東京五輪で5位入賞を果たした中村輪夢選手 ©FISEHIROSHIMA2019
東京五輪で5位入賞を果たした中村輪夢(りむ)選手 ©FISEHIROSHIMA2019

負けても謝る必要はない

東京オリンピックでは、スケートボードやBMXフリースタイル、スポーツクライミングなど都市型(アーバン)スポーツが初めて実施され、日本勢も続々とメダルを獲得。

 

BMXではメダル獲得はならずも、アクロバティックな技やジャンプなどで得点を競う自転車の新種目は、次回のパリ五輪の紹介映像でも大いに話題になりました。

 

ママチャリよりも小型で、必要最低限の部品で組まれた自転車で行う競技はどんなものなのか?

 

魅力や注意点などを、「全日本フリースタイルBMX連盟」の理事長・出口智嗣さんにうかがいました。

 

—— BMXは、有明の会場外もお客さんが集まるなど注目が集まりましたが、残念ながらメダル獲得には至りませんでしたね。

 

出口さん:

選手たちは負けると、いつも謝ってきますが、謝る必要はないよと言っています。

 

勝ちたいという重圧はかなり感じているようですが、楽しみながら遊び心をもちながら、勝てる方向に選手をのせていければとは思っています。

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こんなに自立心のある選手たちはいない

—— 遊びの延長というのが、アーバンスポーツやBMXの魅力で、伝統的スポーツとの違いでしょうか?

 

出口さん:

大学の先生にBMXの合宿を見学してもらったところ、こんなに自立心のある選手たちは見たことがないと、言われたこともあります。

 

つまり、子どもたちがゲームに夢中になっているのと同じようにBMXに打ち込んでいるんです。

 

朝から晩までやり続け、こちらが休憩しようと言わないと止めないようなスポーツなんです。

 

それは遊びの延長で仲間たちと楽しくやっているからで、伝統的スポーツと違うところだと思います。

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インターネットで調べて独学というのも…

—— そんなスポーツを子どもが“始めたい!”と言った場合、親はどうすればいいですか?

 

出口さん:

BMXは危険を伴うスポーツです。専用の自転車も整備が必要なので、プロショップ(専門店)で購入してほしいです。

 

初心者用であれば3万5000円くらいで買えますし、ヘルメットやプロテクターも同じ店舗でそろえることができます。

 

最近では、初心者やキッズ用のスクールを開いているところもありますが、地域差があります。

 

ショップの店員なら、どこのスケートパークで練習することができるかなども教えてくれると思います。

 

手近なスケートパークや練習仲間がいないのであれば、インターネットで技を調べて自分で練習するというのもひとつの手ですね。

©FISEHIROSHIMA2019

スクールに入れて、鍛えるという発想はやめて

—— スクールやコーチの数は少ないのですか?

 

出口さん:

地域によって違いますが、多くはありません。誤解してほしくないのは、伝統的スポーツのように、厳しい指導者がいるスクールに入れて、鍛えてもらうという発想は捨ててほしいですね。

 

スケートボードと同じく、ストリート発祥のスポーツで、仲間と一緒に遊びや楽しみの延長で自主的に技(トリック)を磨いていく文化です。

 

私たちもBMXのナショナル合宿はしますが、みなが一緒に練習する場を与えている感覚で、彼らを指導するというよりはアドバイスをする程度です。

 

—— BMXは、タトゥーをいれている人や、金髪頭の人が乗っているイメージもありますが恐くないですか?

 

出口さん:

BMXのライダーは目立ちたがり屋が多いので、そういう人たちが目につくのかもしれません。タトゥーも現代の若者は、ファッション感覚でやっていることが多いです。

 

最初は、少しとっつきにくいかもしれませんが、BMX仲間とわかれば歓迎してくれると思います。

 

今回、出場した中村輪夢選手も金髪ですが、中身は普通の大学生と変わりませんよ。

タトゥーだらけの選手も ©FISEHIROSHIMA2019

親子一緒のライダーは歓迎される

—— BMXは、大人も楽しめるものですか?

 

出口さん:

お父さん、お母さんと始めるお子さんもいます。BMXは、恐怖感の克服というのが大きなポイントになるので、親御さんもそれを知ってもらったほうがいいと思います。

 

パークでも、親子同士のライダーは歓迎されます。大人がようやくできた初心者の技を、ほかの子どもたちが喜んでハイタッチを求めてくるような雰囲気がBMXです。

 

年齢も性別も関係ありません。私も若い子たちからは、“デグッちゃん”とあだ名で呼ばれています。

 

—— 自転車で宙を舞うなんて、特別なトレーニングや技術が必要そうですが。

 

出口さん:

必要なのは運動神経といよりは度胸だと思います。私も運動神経はありませんが、プロライダーでしたから。

 

10キロ近くの自転車を持ち上げたりするので、自然と身体を鍛えられますね。

©FISEHIROSHIMA2019

学校訪問もしている

—— トリックに失敗して、ケガをするようなことはありませんか?

 

出口さん:

その可能性は否定できないので、ヘルメット着用は必須です。ほかのプロテクターも、専門店で品質の保たれているものを身につけてもらいたいですね。

 

最近は大技チャレンジ用にスポンジプールやマットを敷いた練習場もあります。

 

—— パリ五輪の紹介映像で疾走するBMXはかっこよかったですが、さらに普及しそうですが?

 

出口さん:

BMX大会の誘致は増えていますね。実は、中村輪夢選手らを連れて学校訪問をしてジャンプショーなども披露しています。

 

こういう活動を通じても、自転車を乗って空を飛べるのは楽しいことだと伝えて、BMXの愛好家を増やしていきたいです。

 

PROFILE 出口智嗣さん

でぐち・さとし。1977年、岡山市生まれ。11歳より「BMXレース」からキャリアをスタート。16歳でメーカーとプロ契約。その後「BMXフリースタイル」に転向し、2016年に「全日本フリースタイルBMX連盟」を立ち上げ。東京五輪ではコーチを務めた。