アレルギーを心配する親子のイメージ

 

子どもの花粉症やアトピー性皮膚炎、食後のかゆみや腫れ…ひと口に「アレルギー」といってもその症状はさまざま。そもそも、どうしてアレルギーが起こるのでしょうか?

 

小児アレルギーが起こるしくみや最新情報を、国立病院機構相模原病院臨床研究センター長であり、日本アレルギー学会・理事長を務める海老澤元宏先生に教えてもらいました。

アレルギーが起こるしくみ

人間の身体には、ウイルスや細菌などの異物が入ってきたときに体内に「抗体」がつくられ、これらを排除しようとする免疫システムが備わっています。

 

ところが、小麦や卵、花粉など、そもそも身体に害を与えない物質に対しても免疫システムが働き、過剰に反応した結果、自分自身を傷つけてしまうのが「アレルギー」です。

 

アレルギーの原因物質(アレルゲン)が体内に入ってくると、白血球が細胞に「異物を除去する武器をつくれ!」と命令します。異物と戦うために作られたこの武器こそ、アレルギー発症に大きく関係する「IgE抗体」。

 

IgE抗体は、普段は体に悪さはしませんが、体内に侵入した花粉やほこりなどのアレルゲンと出会って結びつくと、かゆみなどのアレルギー症状が現われるのです。

成長過程の子どもはアレルギーが起こりやすい?

特に子どもの場合は、粘膜や皮膚のバリア機能の障害等があると、特定の食物やダニ、花粉などが体内に入りやすく、体が過剰に反応すると、くしゃみ、かゆみ、炎症、ひどい場合にはショック状態を引き起こしてしまいます。

 

そう考えると、大人よりも成長過程にある子どもの方がアレルギー症状が出やすいと言えるでしょう。

 

最近の傾向では、喘息やアトピー性皮膚炎の子どもは一定に達し逆に少し減っていますが、花粉症を中心としたアレルギー性鼻炎や結膜炎は増加しつつあります。

 

また、「アレルギーは遺伝しますか?」とよく質問をいただくことがありますが、一度スイッチの入ったアレルギー体質は遺伝する傾向があります。

これには、アレルギー体質を次世代に伝える遺伝子が関係しています。

 

しかしながら、保護者からその遺伝子を受け継いでいるからといって、必ずしもアレルギーが発症するわけではありません。

 

アレルギーが発症するかどうかは、遺伝情報だけでなく周囲の環境にも大きく左右されます。

アレルギーは環境にも大きく左右される

アレルギーは20世紀以降出現してきた文明病。日本でも1950年前後から問題になり始めました。

 

日本人の遺伝情報は変わりませんが、私たち人間を取り巻く環境は大きく変わっていった。この環境の変化が、アレルギー疾患の登場に大きな影響を及ぼしています。

環境や対策によるアレルギーの変化

アレルギーの子どもが増えている、と耳にすることも多いかもしれません。

 

日本人の若い世代ではダニやスギ花粉にIgE抗体を有する方は半数以上に達していると考えられていますので、もはやアレルギー疾患は国民病とも言えるでしょう。

 

なぜ、それほどまでに増えたのでしょうか?家畜と共に生活するなど、衛生面が整っておらず細菌にさらされている環境下では、あまりアレルギーは起こりません。

 

日本では、1960年代の高度経済成長後に経済的に豊かになり、清潔な環境で生活するようになりました。

予防医学が発達し、それまで細菌や寄生虫といった体の外側に向けて働いていた免疫システムが体の内側に向き、アレルギー反応として現れてしまったのではないかと考えられています。

 

また、経済の発展に伴い、今の中国のように大気汚染などが引き金となって、喘息の子どもたちが爆発的に増加しました。

 

しかし、公害対策による大気汚染の改善や長年にわたる研究成果による医療の進歩で、現在では喘息はコントロールできる疾患になっています。

実家で猫を飼っていた人が、一人暮らしをはじめて猫アレルギーに

他には、実家で猫を飼っていた方が、一人暮らしを機に猫アレルギーを発症したケースもあります。

 

この方は、幼い頃から猫と暮らしていることで、体の中に猫に対するIgE抗体がつくられたのですが、一人暮らしによって猫と触れ合わない期間がありました。

 

ところが、久しぶりに実家に帰って猫に触れ合ったときに、体の中にある猫に対するIgE抗体が過剰反応してアレルギー症状が起こった。

 

このケースでは、IgE抗体が作られていても、低年齢から猫アレルゲンにずっと曝露されていたことで症状が起きにくかった(脱感作)と考えられます。

 

一人暮らしで猫から遠ざかって脱感作状態が外れ、アレルギー症状が出たのでしょう。

私たちの生活には、食品添加物の含まれたジャンクフード、黄砂やPM2.5などの大気の汚れ、機密性が高い住居によって繁殖しやすくなった「ダニやカビ」など、たくさんのアレルゲンがあります。

 

人間を取り巻く環境が目まぐるしく変わる現代において、アレルギーは誰でも発症する可能性があるかもしれません。

正しい情報を入手して適切な対処を

私たちの身のまわりには、誤った情報や、正確ではない情報も含めて、インターネットにはアレルギーに関する膨大な情報があふれています。

 

魚介類を食べてアレルギー症状が誘発され魚介類アレルギーと自称している方がいますが、アニサキスという寄生虫に対する反応を魚介類アレルギーだと勘違いされていることもあります。

 

また、「牛乳アレルギーで下痢をする」という方もいらっしゃいますが、乳糖不耐症の反応で下痢をしていることも。

 

厚生労働省と日本アレルギー学会が運営するアレルギーポータル(https://allergyportal.jp)は、公的機関が発信する情報を発信しています。

 

商業目的の誤った情報を鵜呑みにすると適切な処置の遅れや症状の悪化などが起こります。信頼できる情報を確認し、まずは、アレルギーに関する正しい知識を備えておきましょう。

 

PROFILE 海老澤元宏

国立病院機構相模原病院臨床研究センター・センター長。日本アレルギー学会・理事長。日本小児アレルギー学会・副理事長。厚生労働省アレルギー疾患対策推進協議会・座長。専門は小児アレルギー疾患。

取材・構成/仲宗根奈緒美