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経済産業省・浅野大介さん(左)、筑波大学1年生・和田優斗さん(右)

コロナ禍で、子どものタブレット学習やオンライン授業は一気に普及しました。それだけでなく、保護者自身の生き方・働き方が一変したという人も少なくないでしょう。

 

そんな中、子ども11台端末のGIGAスクール構想がついに今年度本格スタートしました。

 

「これからの教育・求められる力」特集第4回は、文部科学省とともにGIGAスクール構想の旗振り役を担ってきた経済産業省の浅野大介さんと、大学の科目検索システムの代替版を入学後数日で独自開発して話題となった和田優斗(ツイッター名:いなにわうどん)さんの対談をお届けします。

 

二人が考える「これから必要な力」「子どもを伸ばす教育」とは?

教育が社会を発展させる

—— まず和田さんから浅野さんへ簡単な自己紹介をお願いします。

 

和田さん:

筑波大学に入学した際、科目履修登録のための検索システムが不具合で止まってしまいまして。その代替となるシステムを短期間で開発したことがSNSなどで話題となり、今回このような場にお招きいただくことになりました。

 

—— かくいう浅野さんはGIGAスクール構想の推進役として知られる存在です。

 

浅野さん:

私は、17年に経済産業省で教育産業室という部署を立ち上げました。

 

以来「未来の教室」実証事業やEdTech導入補助金事業を通じて、学校に1人1台端末環境とEdTechを入れることで学びが大きく変わる姿を、全国各地で実証してきました。その実証結果をもとに文部科学省に政策の大転換を呼びかけました。

 

文部科学省とともに、たくさんの政治家の先生方のお力をいただきながら、義務教育段階からの11台端末(GIGAスクール構想)実現にこぎつけたところです。

 

—— そもそもなぜ経済産業省が、義務教育に関与しているのでしょうか。

 

浅野さん:

社会や経済のパフォーマンスを左右するのは、「組織」の学習能力であり、あらゆる組織を構成する「一人ひとり」の学習能力だからです。

 

経済産業省は「経済活力の向上」を担う行政機関ですが、この観点から、子どもの学習環境は非常に重要だと考え、GIGAスクール構想を推進しています。

求められるのは「自分でなんとかしよう」とする力

—— 日本経済の向上を目指す浅野さんにとって、今後社会で求められるのはどのような力だと考えていますか。

 

浅野さん:

自分の周囲が何かに困っている状況を見て、そこに潜む問題を特定して、解決する。そこに高いパフォーマンスを発揮して貢献する。その成功体験で自信を得て、「もっといいものができるんじゃないか」と思いながらどん欲に学びながら、またチャレンジする。

 

全ての人の能力は異なりますが、一人ひとりに大なり小なりそういうサイクルを自律的に回せる力を育て、定着させていくことが「学習」ですし、それが社会の持続可能な発展につながると思っています。

 

別に自分1人ですべてやる必要はないんです。いろんな人の力に上手に依存しながらも、なんとかやりきろうと頑張るメンタリティ、つまりガッツ、そして解決に必要な技術。こういう力を日本の学校である程度身につけられるようになるべきだと思っています。

 

—— 和田さんの今回の活躍はまさにその好例だと思います。

 

和田さん:

ありがとうございます。そんなに大それたことをした自覚はないのですが、単純に自分もすごく困っていたので、皆さんに使っていただけて嬉しいです。

「プログラミング=変なこと」を覆した未踏事業

浅野さん:

人には「自分はこの道をやっていこう」と腹をくくる瞬間のようなものがあると思うのですが、和田さんがプログラミングに自信を持つようになったきっかけってあるんですか。

 

和田さん:

高校3年生の時に、経済産業省所管の独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が実施している「未踏IT人材発掘・育成事業」に選ばれたことでしょうか。

 

プログラミングは小学生時代から独学で学び始め、中学3年生ぐらいで技術的な内容は一通り習得していました。ただずっと我流だったので、「選ばれた」ことが大きな自信につながりました。

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浅野さん:

やっぱり「未踏」でしたか。未踏事業は、経済産業省にとっては歴史あるヒット政策なんですよ。未踏事業の卒業生たちは、皆さんそれぞれ本当に活躍されていて。

 

だから、和田さんにとって未踏事業はどういう場なのか、ぜひ聞いてみたいですね。

 

和田さん:

研究に専念できるよう金銭面の支援が受けられることもありがたいのですが、それよりも、大学の先生といった第一線の方々と議論の場を持てたことは、高校生だった自分にとって大変貴重な経験となりました。

 

あとは「公的な事業に選ばれた」ことで周囲の理解が得やすくなったことは、すごく大きなメリットでした。

 

それまでは「プログラミング=変なことをしている」みたいな感じで学校の先生など周囲の大人からなかなか理解が得られない部分があったので

「サード・プレイス」が子どもを伸ばす

浅野さん:

なるほど、当事者たちにとってそういった側面もあるんですね。

 

僕は未踏事業のような場をはじめ、いろいろな分野やレベルで、「家庭」や「学校」以外の3つ目の居場所、つまり「サード・プレイス」を用意することが、子どもの能力を伸ばしていくのに必要だと考えているんですよ。

 

—— それはどういうことでしょうか。

 

浅野さん:

例えばスポーツの世界だと、ナショナル・トレーニングセンターがあって、強化指定選手がいて、強化費用をつぎ込まれながら育っていく環境がありますよね。水泳だったら、いわゆる「習い事」の枠をこえて、一流の才能同士がここで触発し合います。

 

特に若者にとって、近所の学校や地元社会や家庭の枠を越えて「世界各地・全国各地のすごい奴ら」と競い合い、影響し合う環境が重要なわけです。

 

子どもは、プログラミングに夢中になりたくても、学校の先生やご家庭が繰り出す「そんなことより受験勉強しなさい」みたいな画一的な価値観に負けがちです。でも未踏や未踏ジュニアみたいな「サード・プレイス」があれば、子ども自身がそれに夢中になっていていいという「正統性」を主張しうると思うんです。

 

IT系の子たちにとって、そういう場所は自然にできるものなのか、あるいは大人が意図的に作っていかないとまだ足りないのか知りたいですね。和田さん、どうですか。

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和田さん:

大学には、そういうコミュニティが結構あると思います。情報系の学部にいれば、同じような興味関心を持った人がたくさん集まっています。また、筑波大学の場合は一般入試とは異なる「研究型人材入試」や「国際科学オリンピック特別入試」などで入ってきた特異的な能力を持った学生も多いです。

 

ただ、中高生時代はなかなかそういう出会いがないので、そうした場は大人が意図的に作る必要があるように思います。

 

未踏事業のような場もすばらしいのですが、「意欲はあるけれど、まだこれから」という多くの人にはハードルが高すぎます。そういう人のために、中学時代から参加できるコミュニティがあるといいかもしれません。

 

浅野さん:

なるほど。僕は様々なサード・プレイスを通して、就職活動のあり方も変えたいんですよね。スポーツのプロチームが若い才能をジュニア時代から育てるような関係を、企業と個人との間にも作りたいと思っています。

 

たとえばプログラミングはじめサイバー分野で才能のある高校生が、第一線で活躍しているエンジニアたちと一緒に勉強がてら働いて、社会で通用するプロダクトを作りながら、お金をもらい、深く学ぶ。自分の腕も磨けて、総合型選抜※1(旧:AO入試)などで進学だってすればいい。

 

和田さん:

僕は筑波大学の総合型選抜のひとつである「国際科学オリンピック特別入試」枠で、未踏事業に採択された点が評価され合格しました。そういう意味では、浅野さんが描くサード・プレイス活用のイメージに近いかもしれません。

 

浅野さん:

まさにそうですね。総合型選抜では、そういう才能が拾えるのがいいと思っています。大学は、いろんな努力をした人たちが集う場であるべきだし、既にそうなってきているということですね。

 

いろいろな声がありますが、僕は入試の多様化はすごくいいことだと思っています。

 

和田さん:

ただそもそも進学校の多くはアルバイトさえ禁止です。サード・プレイスがあったらいいなと思う反面、そういう縛りを突破するにはアイデアや多大なエネルギーが必要かもしれません。

 

浅野さん:

そうなんですよ。教育現場は、なかなか革新的なことを取り入れづらい。

 

学校はもちろん、少年院のような社会復帰をサポートする場所でも、これから就労機会が先細って行くばかりの木工作業とかやらせるより、もっと、就業機会が広がるサイバー系・デジタル系の仕事を学ばせたほうが絶対に更正機会の拡大になるのに、と思います。

GIGAスクール構想今始めないとますます世界に遅れる

—— GIGAスクール構想により、端末を11台持つようになったことで、学校も変わっていくかもしれませんね。

 

浅野さん:

GIGAスクール構想に不安な人たちの気持ちもわかります。

 

実際、11台端末を持つことで、いま、学校現場は大混乱しています。これからも、いろいろな問題も出てくるでしょう。でもそれそのものが素晴らしい学習機会。混乱に強くなるチャンス。デジタル社会のインフラなんで、身に付けなくてはいけない。だからまずは、始めてみる。そこから新しいものがたくさん生まれてくると僕は信じています。

 

多くの学校は急には変わらないでしょうが、ものすごい勢いで、ポジティブに変わり始めている学校もたくさんあります。福島県大熊町立小中学校なんかも個別最適で自律的な学習環境に大転換を始めていますし、東京の広尾学園中高などは、大学と連携して大学院生の研究みたいにハイレベルなことに中高生が取り組める環境を提供しています。

 

保護者の方々にも、子どもが家に端末を持ち帰り、それで学ぶ姿を見守っていただきたいですね。端末とネットがあれば、その子どものレベルに合った学びをスムーズに導入できますから。

 

そして、勉強以外のことを端末でやっていても怒らないでほしい。そこから新しい何かが生まれるかもしれません。

未来の教室
GIGAスクール構想を中心とした「未来の教室」事業のホームページ

子どもが夢中になれる環境を作れるかにかかっている

—— 和田さんが保護者世代に望むことはありますか。

 

和田さん:

子どもって、ITに限らずいろんな分野に興味を持つと思うんです。そういうときに「勉強が大事」とか「友達と遊ぶのが一番」みたいな固定観念を押し付けるのはやめてほしいですね。

 

趣味とか勉強の仕方とか、あらゆる面で子どもの個性を見出す。そうした接し方が子どもの才能を伸ばすんじゃないかと思います。

 

浅野さん:

子どもたちが夢中になれる環境をどれだけ作れるかにかかっていいますよね。

 

勉強も大事ですが、いくら勉強ができても、自分の力を発揮できる活路を見出せなかったら意味がありません。タブレットやパソコンはそれを見つける道具だととらえていただきたいです。

 

—— 新しいことにチャレンジして、走りながら修正する、そういうスピード感がこれからは求められているのかもしれません。同時に、保護者の意識改革も求められているように思いました。本日はどうもありがとうございました。

 

PROFILE:浅野大介(あさのだいすけ)さん

経済産業省 商務・サービスグループ サービス政策課長、教育産業室長。17年に教育産業室を立ち上げ、「1人1端末」のGIGAスクール構想の旗振り役として活躍。学校現場の情報環境を整えることで、新しい学びの創出を狙う「未来の教室」プロジェクトを推進中。

 

PROFILE:和田優斗(わだゆうと/いなにわうどん)さん

筑波大学情報学群1年生。入学直後、大学の科目検索システムが使用不能となる中、代用システムを開発、Twitter上で「いなにわうどん」名義で利用を呼びかけ、話題に。2020年度未踏IT人材発掘・育成事業に採択され、「スーパークリエータ」に認定された。

 

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取材・文/鷺島鈴香

(※1)詳細な書類審査と時間をかけた丁寧な面接等を組み合わせることで、受験生の能力・適性や学習に対する意欲、目的意識等を総合的に評価・判定する入試方法。