子どもを学童に預けて働く親にとって夏休みは「1か月、毎朝弁当を作らなければいけない」というプレッシャーがのしかかる季節です。
学童への弁当持参は、「小1の壁」のひとつとも言われ、ある先輩ママからは「子供が小1の夏、初めて仕事をやめようかと思い悩んだ」との声も。
そんななか、最近では学童に弁当を宅配してくれる業者も現れ、自宅から弁当を持参しなくてもいい地域が出始めています。2019年の東京都北区議会議員選挙でトップ当選を果たし、この問題に力を入れるこまざき美紀さんに聞きました。
学童のお弁当、何が辛い?
── うちも小学1年の息子がいて、「これまでは給食があったけれど、今夏は毎日お弁当づくりだな」と。まさに「小1の壁」を感じているところです。
こまざきさん:
我が家は小学生が2人いて、1人は学童を利用していますが、子どもがもっと小さかったころは、下の子が保育園で、送りに行かなきゃいけないし、弁当も作らなきゃいけなくて。朝5時起きになることもありました。
たかが弁当なんだけど、今はいろんな家庭がありますよね。コロナ禍で在宅ワークになった人もいれば、長時間外で勤務する人もいて働き方が多様化しています。ひとり親の家庭も、親が病気の家庭もある。 さまざまなご家庭があるなかで、選択肢があることはより重要になっていると思います。
── 区議になる前から、弁当問題に取り組んできたと聞きました。どのような経緯だったのですか?
こまざきさん:
お隣の東京・板橋区は、「あいキッズ」という全児童対象の放課後等の預かり事業を実施しているのですが、2018年ごろ、そこで区が主導する形で弁当を配達してもらう仕組みを導入していると知りました。でも北区では難しいということだったので、保護者で導入できないか検討したんです。
うちの学校には当時学童が学校内と外に2つあったのですが 、実はそのうちの1つが保護者有志ですでに宅配弁当を導入していて、「じゃあそれを真似して自分たちもやろうか」とママ・パパ仲間で話し合いました。
── 導入できたんですか?
こまざきさん:
実はそのときは断念したんです。「導入した場合の負担が重すぎる」という結論になりました。
条件に合う業者を探して、区に特別に承認を得て、やっと導入したとしても、今度は保護者代表がお金を集めて、キャンセルも保護者の誰かが代表で業者に電話して…。仕事中に、他のご家庭のキャンセル連絡までするのは大変ですよね。弁当代が未払いの家庭には個別に支払いをお願いする必要もあるし、とても無理だということになりました。
でも幸い、その後に学校内外の 2つの学童が統合されて、保護者有志ですでに導入していた宅配弁当の仕組みに入れてもらうことができたので、うちの子は利用できるようになり、私自身は運営メンバーに加わりました。
── その後、区議になって本格的に弁当問題に取り組んでこられたんですね。
こまざきさん:
自分たちはたまたま別の学童に乗っかるかたちで宅配弁当を利用できるようになったけど、他の学童では問題は解決していないので、やはり北区として、保護者に負担のない方法で一括して導入してほしいと思いました。
たとえば、東京でも葛飾区や渋谷区は、区が業者を一括で手配して、保護者は利用登録をすれば、個別に弁当を注文して、キャンセルもできて便利に使うことができているんです。
学童の宅配弁当に3つのハードル
── 北区は、導入できない理由をどのように説明していたのでしょうか?
こまざきさん:
「学童に宅配弁当を導入できないか」ということは、実は5年くらい前から北区議会で議題に上がっていたようなのです。過去の議事録を見ると、「学童クラブの職員の負担」「アレルギー対応」「手作り弁当に対する考え方」 の3つを理由に、区は導入できないと説明していました。
ただ、「職員の負担」は、業者のシステム構築が進んでいるので、これを利用すれば、個人で注文、キャンセル、決済ができるので、職員の負担はほとんど生じないと思います。
「アレルギー対応」については、アレルギーのあるお子さんの保護者 に聞き取りをしたところ、メニューにアレルゲンの記載があれば、対応可能だということが分かりました。その日のアレルゲン表示によって、保護者に判断していただくということで、クリアできると判断しました。
3つめの「手作り弁当は家庭のコミュニケーションと健康管理である」という区の考えですが、朝から晩まで仕事と家事・育児に追われる中、弁当作りの時間を省くことで心の余裕ができて、子どもとのコミュニケーションが取れるようになることだってあるはずです。
もちろん、弁当がコミュニケーションになる家庭もあるでしょう。でも深刻な負担になる家庭もある。今の時代に、選択肢を用意することはとても重要だと思います。
こぎつけた区の協力
── 北区では、学童の宅配弁当に理解を示し始めたと聞きました。
こまざきさん:
今年2月に区議会で、先ほど説明した3点について、クリアできる問題だと訴えました。その結果「今年の夏休みに向けて取り組みを進める」というような回答をいただきました。
残念ながら、私がイメージしていた、「区が一括して業者と契約して、希望者は登録すれば個別にすぐ利用できる」というところまでは実現できなかったのですが。
ただ、「保護者代表を決めて、保護者主導でやる」という形ではあるものの、北区がそれを認めて保護者にルールを示したのは、特例を除けば今回が初めてですし、「区が協力体制をとります」というお墨付きをもらったことは前進と言えると思います。
── 学童には保護者会がなく、代表者を決めるにも「どうやって決めるの?」と困惑する声があります。
こまざきさん:
そうですね。今年、北区は夏休み前に「(保護者代表を決めて保護者主導で業者とやり取りをして)宅配弁当を利用してもいいですよ」という内容のお便りを保護者に配りましたが、利用する手順が具体的に示されていなかったので、私のところや区に相談が殺到する事態になり、課題を残しました。
代表者や業者を決めるにも時間がかかります。実際に導入するには 区などの承認を得る手続きも必要で、夏休み直前に保護者が動き出しても、今年の夏休みには間に合わないという状況でした。
今回は相談してきた方々を対象に、私がオンライン説明会を開催しましたが、区としても、分かりやすく具体的な手順などを示していく必要があると思います。
また、今の手法だと、導入できない学校も出てきてしまうので、区による一括導入も諦めずに声を上げていくつもりです。
── セーフティーネットがあると、親の精神的な負担はかなり軽くなりますよね。今は過渡期で、自治体によって対応にばらつきがあるのは、仕方がない面もあるかもしれませんが、子育て世代の住まう自治体選びに直結する課題のような気がします。
PROFILE こまざき美紀さん
取材・文/木村彩