『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(通称:ビリギャル)は映画化もされ、大ベストセラーになりました。その著者である坪田信貴先生は親が子供の失敗を危惧し過ぎることを問題視しているそう。その意図とは?

失敗を許さない教育が成長した子どもを潰す

── 坪田先生は著書で「失敗を恐れない子にするために『水たまりがあるからよけなさい』と言ってはいけない」とおっしゃっていますよね。これにはどういった意図があるのでしょうか。

 

坪田先生:

僕が塾で親御さんと接していてすごく感じることです。例えば、そのまま歩けば子どもが水たまりで足がびしょ濡れになる、石につまづくことが予想できるとき、すぐ「気をつけなさい」と手を出しがちだと。親が近くにいるときはそれでいいと思うんです。

 

でも水たまりに入って、気持ち悪くなるのは本人だし、石に転んだりして痛い思いするのも本人で、そういう失敗経験から学ぶことはすごく大事なんです。

 

大学卒業して社会に出て「さぁ、ひとりで生きていきなさい」となったら、急に周囲の水たまりが海に変わったり、石じゃなくて落とし穴だったりすることがある。

 

再起不能な失敗が起こりうる状況になってから、失敗経験から自分で学びなさいというのは無理な話です。学生時代のうちに積極的に失敗させ、そこからいかに学ばせるか…そのための声がけが大事なんです。

 

── 親としては予想できる子供の失敗を耐えて見守るのはたいへんですね。

 

坪田先生:

よく言われるのは、親という字は木の上に立って見ると言いますが、木の上に立って見るどころか、ずっと手を出し続けてしまう親御さんが多くいらっしゃる。

 

そうすると親の顔を見て行動する子になりますからね。そして、失敗ってよくないと思い、失敗したときに大きくメンタルを崩すようになります。

 

── 小さいころから失敗を許されてないと、大人になってから大変ですね。

 

坪田先生:

そうです。失敗を恐れると、人に頼れなくなってしまいます。失敗を許されない家庭で育つと、受験の時でも、挑戦しようとする前に失敗を恐れて、不安になってしまいます。

調子に乗るぐらい子どもを褒められるか

── 失敗をたくさんさせるとともに何が重要でしょうか。

 

坪田先生:

基本的には、中立的なフィードバックが大事だと思っています。ただし、褒めた時、「褒めたら子どもは調子にのるじゃないですか」と言われることが多いけれど、調子にのるぐらい褒めることってめちゃめちゃ難しいですよ。

 

例えば説教するとか、叱るときは5分、10分続けられますよね。校長先生の説教とかめちゃくちゃ長かったりすることがあります。

 

でも同じだけの時間、褒め続けることはできますかっていうと、どうですか。

 

── できないですね。

 

坪田先生:

そうなんです。じゃなんでできないかっていうと、語彙(ごい)がたりないんですよね。褒める語彙が。

 

少なくとも日本であまり褒められていることがないから、学んでないんですよね。

 

調子にのるぐらい褒められるのはすごい能力で、1時間叱って1時間褒めるぐらいの親が本来はいいんだと思います。

 

── ビリギャルの大成功も調子にのらせられたからということですよね。

 

坪田先生:

そうそう。調子にのらせた方が絶対いいですよ。めちゃめちゃ謙虚で失敗しないようにということをやり続けている子と、すごいいろいろ積極的に失敗ばかり重ねている子ってどっちが成功すると思いますかっていう話だと思います。

失敗と呼ばず「未成功」と呼ぶ

── たしかに。でも、失敗ばかり重ねてうずくまってしまう子はいませんか。

 

坪田先生:

失敗するのが当たり前で、それでもめげないようなメンタルにしていくことです。

 

コーチングの権威とされる先生がいて、その方がおっしゃっていた言葉で、めちゃくちゃおもしろいなあと思ったのがあります。

 

失敗という言葉がよくないと、「未成功」と呼ぼうと。

 

それは本当にそうだと思うんです。

 

パソコンって月に1回ぐらいアップデートしてくださいって出てきますよね。

 

── はい。

 

坪田先生:

再起動してください、アップデートしてくださいってどういうことかというと、危ない部分が見つかったので、セキュリティーをより良くしてくださいという話なんですよ。

 

それを「アップデート」という言い方をすることで、めちゃくちゃポジティブに感じますよね。しかも、アップデートがある前提で、商品としては発売されている。

 

これは私たちの生活も同じで、時代の変化に伴い、正解はどんどん変わるわけです。今の時代で「完璧だ」「完成だ」と思っているものも、足りない部分が出るのは当然です。

 

だからこそ子どもの「未成功」もどんどんアップデートすればいい、そういう考え方でいけばいいんですよ。

 

── 失敗と言わず、未成功だったね。次アップデートしていこうといえばいいんですね。失敗をアップデートというなんて名言ですね。

 

坪田先生:

そうそう。そうすると子どももやる気になって調子にのって失敗を恐れない。さらなる未成功が生まれて、アップデートできる子になりますね。

 

そしてそれが集団となったとき、国がアップデートされていくんじゃないかと思うんです。

 

PROFILE 坪田信貴(つぼたのぶたか)

坪田信貴
累計120万部突破の書籍『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(通称ビリギャル)や累計10万部突破の書籍『人間は9タイプ』の著者。これまでに1300人以上の子どもたちを子別指導し、心理学を駆使した学習法により、多くの生徒の偏差値を短期間で急激に上げることで定評がある。大企業の人材育成コンサルタント等もつとめ、起業家・経営者としての顔も持つ。テレビ・ラジオ等でも活躍中。新著に『人に迷惑をかけるなと言ってはいけない 子どもの認知を歪ませる親の言葉と28の言い換え例』がある。東京都在住。

取材・文/天野佳代子