コロナ禍で、子どものタブレット学習やオンライン授業は一気に普及しました。それだけでなく、保護者自身の生き方・働き方が一変したという人も少なくないでしょう。
価値観がどんどん変化する中で、私たちは子どものために何ができるのでしょうか。
「これからの教育・求められる力」特集第3回は、筑波大学情報学群1年生の和田優斗さんにインタビュー。
2021年4月11日、大学の科目検索システムがトラブルで休止した際、即座に代用となるシステムを開発・公開したのが和田さんです。
入学して数日足らずの和田さんの活躍は「スーパー新入生」として大きな話題になりました。
プログラミングの知識はどのように身につけたのか、その行動力はいかにして培われたのか…。その素顔に迫ります。
学生のピンチを救うも…「ただできることをしただけ」
—— 大学の履修科目の登録に必要な代替システムを開発して、学生たちのピンチを救ったことが大きな話題になりましたね。そもそもどういったシステムだったのでしょうか。
和田さん:
大学では、7000以上の科目(授業やゼミ)が開講されています。学生たちは学期はじめに、その中から自分が取りたい科目を選び、履修登録をしなければなりません。
科目を選ぶときに使うシステムが、大学が用意した「KdB」です。
ところが、ちょうど私が入学した直後、大学のシステムがダウンしてしまって。当然KdBも使えず、大混乱になってしまいました。それで代わりになるシステムを作ろうと思い立ったのです。紙の科目一覧もあるにはあるのですが、辞書みたいに厚くて、すごく探しにくいので…。
—— 科目選択のシステムというと、図書館で書籍を検索するようなものをイメージすればいいですか?
和田さん:
そうですね。別の人がダウンロードしていた、科目一覧のエクセルデータがあったので、それと僕が作った検索画面を結びつけて作成しました。
エクセルに慣れている人ならエクセルデータのままで十分かもしれませんが、やはり少し使いづらいと感じたので。
—— それを3時間半で開発されたんですよね。
和田さん:
はい、それでTwitterで「KdB(もどき)を作りました。ご自由にご活用ください」と公開したんです。
—— すごいスピード感と技術力ですが「公開に踏み切る」その行動力もすごいと思います。「叩かれないかな」といったためらいはなかった?
和田さん:
「生意気だ」というような批判はあるかもしれませんが、技術的な面で問題は全くないことはわかっていましたし、やっていること自体は批判されるようなものではないと思っていたので、ためらいはなかったです。
自分もすごく困っていたので、皆さんに使っていただこうという気持ちのほうが強かったですね。
—— 確かに和田さんからは「すごいことをした!」という気負いは感じられないですね (笑)。周囲の反響はいかがでしたか。
和田さん:
学内では好評です。普段Twitterをやっていない友人にも「システム見たよ」と声をかけられたりして、反響の大きさを実感しています。
その後、学類長の先生からも「システムがすごくよくできていて、教員側でも話題になったのでぜひ公認という形にしたい」と連絡をもらいました。
—— 大学側もなんだかおおらかでいいですね。
和田さん:
筑波は伝統的に、学生がいろいろ便利なシステムやツールを開発してみんなに利用してもらう、そういう雰囲気があります。
開発後も、学部の友だちや先輩などの有志と改良を重ね、取りたいコマ、授業形態(オンラインか対面か)、科目の詳細などからも検索できるようにしています。
小学生時代のネット視聴は1日2〜3時間
—— 半日でみんなが使えるシステムを開発する…、そういったIT能力はどうやって身に付けたのですか。
和田さん:
小学校時代からインターネットをよく見ていて。ニュース系やおもしろ系など、さまざまなサイトを見るうちに「見るだけでなく自分でも制作してみたい」と考えるようになりました。それで簡単なプログラミングから始めて、徐々に勉強を深めていきました。
—— 保護者としては、子どもがパソコンやスマホに長時間向かっていると、「何を見てるのかな」「ちょっと見過ぎじゃない?」と心配になりそうですが…。
和田さん:
親自身がネットのコアユーザーだったので、特に制限されたことはなかったですね。それに、外で遊ぶときは遊んでいましたし、勉強もやるべきことはやっていたので…。
小学生時代に1日2~3時間、中学生以降は4~5時間はネットを見ていました。パソコンも自分用がありました。
—— ネットトラブルに巻き込まれたことは?
和田さん:
幼少期からインターネットに触れていたためか、他の人に言われなくてもある程度、自然に情報リテラシーがついていました。だから特に問題は起きませんでした。
むしろ、親にネット利用を厳しく制限されていて、やっと高校でデビューというような友人のほうが、ネットの使い方がわからないみたいで、危なっかしい感じがしました。
プログラミングは独学、高校で公的事業に参加し飛躍
—— プログラミングは教室などで学んだのですか。
和田さん:
中学生までは、特にどこかで教わったといった経験はありません。最新の情報は全部ネットで手に入るので、興味の向くまま自分で調べて、少しずつ知識を吸収していきました。
—— インターネット社会の可能性を感じるお話ですね。その後、横浜市立サイエンスフロンティア高校に進学されたんですよね。
和田さん:
理数科の学校で、課題研究の時間がたっぷりあり、設備も充実していたので志望しました。部活は情報工学部に入り、そこでプログラミングを勉強したり、情報オリンピックに出場したりしました。情報オリンピックの出場者はさすがにつわものぞろいで、本選では全然歯が立たなかったですね。
—— 部活や授業以外に、校外活動も活発にされていますね。
和田さん:
高校2年生のときに「グローバルサイエンスキャンパス」という、大学で興味のあることを学ぶプログラムに参加しました。僕は金沢大学で指導してもらいながら、文章に込められた感情をAIが読み取り、それに適したフォント(書体)を選ぶシステムを開発しました。海外でポスター発表をする機会もあり、有意義な時間を過ごせたと思います。
高3の6月に、経済産業省所管の独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が実施する「未踏IT人材発掘・育成事業」にも選ばれて、東京工業大学の先生にご指導いただきながら、デザイン性の高い文書を作成するソフトを開発しました。
—— 高3は受験生でもありますね。校外活動と受験勉強の両立は大変だったのでは?
和田さん:
未踏事業からは有名なIT人材が数多く生まれていて、僕の長年の憧れでした。だから未踏事業に参加できることの方が大学受験よりも優先順位は高かったですね。大学受験で浪人するのを覚悟でチャレンジしました。
ただ、実は筑波大学には「国際科学オリンピック特別入試」という特別枠があり、情報学群では未踏事業に採択された実績が評価されるんです。そのおかげで結果的には現役で筑波大学に合格することができました。
筑波大学は落合陽一さんや登大遊さんといったIT系の天才を輩出していて、ぜひそういう場で自分も学びたいと考えていたので嬉しいです。
マナーもプログラミングも実践で身につく
—— Twitter上での和田さん(名義は「いなにわうどん」)は毒舌だったりしますが、実際にお会いしてみると、すごく礼儀正しくて…。正直驚きました。ご両親の教育方針でしょうか。
和田さん:
いえ、進路もマナーも両親は手取り足取り教えるようなタイプではありません。「あなたの人生だから」と尊重してくれています。
ただ、先ほどお話しした校外活動では、社会人の方や大学の先生とやりとりする機会がたくさんあります。そこで場数を踏むうちに、自然とマナーが身についたのだと思います。
—— わが子のネット上での言葉遣いを心配する保護者も多いですが…。
和田さん:
今の子どもはリアルとネットを使い分けていると思いますよ。僕も、現実社会では然るべき行動をとりますし、TwitterはSNS上の別世界だと思っています。
—— 大学で鮮烈なデビューを果たした和田さんですが、今後はどんなことを学ぶ予定ですか。
和田さん:
プログラミングも好きなのですが、芸術系にもすごく興味があります。今在籍している情報メディア創成学類は、ちょうどその情報技術と、映像表現やデザインといった文化的なアプローチも学べるので自分に最適な場所だと感じています。使いやすくて見やすいメディアづくりを追求していきたいですね。
—— KdBもどきの開発をきっかけに、サークルも立ち上げられたんですよね。
和田さん:
はい、KdBもどきの改良を手伝ってくれた仲間と共に、システム開発のサークルを立ち上げました。今後も実践的なシステム開発にチャレンジしていきたいですね。
過去には広大な筑波大学のキャンパスマップアプリなどもあったのですが、学生個人がいいツールを開発しても、その人が卒業してしまうと自然消滅してしまうことが多くて…。
サークルで取り組むことによって、後輩に引き継いでいけるのではという思いもあります。
—— 「みんなのために」を自然に行動に移せる和田さんは頼もしいですね。子どもを尊重する保護者の元、校外活動などで興味のある学びを深化させてきたことが、和田さんの自信につながっているのかもしれません。
PROFILE:和田優斗(わだゆうと/いなにわうどん)さん
筑波大学情報学群1年生。入学直後、大学の科目検索システムが使用不能となる中、代用システムを開発、Twitter上で「いなにわうどん」名義で利用を呼びかけ、話題に。2020年度未踏IT人材発掘・育成事業に採択され、「スーパークリエータ」に認定された。
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取材・文/鷺島鈴香 イラスト/えなみかなお