「これからの教育・求められる力」特集第5回では、2020年に開校した若者のためのソーシャルオンラインスクール「NowDo」を紹介します。
「好きなことで生きていくためのソーシャルスクール」というコンセプトを掲げる同校は、各業界のプロフェッショナルによる講義をライブ配信することで多様な学びの機会を提供。
当初は月額1ドルのプランでスタートしましたが、現在はなんと25歳未満はライブ配信講義が無料(アーカイブ見放題は有料)という形に。
サッカー元日本代表の本田圭佑さんとともにNowDoを立ち上げたNowDo株式会社取締役副社長兼COOの鈴木良介さんに話を伺いました。
25歳未満なら誰でもライブ配信を無料受講
── ソーシャルオンラインスクール「NowDo」はどんな学びの場なのか、教えてください。
鈴木さん:
中学生以上から大学卒業までの25歳未満の学生であれば、各業界のプロフェッショナルによるライブ配信講義を無料で受けられるソーシャルスクールです。地方に住んでいても、家庭の経済事情が厳しくても、ネットに繋がる環境さえあれば、誰でも多様な学びの機会にアクセスすることができます。
2020年開校当初は月額1ドルでスタートしましたが、現在は無料領域をどんどん広げて0円でも学びができるオンラインの場をつくっています。
── 具体的にどのような内容の講義が受けられるのでしょう。
鈴木さん:
毎回のテーマは多種多様です。ブロックチェーンが普及する未来について一緒に考える講義もあれば、NPO起業、宇宙食、昆虫食、コミュニティ論など、さまざまなジャンルで活躍する方々が講師として登場し、その職業や業界の魅力を10・20代に向けて語るという形式になっています。
NowDoアーカイブ動画の一例。2021年8月時点で約200本の動画があり、さまざまなジャンルの学びの入り口が広がっている
鈴木さん:
今の日本には約1万7000種類の職業が存在するといわれています。目標はそのすべての職業に携わる方々に登場していただくこと。大人であっても、知っている職業の範囲って意外と狭いですよね。子どもはなおさらそうです。
だからこそ、知られざる職業やニッチでもその道を極めて輝いている人たちを紹介することで、子どもたちの「好き」や未来の選択肢を広げることに繋がってほしい、という思いがあります。
オンラインで教育格差をなくしていきたい
── 鈴木さんはサッカー元日本代表の本田圭佑さんと一緒に10年近く国内外でサッカー指導を行っていたそうですが、そこから教育の世界にシフトしたのはなぜでしょう。
鈴木さん:
これまでさまざまな国々で子どもたちのサッカー指導を行ってきましたが、南アフリカやカンボジアなどではやはり経済格差による教育格差の課題に突き当たるんですよ。
サッカーが好きでも、家庭の経済的な事情で続けられない、夢を持つことができない子どもたちが途上国にはたくさんいます。そういう子たちが同じスタートラインに立って学べる場、いろんな価値観や情報に触れられる入り口を用意したい、という思いがあったのがひとつ目の動機です。
一方で、自分自身の体験も踏まえて、「日本の子どもたちにもいろんな選択肢があることを伝えたい」とも考えています。
僕は10代の頃からずっとサッカーに全力で取り組み、全国大会にも出場してきましたが、それでもサッカーのプロにはなれなかった。つまり、サッカーしか知らないまま大人になってしまったんですね。その結果として僕はサッカー指導者になりましたが、もしもサッカー以外のセカンドスキルを身につけていたのなら社会に出たときの選択肢はまったく違っただろうな、と痛感しました。
僕たちは夢を諦めた後も、生きていかなければならない。同じようにひとつのことに熱中してきた子が大人になって方向転換したときに、何か糧になるようなスキルや情報に気づくきっかけを与える場があれば、という個人的な思いがNowDo設立のもうひとつの動機です。
今の子は現実が見えすぎている
── サッカー指導やNowDoを通じて10・20代と接する場が多いと思いますが、今の若者たちを見て感じることはありますか。
鈴木さん:
「自分は将来やりたいことができないかもしれない」と思い込んでいる子は少なくない気がします。例えば強豪のサッカークラブを指導しても、「将来は本気でプロサッカー選手を目指している」と言える子は半分もいません。なぜなら今の子たちはJリーガーであっても、そう簡単に食べていける世界ではないことを情報としてすでに知っているから。
「僕にはサッカーしかないけどJリーガーとしてやっていける気はしない。でも今さらサッカー以外のことなんてできませんよね?」と高3の男の子に聞かれたこともあります。
一方で、NowDoに集まる子たちを見ていると、二極化が進んでいる印象を受けます。知識やスキルをアクティブに習得して行動に移している子は全体の1割程度で、大多数は「なりたいものがない」とモヤモヤしたり焦ったりしている子たち。そこのギャップをどうフォローしていくか、というのが今後の課題でもあります。
“キャラ変”のハードルが下がるのも強み
── NowDoは毎回異なるゲストが講義を行い、出席者の子どもたちが質問や意見を寄せるスタイルですが、オンラインの学びだからこその利点はどんなところにあるのでしょう。
鈴木さん:
中高生ともなれば、学校内でのキャラクター、ポジションのようなものってほぼ決まってしまいますよね。そこから急に自分を変革していくのはけっこう難しい。
それはオンラインだからこその強みですし、リアルな自分を変えていく最初の一歩にもなるはずです。
僕は、今の日本の子どもたちが積極性を出しきれないのは、周囲の親や教育者、指導者がつくってきた環境のせいだと思っています。大人が一方的に子どもに教える、という形式が根強くあるせいで、どうしても子どもは疑問や意見を言い出しづらい空気がある。結果、空気を読んで臆病になってしまう子どもが多いのでは。
── テーマにしても形態にしても、学校とは違うオープンな学びの場として機能している印象を受けます。
鈴木さん:
僕たちは学校や教師の方々と張り合うつもりはありません。学校だからこそできる学び、直接関わりを持つ先生方とだからこそ築ける関係性はもちろんあるでしょう。それと同じ役割は担えないけれども、オンラインで繋がるからこそ提供できる学びやコミュニケーションもあります。
学びの芽を潰すのは親のネガティブ発言
── 子どもの学びを後押しするために、家庭で保護者が心がけたほうがいいと思われることはありますか。
鈴木さん:
子どもの教育において最も重要なのは、親がどう関わるかだと思っています。僕らが最善だと思われる学びの機会を提供して、子どもがそれに強く興味を示しても、親が「そんなもの時間の無駄」と否定的に接すると、子どものやる気って一気に削がれてしまう。
NowDoに限らず、未知の学びの形態に抵抗感や不安があって、ついネガティブな見方をしてしまう保護者は少なくありません。
でもそこで「こんな職業は良くない」「見る価値がない」と“大人の感覚”で目くじらを立てたり、ジャッジを下したりすべきではありません。自分の中の好奇心や学びのベクトルがどこに向かっているか、それを決めるのは子ども自身であるべきです。
わが子が何を知りたいと思っているのか、どんなことに興味を惹かれるのか。その過程を見守りながら、親も一緒に学んでいく。それが子どもの学ぶ意欲を伸ばすことに繋がっていくはずです。
Profile
Now Do株式会社 取締役副社長兼COO
鈴木良介さん
1981年、東京都出身。本田圭佑とともに2010年からSOLTILOグループを創業し、国内外に約80校、5000名以上のサッカースクールや海外のプロクラブの運営、スポーツ施設運営等の事業を展開。2017年からNowDo株式会社でオンラインスクール「NowDo」をはじめ、各界を代表するトップランナーたちの声を届ける「NowVoice」の運営を主に行っている。
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取材・文/阿部花恵