中学生のトニーニョくん(15歳)と3人で暮らす、漫画家の小栗左多里さんとジャーナリストの夫・トニーさん。

 

夫婦で子育てをしていくなかで「異文化で育った者同士はどうやったら折り合えるのか?」と試行錯誤した経験から感じたことや自分の幼少期の体験を、それぞれに語ります。

 

今回のテーマは「海外の子どもの習い事」。トニーさんが子どもの頃やらされて?いた習い事の思い出を語ってくれました。

やらせれば奇跡が起きる?習い事は「大人に都合のいい道具」じゃない

「はい、クラリネット、どうぞ」。

 

家にマイ楽器を持っていない4年生の僕はそう言われ、いきなり学校から一本の黒い棒を渡された。それは小学校時代のこと。それまで楽器の体験がなかった僕も、こうしてクラリネット組に入ったのだ。

 

学校では、その組み立てや手入れ、指をどこに置けばいいかなどを教えてもらった。でもそれ以上の指導があったわけではないので、結局は一人で家で楽譜に向かっていたものだ。

 

なぜ、子どもにいきなりクラリネットを…?思うに、バイオリンやトロンボーンと比べて構造が単純だからのではないだろうか。クラリネットは指を正しい位置に置いて、マウスピースをくわえて適当に息を吐き出せば、落ち着いてクラリネットと接していれば、それなりの音が出るようになっている。たとえ最初は「キーッ」や「クニューッ」の嵐でも。

 

楽器を若者に持たせれば、奇跡のように物事がすらすらとはかどるはず。そんな期待が学校側にあったようだけれど、少なくともわが家では奇跡など起こらず、長い間、概ね「キーッ、クニューッ、クニューッ」といった近所迷惑が続いていただけだった。

 

一年間のこの体験でクラリネットを操れるようになり、今でも忘年会の一芸として披露できるかといえば…答えは否。どちらかと言えば、みずから選んでもいないこの楽器を憎いと思い、今でも触りたいとあまり思わない。

強制された習い事にも「いい面」はある

でも、強制的な音楽体験にも「不幸中の幸い」が存在するものだ。それは、運指(指の置き方・使い方)上はクラリネットはフルートと似ていたこと。おかげで、比較的容易に“フルートの(軽い)独学”へ足を伸ばすことができた。

 

フルート!当時(70年代)、ロックンロール界で輝いていたフルート演奏者が一人いた。中世貴族の格好で、なぜかよく片足立ちし、激しく吠えながらフルートを奏でていた。若者がエレキギターを聞き飽きた頃に登場した彼(その名はイアン・アンダーソン)は、とにかくかっこよかった。

 

フルートを買ったものの、これがきっかけで僕がフラミンゴの真似をしながらフルートを演奏するようになったというわけではない。むしろ、携帯性に優れた小さな竹笛を好んで吹いていた。

 

実は初来日したときもそれを持って、静かな裏道を散歩しながら…静かに奏でたものだ。ちなみに当時、“わびさび”に惹かれていた僕の十八番は「荒城の月」だった。

習い事が思わぬ結果につながる可能性も

話は変わって、弟のこと。きょうだい同じ屋根の下で暮らしていたが、彼は僕とは違って、高校生になるまでプライベートレッスンを受けていた。楽器はアコーディオン。クラッシック音楽やジャズを真面目に演奏していて、全米コンクールで時おり優勝するほどの腕前だった。

 

弟が2位や3位のときは、近くの郡に住む女性がよく優勝していたが、大人になったその二人はゆくゆく…夫婦として結ばれた。

小栗さん連載イラスト
文/トニー・ラズロ イラスト/小栗左多里

音楽の習い事は、場合によっては結婚につながる…かもしれない!