「あ、あ、あ、あのね…」子どもの話し方に注意してみると、言葉をつっかえながら話していた。もしかして、これは吃音? 自分の子どもが吃音だとわかったとき、どうしたらよいのか戸惑うことも。今回は、自身も吃音を持つ医師の菊池良和先生に、吃音の子どもを持つ親へのアドバイスを伺いました。
ネットで見かける「親の愛情不足が原因」は嘘
—— 子どもの吃音は、いつから始まるのでしょうか。
菊池先生:
2~4歳の間に吃音を発症することが多いです。1歳半や3歳の健診で「問題がない」と言われても、その後から吃音が始まることもあります。
—— 健診で問題がなくても、あとから吃音になるパターンもあるのですね。インターネット上には吃音の原因は親の愛情不足と書かれていることもありますが、これは本当ですか。
菊池先生:
吃音を発症する年齢は弟や妹ができることが多いため、「弟や妹が生まれたことによる愛情不足」が原因と言われていることもありますが、まったく関係ありません。一人っ子でも吃音を持つ子はいますし、下の子もお母さんも何も悪くないですよ。
むしろ、子どもの吃音のことでこれだけ心配しているのだから、とても愛情深いお母さんだと思います。
—— 親は、子どもの吃音のことで自分を責めてはいけませんね。ところで、吃音は自然に治るものなのでしょうか。
菊池先生:
治る子どももいれば、治らない子どももいます。吃音はそのうち治るかもしれないから放っておくと、子どもが成長したときに一人で悩みを抱え込んでしまいます。吃音の理解を深めて「治らなかった場合に、本人が困っているようであればどうすべきか」 を考えておきましょう。
「ゆっくり、落ち着いて」と言ってはいけない
—— 治らなかったときに備えて対策を考えることは大切ですね。では、吃音のある子どもへの良い接し方を教えてください。
菊池先生:
まずは、その子の話をじっくり最後まで聞いてあげることです。そして、話し方ではなく、話す内容に注目をしましょう。話がしっかり伝わったことで、「どもっていても、きちんとコミュニケーションがとれるんだ!」という子どもの前向きな自信につながります。
また、自信を育てる点では、吃音以外の良いところに着目して褒めることもおすすめです。「字がきれいだね」「お手伝いしてえらいね」「勉強頑張っているね」など、その子の良いところを見つけて声をかければ、「自分には良いところがたくさんある」と、自分自身への肯定感を高めることができます。
—— 逆に、良くない接し方はどのようにすることでしょうか。
菊池先生:
次のような接し方は、子どもに「自分はうまく話せないんだ…」と思わせて、自己肯定感を失うきっかけになります。すると、どもるたびに気分が落ち込み、劣等感を感じて、自分の殻に閉じこもってしまいます。
- 子どもの話し方に注目して、話の内容が二の次になってしまうこと。
- 「ゆっくり落ち着いて」「深呼吸してみよう」など、話し方のアドバイスをすること。
- 例えば「お、お、お…」と言う子どもに、「おやつが食べたいの?」「お腹痛い?」など最後まで話を聞かず、子どもの言いたいことを先取りすること。
- 「マネされた」「上手に話せない」など、子どもが吃音に関する訴えに対して、「ゆっくり話せばいい」と言うように、ワンパターンの答えをすること。
—— その子の自信を育てることが接し方のポイントですね。大きくなるにつれて「どうしてこんな話し方になるの?」と聞かれることもあると思いますが、そんなときはどう答えるとよいのでしょうか。
菊池先生:
親としては「ついに、吃音に気づいてしまったか…」とドキッとしてしまいますよね。でも、これは吃音をオープンに話す良いきっかけと捉えてください。
最近の研究では、言葉の発達が早い子が発症するデータがあり、吃音は急激な発達に偶然生じる副産物と言われています。だから、「あなたは頭が良いからだよ。頭の回転が速すぎて、言いたいと思ったことに口がついてこられないんだよ」と答えると、子どもは褒められたと感じて、ポジティブに吃音を受け止めることができます。
園や学校への理解を求め、のびのび育てる
—— 子どもが社会でうまくやっていくために、親がすべきことを教えてください。
菊池先生:
幼稚園、保育園や学校は小さな社会です。大人の社会に入る前に、ここで周囲に吃音のことをよく知ってもらい、子どもがのびのびと話せる環境を作ることが肝心です。
吃音はきちんとした理解がないと、相手に誤解されやすいものです。入園や入学など子どもが新しい環境に入るときは、先生に次のような説明資料を渡して、吃音の正しい知識や接し方を伝えることで、 子どもを誤解から守ることができます。もちろん、幼稚園、保育園や学校だけではなく、習い事や部活の先生にも伝えましょう。
子どもの吃音を治すために調べて頑張ったけれど、なかなか治らず苛立ちを覚えることもあるでしょう。そのような時期は誰にでもあります。ですが、子どもが園や学校でうまく適応していく姿を見れば、安心できます。「これで大丈夫なんだ」と親が自信を持って構えることで、子どもも「自分はうまくやっている」と自信を持てるはずです。
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菊池先生が強く訴えていたのは、「親は悪くない」「わが子が吃音でも自信をもって」ということでした。子どもが自分の吃音と前向きに付き合うには、親が動揺せず、愛情を持って接する姿を見せましょう。
PROFILE 菊池良和さん
取材・文/廣瀬茉理 ※プロフィール以外の画像はイメージです。