家にいる時間が長引くほど、親は「子どもの健康のためにどうにかして運動させなくちゃ」と焦りがち。でも、場合によってはそれが逆効果になることも…!?
マラソン日本代表としてオリンピックで2度メダルを獲得した有森裕子さんは、コロナ禍における子どもの体力低下についてゆゆしき事態としながらも、「運動しなさいと頭ごなしに押しつけるのではダメ」と断言します。
では、効果的な子どもとの関わり方とは、一体どんなものなのでしょうか?
運動ばかりかコミュニケーションの機会も奪われた子どもたち
── 新型コロナウイルス感染症が問題になりはや2年が経過しようとしています。この状況が子どもたちにどのような影響を及ぼしていると感じていますか?
有森さん:
コロナ以降、子どもたちは感情の発散の場が良くも悪くも減ったと思います。人は感情を外に出す場が必要。ですから、外出もできず同じ空間にずっといるようではストレスは溜まっていく一方でしょう。
そもそも子ども同士のコミュニケーションも減っているかもしれません。「自分はどんな人間なのか」という自己理解も、友達とのコミュニケーションを通じて深めていくものですが、友達に会う機会が減ればその経験も難しくなりますよね。
低い年齢ほど、健康状態もそうですが、基本的なメンタルの構築に深刻な影響を及ぼしているのではないかと思います。
コロナ以降、自殺率は上がってきています。小中高の自殺率が上がり、自殺が低年齢化してきているというニュースも耳にします(※)。
そういった悲しい状況をこれ以上生み出さないためにも、私たちはあらゆる情報をかき集めながら、さまざまな対処法を生み出していく必要があると感じます。どれだけ新しい方法を見出すことができるのかが大事なのではないでしょうか。
── 常に情報を更新しながら、この状況に順応していくということでしょうか?
有森さん:
そうですね。例えば、今までは子どもたちがテレビゲームに夢中になっていると親は「目が悪くなる」「勉強の妨げになる」と、ゲームに対する印象はあまり良くなかったと思うんです。
それが、このコロナ禍においては、在宅時間が長引き、外で遊ぶ機会が減ってしまった子どもたちにとって、大きなストレス発散法になっています。
このことを考えると、親はテレビゲームに対するネガティブな既成概念を取っ払って、柔軟に発想を変えていく必要があるのかもしれません。
── 親としてはつい「またゲームばかりして!」と叱りたくなってしまいますが、今の状況ではそれが子どもたちのひとつの支えになっていることもありますよね。
有森さん:
最近のテレビゲームには、体を動かしながら遊べるソフトもあるようですし、そういったものを活用して上手に刺激を取り入れてみるといいのではないでしょうか。さらに、親も一緒になって楽しめるともっといいですね。
コロナ禍にどう行動するか?そこに自分の真の姿が見えてくる
── 家に閉じこもる時間が増え、運動量が以前より減った人が多いと思いますが、肥満についてはどうでしょうか?
有森さん:
家の中でずっと過ごしているからといって、一日中食欲がおさまらないということはないと思います。
むしろ日中、親が家にいることで、手作りの食事をとる機会が以前より増え、逆に食生活が改善されているケースも。子どもたちがジャンクフードに手を付ける機会が減ったというご家庭もあるかもしれません。
── 確かに親の目が届くようになり、子どもたちの食事に気を配りやすくなったと感じます。
有森さん:
そうですよね。それは、食生活だけに限らず親子のコミュニケーションも同様で、家族の会話が増えたことで新たな発見もあるはず。このコロナ禍の状況は、そうした新たな「気づき」を得られるいい機会だと前向きに受け止められると、少しは気持ちがラクになると思います。
── 落ち込みやすい時期ですが、今後もコロナと共存していくことになりますし、有森さんのように柔軟に発想転換していきたいです。
有森さん:
そもそも、コロナのせいにしてなんでもかんでも否定するのは違うと思います。そういう人は、コロナ禍でなくても「人のせいにする」発想に陥りがちです。
逆にコロナ禍という状況で、みんなが不便だと感じるなか、自分は何を考え、どう行動していく人間なんだろうという新たな発見があるのではないでしょうか。
なぜそんな発想をするのか? コロナだからなのか、それとも本来の自分の性格によるものなのか?この環境を通して確認してみるチャンスと捉えられるといいですね。
Profile 有森裕子さん
1966年岡山県生まれ。バルセロナオリンピック、アトランタオリンピックの女子マラソンでは銀メダル、銅メダルを獲得。現役引退後は、認定NPO法人ハート・オブ・ゴールド代表理事、スペシャルオリンピックス日本理事長、日本陸上競技連盟副会長、大学スポーツ協会(UNIVAS)副会長等の要職を務める。2010年、国際オリンピック委員会(IOC)女性スポーツ賞を日本人として初めて受賞。