かつては「裕福な家庭」「優秀な子」のためのもの、というイメージが強かった中学受験。しかし最近では、多くの家庭がチャレンジするようになっています。
気になるけれど、何から始めればいいのかわからない…。そんな保護者向けに、「中学受験の正体」を“イロハ”から進学塾VAMOSの代表・富永雄輔さんに教えていただきます。
中学受験では「夏を制するものは受験を制する」といわれます。では、夏に本気になれなかった受験生はどうしたらいいのでしょうか。今回は、そんな受験生の保護者がこれからすべきことをうかがいました。
夏に本気になれる子どもは、全体の2割~3割
受験は「夏が本番」と言われますが、個人的には「夏までは序章」だと思っています。なぜなら、夏に頑張れなかったからといって、中学受験に失敗するわけではないからです。
確かに、御三家を狙う受験生は、夏の段階で最初のふりわけが始まっています。逆転できる受験生もいますが、夏にスパートがかからないと、あのレベルに到達するのは難しいかもしれません。
でも、受験生全体のうち、夏に本気になれる子は2割から3割ほど。本気になれない子どもたちの方が圧倒的に多いのです。
では、いつが正念場かというと、秋。さらには冬なのです。
秋以降は志望校が決まれば、対策をして逆転できます。だから夏の失敗は焦らなくて大丈夫。小学生の集中力は3か月くらいしか持ちません。受験生がマフラーを巻き始めたら、いよいよ勝負のときです。
子どもの“やる気”は見た目で判断できない
夏に本気になれる受験生が少ないとはいえ、「うちの子は大丈夫だろうか」と不安に感じる保護者は多いと思います。
まず考えていただきたいのが、何をもって「子どもが本気になった」と判断するか、という点です。本気の出し方は人それぞれで、判断は難しいです。
中学受験では、受験生が本気になる“スイッチ”があると言われますが、「そんなスイッチが本当にあるのだろうか」と僕は思います。やる気があるように見えるけど実際には勉強が進んでいない子、やる気がなさそうに見えてやるべきことを終わらせている子もいます。
僕は、見た目のやる気ではなく、受験のためにすべきことができていれば大丈夫だと判断しています。
もちろん、保護者の直感は大切です。入試前になると「子どもの目の色が変わった」とおっしゃる方がいます。「目の色が変わった」のは、子どもと毎日接する保護者だからわかることであって、周りの人間にはわかりません。観察力からくる保護者の直感は侮れないのです。
夏から秋にかけて、受験生はどんどん変化していきます。できれば、本気になったサインを探すだけでなく、受験生からのSOSのサインがないかも観察していきましょう。手をつなぎたがったり、おねしょをしたり、受験生はいつもと違うサインを出すことがあります。
秋以降は子どもと志望校の距離を測る
夏まではほかの受験生と共通のカリキュラムを受けていましたが、秋以降は志望校を決めて、合格までの道のりを考える時間となります。つまり、他人との比較から、受験生と志望校の距離を見る時間に変わっていくのです。
そこで保護者がすべきことは3つあります。まずは9月の模試を冷静に分析すること。「この子はやればできるはず」「うちの子にこの問題はできない」という過大評価も過小評価もせず、データ上の数字を信じてください。
次に、早めに志望校を決めます。実は、これが合格するためにもっとも大切です。志望校が決まれば、合格点までにたりないものを逆算できます。
志望校を決める際は、保護者の一方的な判断で志望校を変更せず、受験生の意志をきちんと尊重しましょう。
最後に、志望校と現在の状況を踏まえて塾の先生に相談します。そうすれば塾の先生から、今後どう対策を打っていくべきか、具体的なアドバイスがもらえます。
志望校の合格点は決まっています。どうすればそこに到達できるのかを模試などのデータをもとに考えてきましょう。
言葉かけでは、受験生の目標がわかりやすくなるように、「志望校にはこの問題が必要だよ」「模試では、このくらいの偏差値を目指そうね」と言うのが最適です。
志望校を定めたら傾向と対策で近道を
志望校が決まったら、なるべく最短距離の一本道を行けるようにショートカットしていきましょう。
ここでいうショートカットとは、入試問題の傾向を見て「どこまでの難易度が出題されるか」「ジャンルとして出ない分野はあるか」を指します。
見極めが難しい場合は塾の先生に相談しましょう。とくに志望校別クラスがある塾は、問題研究を徹底しています。
秋からは模試のデータをもとに、子どもの現在地と志望校までの距離を冷静に測ることが必要です。
保護者が焦るのは受験生を心配しているから当たり前。入試問題の傾向を把握して、合格までのラストスパートをかけましょう。
監修/富永雄輔 取材・構成/ゆきどっぐ イラスト/サヌキナオヤ