コロナ以降、大人だけでなく、子どもたちの体調不良が増えるなか、親はどのように振る舞うべきなのでしょうか?
マラソン日本代表としてオリンピックで2度メダルに輝き、今も後進のサポートを積極的に行う有森裕子さんに、親子でコロナ禍を乗りきるために大切な考え方について伺います。
親がネガティブ思考だと子どものメンタルが危険!
── 運動量が減った子どもたちを、親はどのようにサポートするべきでしょうか?
有森さん:
外の情報を常にアップデートし、やれることをやってみる。例えば、地元の自治体や地域の情報を得ながら一緒に参加してみるのもいいですね。
やってはいけないのは、親が外部と閉ざされた状況を良しとしてしまうこと。親が積極的に外に連れ出すようにしたいものですね。
そもそも、親がつねにネガティブな言動をするのも考えもの。「コロナ前はできていたのに今はできなくなった」といった、以前と比較するような発言は控えることです。こういう状況だからこそ、子どもたちの前ではなるべくポジティブな言葉を選んで使ったほうがいい。大人がネガティブだと子どもにも伝染してしまいます。
「じゃあ、どうすればできるようになる?」と問いただすような発言も避けるべき。子どもたちには「できないんだから仕方ない!」と明るく伝えたうえで、「できることをしようね!」と、上手に子どもたちの気持ちをのせてあげられるといいですね。
親が「せっかくコロナなんだから一緒に○○しよう!」という声かけをすることで、子どもたち自身も前向きになれるのではないでしょうか。
運動嫌いな子どもたちを連れ出す魔法の話術
── 運動嫌いな子どもたちにとっては、家の中にいること自体が苦痛ではないからこそ、体を動かすのがおっくうになりがちです。運動に興味を持たせるにはどうすればいいでしょう?
有森さん:
運動させようと思わず、体を動かしてみようと思える目的・興味を持たせることが大事です。私の趣味の喫茶店巡りのように、地図を広げて「ここまで歩いてみようか?」と、外へ連れ出して散歩に行くのもいいでしょう。激しく動かなくたっていいんです。動いてさえいれば。それには何かその子が興味を持てる目的を考えておくといいですね。
── 確かにいきなり「さあ、運動するよ!」と無理やり連れ出しても…逆効果ですよね。
有森さん:
そうなんです。まったく運動が好きじゃない子に「体を強くするために運動しなさい」といきなり言っても運動自体が嫌いなんだから意味がありません。それがたとえ体にいいことだとしても、その子のメンタルにも良くないですよね?
残念ですが、コロナ禍では今までのようなやり方は通用しません。まずは「その子が何に興味・関心があるのか」をコミュニケーションを通じて理解することから始めないと。話はそれからです。
見方を変えれば、親子が一緒になって新しいことへ踏み出してみる絶好の機会だと思いますよ。
好きなことをする時間が増えるだけでは人間ダメになる
── お話を伺って、もっと親が広い視野で子どもたちに接していかなければダメだなと思いました。
有森さん:
固定概念にとらわれすぎたり発想が乏しかったりすると、毎日生きるのが苦しくなると思うんです。ただでさえ子育てって大変な面が多いですよね。
コロナ以降はその苦労が倍以上になっているでしょうから、「こうでなければならない」という考えは捨てるべき。この状況を少しでも前向きに捉えることができれば、適応力を高めることができ、家族ごと進化できるチャンスだと思います。
── 有森さんご自身の生活でも変わった部分はありますか?
有森さん:
もともと家事やインテリアが好きなので、在宅時間が増えてからは、家具の配置を変えてみたり好きなことに没頭する時間ができました。
あとは朝の時間に余裕ができたので、豆から焙煎してコーヒーを飲むようになりました。やはり挽きたてのコーヒーはおいしいんですよ。その日の気分によっては焦げることもありますが…「今日はちょっと荒れてる日かな」と、コンディションをコーヒーで占ってみたり(笑)。
── 外に出かけられないという窮屈さを嘆くのではなく、自分時間を満喫されているようですね。このような状況であっても穏やかな時間を過ごされていて、羨ましくなります!
有森さん:
こんな状況だからこそ好きなことを通して自分を見つめ直すことができるので、それはすごくいいことだと思います。とはいえ、いつまでもこの状況のままがいいわけじゃない。そろそろ外の世界に出て、いろいろと揉まれてもいい頃かなと。
このまま自分だけの空間で心地よく過ごすことは、もちろん快適なことではありますが、それだけでは人間ダメになってしまいますから。
最近は、人との情報交換を少し増やし始めたところ。オンラインでもいいので、週に1回は誰かと話せるように友人グループをつくっています。
オンラインで会話をするときは自分の話だけで終わらないよう、できるだけ人の話に耳を傾けるようにしています。オンライン終了後に会話に出てきた内容を自分なりに考えることも忘れずに。
── 有森さんのように、親子で家の中で楽しみながらできることも探すといいかもしれません。
有森さん:
そうですね。お手伝いもいい運動になりますよ。例えば、立ったまま頭と手先を使って調理するのも立派な運動ですよ。お手伝いは考える力、生きる力になります。
私も子どもの頃、親の手伝いで考える力を養いました。家ですごすのが好きなのもその影響だと思います。
今できることや今楽しめることのアイデアをどんどん生み出していきましょう。その生み出す力はコロナが終息してからもずっと生きるはずです。
Profile 有森裕子さん
1966年岡山県生まれ。バルセロナオリンピック、アトランタオリンピックの女子マラソンでは銀メダル、銅メダルを獲得。現役引退後は、認定NPO法人ハート・オブ・ゴールド代表理事、スペシャルオリンピックス日本理事長、日本陸上競技連盟副会長、大学スポーツ協会(UNIVAS)副会長等の要職を務める。2010年、国際オリンピック委員会(IOC)女性スポーツ賞を日本人として初めて受賞。