「これからの教育・求められる力」特集、第6回は「コロナ禍で労働市場にどんな変化がもたらされたのか」をテーマに、キャリアカウンセラーの藤井佐和子さんにお話を伺います。
これからの時代のキャリアの常識とは?今の子どもたちが大人になる頃に求められる人材とは?
コロナがもたらしたポジティブな変化と悪影響について、今後の見通しを予測してもらいました。
転職できる人・できない人の二極化が進んでいる
── 藤井さんはお仕事柄、さまざまな人のキャリア相談に対応されていますが、コロナの前後では日本の就労市場に変化はありましたか。
藤井さん:
企業の求人数はどこも減少傾向にありますが、パンデミックによって二極化が進んでいる印象があります。転職を希望してすんなり通る人と、ずっと落ち続けてしまう人の格差が拡大しているのです。
もちろん個別のさまざまな事情も関係していますが、コロナ禍であっても複数の企業から内定を得られている人は、やはり意識的・戦略的にキャリアを積み重ねてきている人が多い傾向にあります。
残念ながらそうではない人にとっては、転職活動の厳しさが増しているようです。しっかりとキャリアの棚卸しをして、今の自分を客観視し、よほど入念に対策を練っていかないと、なかなか採用まで至らないのではないでしょうか。
今後は出社&リモートの混合化が増える
──コロナ禍の昨今では、副業をする人などは増えているのでしょうか。
藤井さん:
「副業をしてみたい」という前向きな気持ちの方は確かに増えましたが、実際に一歩踏み出してい実践している人はまだまだ少ないですね。やはり、「本業と並行して時間的・体力的にやっていけるのか」という点で不安を覚えてしまうようです。子育て中であればなおさらそうかもしれません。現実はメディアで取り上げられるほど盛り上がってはいません。
ただ、コロナ禍がもたらしたポジティブな変化もあります。リモートワークという働き方の新たな選択肢が登場したことが追い風になった人も多いでしょう。
もちろんリモートワークが難しい業界や職種もありますし、経営者がリモートワークに積極的ではない企業もまだ多いですが、それでも「とりあえずちょっとやってみようか」「ワーケーションも試しに採り入れてみよう」といった取り組みを行う企業自体は増えています。
──「通勤のストレスがなくなった」「保育園のお迎えに行きやすくなった」という働くママやパパの声も聞きます。リモートワークは今後の働き方の主流になりうるのでしょうか。
藤井さん:
出社とリモートの混合型というハイブリッドな働き方が増えていくことは間違いないでしょう。完全に毎日出社するスタイルでもフルリモートでもなく、何の仕事をどのようにやるかの組み合わせに応じてその都度、ワークスタイルが変わるようなあり方が一般的になっていくのではないでしょうか。
実際に私もキャリアカウンセラーとしての企業研修や打ち合わせ、カウンセリングはほぼオンラインに切り替わりました。もちろん「対面でお話したい」と希望される方には対応しますが、オンラインでの打ち合わせや面談に私も先方も抵抗感はほぼなくなってきていますね。
これはあくまで私の観測範囲ですが、対面を希望される方は、「仕事柄オンラインに慣れていないため、抵抗感がある」という方が多いかもしれません。
一方で、リモートワークを体験したからこそ、「やっぱり出社してチームで顔を合わせながら仕事を進めたい」と再確認した人も多いようです。また、すでに関係性が構築できている間柄であれば問題なくても、初対面の取引先とオンラインのみのやり取りで進めていくのはやはり難しい場面もありますよね。
キャリア相談でも、「コロナ以前は独立・起業を考えていましたが、リモートワークに切り替わったことで『在宅で淡々と働くリモートワークは自分に向いていない。チームみんなと働く環境のほうがいい』とわかりました」と自覚し、転職活動の方向性を切り替えるようなケースもありました。
「主体性」「臨機応変さ」がより重要なスキルに
──リモートワークに対する向き不向きもある、ということですね。
藤井さん:
オンライン越しだと互いの情報量が絞られますから、リモートワークって実はコミュニケーションスキルが高くないと難しい部分も相当あるんです。それに、ずっと在宅だと孤独を感じてしまう人もいますよね。
ですから、自分にはどんな職場環境が向いているのか、どういう働き方であれば自分は力を発揮できるのか、という部分をしっかり見極めておくことがキャリア形成においてはとても大事な要素です。
── そうした現状を踏まえた上で、この先、企業や社会から求められる人材像やスキルはどのようなものだと予測されますか。
藤井さん:
主体性と臨機応変さ。この2つはどの業界においても今後ますます重要性が高まってくるはずです。新しい環境でも主体性を発揮して、自分からグイグイと行ける人材がより求められるようになっていくでしょう。
さらに、めまぐるしく変化する社会のスピードや労働環境、会社の方針転換などに臨機応変に対応できる柔軟性も必要です。「言われたことはやります」という受け身な態度の社員は、どの企業でも残念ながら低い評価を下されてしまうかもしれません。
これは今現在、働いている大人たちはもちろんですが、これから社会に出ていく子どもたちも同様です。親の世代が社会に出て最初に教えられたであろう“常識“は、すでに大きく変わってきています。
日本の公教育も明らかにその方向へとシフトしていますよね。かつて受験勉強は「傾向と対策」を掴むことや、マニュアルへの勤勉さなどが重視されていました。けれども今の時代は「主体性をどう発揮できるか」「自分の頭で思考できるか」という点に重きが置かれています。
…
いい学校に入って一流大学に進み、大手企業に就職すれば生涯安泰。そんな時代が終わりを告げ、価値観が転換した今、これから社会に出ていくわが子に「主体性」「臨機応変さ」を身につけさせるために、保護者は何をすべきでしょうか。
次回はそのための具体策に加えて、私たちがキャリアを真剣に考えるべき理由について引き続き藤井さんにお話を伺います。
Profile
株式会社キャリエーラ 代表取締役
藤井佐和子さん
<特集TOPに戻る>
取材・文/阿部 花恵 イラスト/えなみかなお