子どもの偏食

「偏食が激しい」「あまり量を食べられない」「丸呑みの癖が直らない」…。

 

「成長の基本はバランスのいい食事」と聞かされることもあり、子どもの食に頭を悩ませている保護者は少なくありません。

 

しかし「食べない子」専門の食育カウンセラーの山口健太さんによれば、多くの保護者は子どもが食べない理由を知らないのだそう。

 

「子どもが食事を残すのはわがままではなく、個々にとっての理由がある」と話す山口さんに、子どもが食事を食べない3つの理由と、それを見極める方法を教えていただきました。

子どもが「食べられない」3つの理由

── 子どもが食事を残してしまうのには、どんな理由があるのでしょうか。

 

山口さん:

子どもの「食べられない」の理由は、大きく3つに分けられます。

 

1つ目は「機能的な理由」。ものを噛んだり飲み込んだりするための口腔機能が未発達で、うまく食べられないケースです。特に小学生ぐらいまでは、口腔機能の問題がもっとも一般的かもしれません。

 

肉やキノコ、繊維質な野菜などをうまくすりつぶせなかったり、細かく刻んだものや口の中でバラバラになるものがうまくかめなかったり、魚やパンなどパサパサしたものを食べづらく感じたりします。

 

── なるほど。好き嫌いではなく、口の中の機能が発達途中なことによって「食べられない」のですね。2つ目はどんな理由でしょう。

 

山口さん:

2つ目は「感覚的な理由」です。五感が敏感すぎる、または鈍感すぎるため、味や食感の刺激を強く感じやすかったり、感じにくかったりすることで、うまく食べられないケースです。

 

見た目へのこだわりが強く、同じ食材でも形や色が変わると食べなくなる子、サクサクした食感に痛みを感じたり、もっちりした食感に気持ち悪さを感じたりする子もいます。

 

スープなどザラザラと舌に残る感触が苦手な子もいますね。味覚が鈍く、白米に味をつけないと食べられない子もいます。

 

── 3つ目の理由を教えてください。

 

山口さん:

3つ目は「精神的な理由」です。過去に食事で嫌な経験をしたことによって、またプレッシャーや不安を強く感じる環境、タイミングにあることによって、食欲がなくなってしまうケースです。

 

例えば、過去に食べ物を喉に詰まらせたり、食事の後に気持ち悪くなったりする経験がある子は、同じことが起きるのではと不安になるかもしれません。

 

「残さず食べなくては」というプレッシャーでうまく食べられない子もいます。食卓であまりに嫌な思いをしすぎて、食べること自体が嫌いになってしまっている子も。

子どもの口腔機能の発達を見分けるには?

── 赤ちゃんは話せませんし、幼児期を過ぎてもしばらくは自分の感覚を正確に表現できません。我が子が食べられない理由は、どうやって判断すればいいのでしょうか? 

 

山口さん:

子どもの食べ残しの傾向や、食べている姿を観察して、何が苦手なのか考えてみてください。苦手な食感や味、匂い、見た目はどうか、噛むこと、飲み込むことはうまくできているのか…。

 

── 口腔内の発達については、見分け方が難しそうですね。

 

山口さん:

ご自身で見分けるのが難しければ、小児歯科や言語聴覚士などの専門家の力を借りることも助けになると思います。

歯医者さんに見てもらう小さな女の子

食べているときに口を閉じられているか、奥歯を使えているかをチェックしてみてください。噛んでいるときに口角が上がっていれば、奥歯が使えている証拠。そうでない場合は、前歯しか使えていない可能性が高いです。

 

そもそも人は、口に食べ物が入ると、それを舌先で捉え、大きさや硬さによって適切な歯の場所へ運び、歯でかみ砕き、飲み込みます。機能的な理由で食べられない子は、このどれかの段階に問題があるということです。

 

口が閉じにくい子は、うまく食べ物を口に取り込むことができず、食べにくさを感じがち。奥歯が使えないと、硬い食べ物、繊維質な食べ物をうまくすりつぶせなくなってしまいます。

 

── 歯の抜け替わりの子なども、食べるのが苦手になりがちということですか?

 

山口さん:

そうですね。舌の使い方が未発達な子もいます。舌の動きは、まず前後、次に上下、最後に左右と発達しますが、最後の左右が未発達だと、奥歯まで食べ物を持っていくことができません。その結果、うまく噛めない、食べるのが遅い、飲み込みが悪いといった問題に繋がります。

 

こうした口腔内の問題は、原因が多岐にわたります。骨格や歯並び、かみ合わせ、姿勢の悪さが原因でものを飲み込みにくくなっているケースもあれば、鼻炎の影響で口呼吸になり、口がうまく閉じられないケースもある。

 

離乳食で箸を早く持たせはじめ、丸呑みの習慣がついてしまうことも。うまく使えないうちから箸を使い始めると、食べ物を口の奥にかっこむ形になり、噛まずに飲み込むことが習慣化してしまうのです。

 

── 機能的な問題をフォローしていくことはできるのでしょうか。

 

山口さん:

歯科医師も推奨する舌のトレーニングに、唇にジャムを塗ってなめ取るというものがあります。口が閉じにくい子は、シャボン玉や笛のおもちゃを日常的に使うことで練習になります。

 

ただ、「噛めない」「飲み込めない」は、最悪の場合、窒息のトラブルにつながる問題。骨格が小さく歯も未熟な子どもは、そのリスクが高いです。

 

── つい「みんなができることだから…」と考えがちですが、食べることにも個性があり、一人ひとりにあったフォローが必要なのですね。

 

山口さん:

子どもの発達のスピードはそれぞれに違いますから、食べる量や好き嫌いを他人と比べても意味がありません。

 

特に離乳食は、焦って進めると口の中がきちんと発達しません。離乳食中期は焦って進める人が多いので、要注意です。一般的な離乳食の表は、あくまで目安なのです。

 

お子さんの食の個性は、欠点ではなく、「食べられない子」が「楽しく食べられる子」に変わるヒント。楽しい食卓は、人生を豊かにします。お子さんの人生のために、個々の個性に合った楽しい食卓づくりを目指してください。

 

PROFILE 

山口健太(やまぐち・けんた)

山口健太さん
『月刊給食指導研修資料(きゅうけん)』代表・編集長。一般社団法人日本会食恐怖症克服支援協会代表理事。「会食恐怖症」の当事者経験から、「食べない子」専門の食育カウンセラーに。「食べない子」に悩む保護者、学校・保育園の教員などにメッセージを伝えている。著書に『食べない子が変わる魔法の言葉』(辰巳出版)など。

取材・文/有馬ゆえ