は「0歳0ヶ月0日」つまり生後すぐがもっとも多いことが分かっています。
その背景には、さまざまな事情で妊娠し誰にも話せず出産に至ってしまう、学生を含む女性たちの苦しい状況があるといわれています。
そうならないためのひとつの方法として、30年以上前から愛知県の児童相談所では、不妊治療に苦しむ夫婦などを中心に、本当に赤ちゃんを大切に育ててくれる里親のもとへ生後すぐに赤ちゃんを託す「愛知方式(または愛知モデル)」が導入されていました。
愛知方式では、
- 赤ちゃんの性別は選べない
- 病気や障がいの有無で引き取りを左右しない
- 審判成立前に生みの親が引き取りたいと申し出たら、つらくてもお返しする
といった厳しい条件がありますが、それだけ本当に「子育てをしたい」と望む人たちと赤ちゃんが巡り会えるということでもあります。
2016年には児童福祉法が改正され、「家庭養育優先原則」として、事情があって産みの親と暮らせない子どもたちには、乳児院等の施設よりも特別養子縁組や里親など家庭を基盤とする養育を優先する方針が打ち出されました。
そのため、これからは全国的に「赤ちゃん縁組(新生児特別養子縁組)」が広がっていくのではないかと考えられています。
もちろん予期せぬ妊娠が起こらない社会を目指すことは最優先課題ですが、今できる支援の1つとしてドラマで理解を深めておくのも大切ですね。
おわりに
よく耳にする「命のバトン」「いのちのバトン」。いろんな意味があって混乱していた人もいるのではないでしょうか。
今回の記事で、それぞれの「命のバトン」が整理できれば幸いです。
文/高谷みえこ ※画像はイメージです
参考/書籍『いのちのバトン ―初めて出会う相田みつをのことば』相田みつを 著 角川書店
書籍『いのちのバトン―97歳のぼくから君たちへ (絆シリーズ)』日野原重明/いわさきちひろ 著 ダイヤモンド社
NPO法人命のバトン~命をつなぐ心を育てる会~ https://heartlife-fukui.com/
NHKドラマ|鈴木梨央×倉科カナ ドキュメンタリードラマ「命のバトン」制作開始! https://www.nhk.or.jp/dramatopics-blog/20000/448112.html
厚生労働省「愛知県 新生児里親委託の取り組み」 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000011cpd-att/2r98520000011dif.pdf