書籍『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(通称:ビリギャル)の著者・坪田信貴先生に、親が子どもに言ってはいけない言葉を伺います。今回は「将来なりたいものはないの?」について。ありふれた言葉ですが、どんな弊害が生まれるのでしょう。
夢を聞くと呪縛になる
── 坪田さんは子供に将来の夢を聞かない方がいいと著書でおっしゃっていますよね。その理由はなぜですか?
坪田先生:
将来の夢を聞いて答えられる子って、語れるのは結局、自分の身の回りのことだけなんですよね。
例えば、幼稚園のころは仮面ライダーとか、ケーキ屋さんとか。これって全部自分の生活圏内にあるもの。
「生命保険会社の営業になりたいです」って人はいないんです。なぜならそういう職業があるって知らないから。
高校生になっても、結局、医者や弁護士のテレビドラマを見たからとか。なりたい職業のランキングって、本質的にはほぼ変わらないんです。
ある人が、子供は親、先生、先輩、店長…限られた大人にしか出会っていないといっていて「そうだな」と思いました。
知識がこれぐらいの子に「将来の夢を考えなさい」と言っても、生活圏内で選びなさいというのと同じことになってしまいます。これは「呪縛」になりかねない。
警察官になりたいと言ったら、警察官にならないとダメという思いこみを持ってしまいます。
── 呪縛は怖いですね。
坪田先生:
ええ。人は大人になったら、もっと選択肢があるはずなのに、目を向けられなくなってしまう。
また、中高生に「大きくなったら何になりたい」かと聞いたら「わかんない」というのがほとんどですが、それって正しいですよね。
社会を知らないから。「スリランカのどこにいきたいか」と言われても「え、わかんない」って言いますよね。だって、知識や経験外だから。
それなのに、「自分のことを言われているのにわからないの」とまわりから言われてしまい、「あれ、自分はダメなやつなのかも」と自己認知するようになるんです。
そんな自己認知につながる問いかけが「将来、何になりたいの」なんです。
「自分のことなのにわからないんだ、あ、自分ダメだな」と思わせるような問いかけなんですよね。
呪縛をかけるより、選択肢の提供を
── それは怖い問いかけですね。代わりにどう聞いたら良いでしょう。
坪田先生:
代わりに、「こういうものもあるんだよ、面白そうじゃない、あなたの性格からするとこういう仕事もあるんだよ。面白そうじゃない」とか、「向いてるんじゃないの」とか、その子の知識や経験外で面白そうなことを教えていってあげるといいと思います。
そのためには、ある意味で、大人も見聞を広めないとダメだと思いますね。
── 子どもはそう言われるとやる気になりますね。普段もそういう言い方を塾でされているんですか。
坪田先生:
そうですね。大学受験の目標みたいなものも同じです。「こういう大学があって、こういう学部があって、こういうことを学ぶんだよ、こういうのって面白そうじゃない」ってことを子供に言えたら、「そんなん考えてもなかった」っていう反応が多くきます。
そして、「やりたいな」と思って、子どもが変わっていくっていうことが多いですね。
── 押しつけじゃなくていいですね、面白いんじゃないという言い方は。
坪田先生:
そうですね。子どももワクワクして将来を自分で考えられますね。
PROFILE 坪田信貴(つぼたのぶたか)
取材・文/天野佳代子