2021年6月、文部科学省は全国の小中学校を対象に「授業時数特例校制度」の導入を発表しました。

 

現在、小学校や中学校では、各学年ごとに1年間に学ぶべき内容と標準授業数が学習指導要領によって定められています。

 

しかし来年(2022年)4月からは、最大1割まで各教科の授業数を減らして、かわりにその学校で決めた別の内容を学ぶ時間に充てられる…というものです。

 

今回は「それってなんのために?」「コマ数を減らしてもちゃんと必要な内容が学べるの?」「ウチの子の学校でも来年から?」といったママやパパの疑問に分かりやすく答えます。

「授業時数特例校」制度とは

まずはこの制度の説明を見てみましょう。

 

文部科学省の資料を見ると、「授業時数特例校」とは

文部科学大臣が、学校教育法施行規則第55条の2等に基づき指定する学校において、学校や地域の実態に照らし、より効果的な教育を実施するため、総枠としての授業時数(各学年の年間の標準授業時数の総授業時数)は引き続き確保した上で、教科等横断的な視点に立った資質・能力の育成や探究的な学習活動の充実等に資するよう、カリキュラム・マネジメントに係る学校裁量の幅の拡大の一環として、教科等の特質を踏まえつつ、教科等ごとの授業時数の配分について一定の弾力化による特別の教育課程の編成を認める制度

とあります。

 

この「一定の弾力化による特別の教育課程の編成を認める」という部分が、「ある教科の授業数を減らすかわりに、別の教科や内容を学ぶ時間に充ててもよい」という意味になります。

 

ただし、いくらでも自由に減らしても良いわけではなく、減らせるのは各教科の年間標準授業数1割までと決められています。

 

また、変更にあたっては文部科学大臣に特例校の申請を出し認定されることが必要で、突然年間の授業数を組み替える…といったことはできません。

ママ・パパの疑問1)なんのために授業数を振り替えるのか

この制度について、

 

「もともと最適な授業数が決められているはずなのに、なぜ学校ごとに変える必要があるのか」

 

と疑問に思う人もいるかもしれません。

 

授業時間数に弾力性を持たせる目的は「教科等横断的な視点に立った資質・能力の育成や探究的な学習の充実」だと説明されています。

 

さらに詳しく見てみると、

  1. 学習の基盤となる資質・能力(言語能力、情報活用能力、問題発見・解決能力 等)の育成
  2. 現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力の育成(伝統文化教育、主権者教育、消費者教育、法教育、知的財産教育、郷土・地域教育、海洋教育、環境教育、放射線教育、生命の尊重に関する教育、健康教育、食育、安全教育 等)

の2つに分かれています。

 

これからIT化やグローバル化が進む社会に出てゆく子供たちに、各教科の教科書だけでは伝えきれない内容を教えたいと思ったときに、そのための時間を確保できる制度というわけです。

 

具体的には次のような学習内容が予想されます。

言語能力+問題発見・開発能力を伸ばす

例:中学校で「外国人のビジネス相手と英語で話し合い、問題を解決してよりよい商品を開発したい」というシーンを想定してシミュレーションを行う。 (英語と社会、理科の時間を上乗せし、融合させた授業)

地域の伝統文化や郷土についてより深く知る

例:小学校で、地元の伝統的なお祭りの実行委員に来校してもらい、祭りの維持にはどんな作業が必要でどのくらいの費用が必要なのかをインタビュー。 自治体の補助金、企業のスポンサー、クラウドファンディングなどの案を出し合い、どう予算を得て継承していくか話し合う。 (社会と算数の授業数を増やし、融合させた授業)

 

このように、地域や時代に合わせ教科を横断した授業ができるのが新制度のメリットだとされています。

ママ・パパの疑問2)ちゃんと必要な内容は学べる?

この制度で「特例校」となるには、子供たちや保護者に不利益が生じないようさまざまな条件があります。

・学習指導要領の内容事項が適切に取り扱われていること。
・各学年の年間の標準授業時数の総授業時数が確保されていること。
・児童生徒の発達の段階、各教科等の特性に応じた内容の系統性・体系性に配慮がなされていること。
・保護者の経済的負担など、義務教育の機会均等の観点から適切な配慮がなされていること。
・児童生徒の転出入など、教育上必要な配慮がなされていること

上記では、1年を通じて必要な学力がどの子もきちんと身につくだけの授業時間数を確保するように決められています。

 

また道徳や小学校3~4年での外国語活動・中学校の技術家庭など、もともと年間標準授業時数が35単位時間以下の教科は対象外になっています。

 

「道徳の授業を減らして、受験対策教科の授業数を上乗せする」…といったことは基本的には認められていないわけですね。

ママ・パパの疑問3)ウチの子の学校も来年から?

ここまで読んできて、「えっ、じゃあウチの子の学校はどうなるの?」と疑問を抱いた人もいるのではないでしょうか。

 

授業時間数の自由度が高い「特例校」になるには、2021年末までに申請し、認定されれば2022年4月から新しいカリキュラムで授業が行われる予定です。

 

特例校になるとしても、ある日突然いずれかの授業が減って別の内容に置き換わる…といったことはなく、必ず事前に「こういった力を子供たちにつけてほしいので、このような変更を予定しています」といったお知らせがあるはずです。

 

申請受付は2021年8月開始予定なので、早ければ1学期中に学校からのおたよりが配られるのではないでしょうか。

おわりに

今回の制度には、現場の先生たちの負担増を心配する声や、ますます学校ごとに学力の格差が出るのではないかという懸念の声もあがっています。

 

しかし本来は、現場をよく知っている先生たちが、本当に子供たちのためになるような内容を選んで教えられるようにするための制度だといえます。

 

今後も学校からのプリントにはひととおり目を通しておき、わが子の学校が特例校になるのか、なるとしたら何が今までと変わるのか…を把握して、子供にも説明できるようにしておきたいですね。

文/高谷みえこ
参考/文部科学省【資料4】授業時数特例校制度について(概要) https://www.mext.go.jp/content/20210629-mxt_kyoiku01-000016453_4.pdf