最近、教育系の番組やネットで「国際バカロレア」という言葉を見かけたことはありませんか?
国際バカロレアは、世界共通の総合的な教育プログラムで、英語の「International Baccalaureate」を略して「IB」とも呼ばれます。
今回は、国際バカロレア(IB)で子供たちはどう学び、将来にどう生かすのか、日本での国際バカロレアの普及状況などを紹介します。
そもそも「国際バカロレア」「IB」ってなに?
国際バカロレアは、スイスのジュネーブにある国際バカロレア機構が提供する国際的な教育プログラムで、「International Baccalaureate」を略して「IB」と呼ばれることもあります。
対象年齢は3~19歳で、次の4段階に分かれています。
PYP (Primary Years Programme) 3-12歳
精神と身体の両方を発達させることを重視したプログラム。どのような言語でも提供可能。
MYP (Middle Years Programme) 11-16歳
青少年に、これまでの学習と社会のつながりを学ばせるプログラム。どのような言語でも提供可能。
DP (Diploma Programme) 16-19歳
所定のカリキュラムを2年間履修し、最終試験を経て所定の成績を収めると、国際的に認められる大学入学資格(国際バカロレア資格)が取得可能。原則として、英語、フランス語又はスペイン語で実施。
IBCP (Career-related Programme) 16-19歳
生涯のキャリア形成に役立つスキルの習得を重視したキャリア教育・職業教育に関連したプログラム。一部科目は、英語、フランス語又はスペイン語で実施。
(引用元:文部科学省IB教育推進コンソーシアム)
日本の小中高の学年分けとは異なりますが、3番目のDP (Diploma Programme)を修了すれば、日本の高校を卒業したのと同じように大学を受験できます(ちなみに、フランスには国民の80%が取得する「バカロレア」という国家試験があり、合格者は大学入学資格を持つことができますが、「国際バカロレア」とはまったく関係はありません)。
国際バカロレアが生まれた背景には、両親の仕事の関係で世界各国を転々とする子供たちの存在がありました。
子供たちが国ごとにバラバラの教育方針に左右されて十分に学習できなかったり、文化や社会常識の違いに戸惑ったり、将来大学受験で困ったりすることのないよう、どの国に引っ越しても共通の学びが保証されるようにとインターナショナルスクールの教師たちを中心に考えられたプログラムが、国際バカロレアのはじまりです。
日本の「国際バカロレア」認定校ではどう学ぶのか
日本には、2021年現在、以下の国際バカロレア認定校が存在します。
- PYP(3~12歳)…27校(世界では1,658校)
- MYP(11~16歳)…16校(世界では1,4888校)
- DP(16~19歳)...38校(世界では3,340校)
- IBCP(16~19歳)…なし(世界では180校)
国際バカロレア(IB)の教育方針は「探求型学習」と「全人的教育」で表わされ、初代事務局長のアレック・ピーターソンは次のように述べています。
「教育の目標は知識の獲得ではなく、多様な考え方で発揮できる知力を育成することである」
具体的にはどんな教育・学習のことをいうのか少し見てみましょう。
「探求型学習」
現代では、昔よりも必要な情報にすばやくアクセスできるため、知識の詰め込みは必要なく、大切なのは得た知識をどう活用し、考え、深めていくか…という教育方針です。
それにより、 答えのない問いに自分なりの結論を出す力や、議論・作文・プレゼンなどの力がつくとされています。
国際バカロレアの掲げる「探究型学習」は次のような形で進んでいきます。
- 教師が「私たちは何者なのか」などのテーマを設定し問いかける
- 各自またはグループで協力してテーマについて調べたり考えたりする
- 探求内容を発表し学び合ったり、議論したりする
- それぞれの探求内容を振り返り、反省点や次に生かす点を考える
公立小学校では「調べ学習」「総合的な学習の時間」として、上記のような授業を見たことがある人もいるかもしれません。
しかしそれは全体の一部であり、多くは、教科書に書かれていることを先生が黒板を使って解説し、児童生徒は静かにそれを聞いて覚える…といった形式が多いのではないでしょうか。
「全人的教育」
国際バカロレア(IB)プログラムでは、「国際的な視野を持ち、人間らしさ、地球を守る責任、平和でより良い世界を築くことに貢献する人間」の育成を目指した教育を掲げています。
子供たちに対しては、次のような10の「学習者像」を示しています。
1. 探究する人
2. 知識のある人
3. 考える人
4. コミュニケーションが出来る人
5. 信念を持つ人
6. 心を開く人
7. 思いやりのある人
8. 挑戦する人
9. バランスの取れた人
10. 振り返りができる人
「いいかも」と思ったら確認すべきこと
もしもわが子が国際バカロレアの目指す学習者像のような人間に育ってくれたら、とても素敵なことですよね。
ただ、「IB認定校に入学させたい」と思ったら、いくつか注意も必要です。
学費
2020年現在でも、国際バカロレア認定校のうち国公立校は数少なく、例えば私立高校であれば年間150~200万円、インターナショナルスクールでは200~250万円の学費がかかるといわれています。
もちろん、親子ともにそれだけの価値が得られると判断したのであれば有益な投資ですが、事前にしっかりと学費のシミュレーションをしておくことは必須です。
学習内容
国際バカロレアのプログラムでは、静かに授業を聞くというよりは、自ら学び発言することが求められます。
なんとなく「芸能人のお子さんと同級生になれるかも」「英語がペラペラになれそう」といったイメージだけで入学を決めてしまうと、事前学習や調べ物・レポート・ディスカッションといった授業内容をハードに感じてしまうかもしれません。
高卒資格について
海外駐在中の社員の子供が通うことの多い「インターナショナルスクール」は、英語などの外国語で授業を受けられ、学習プログラムが似ていることも多いですが、国際バカロレア(IB)認定校はその中の一部です。
IB認定校ではない場合、大学受験や就職に必要な「高校卒業」の資格を得るためには、別途国の「高等学校卒業程度認定試験(旧大検)」を受けて合格する必要があります。
おわりに
2020年から続くコロナ禍で、海外赴任や駐在の機会も減り、お子さんを海外の大学に進学させたいと考える人も減っているかもしれません。
しかし、世界の感染状況が落ち着き人の流れが戻れば、再び国際バカロレアの必要性が高まってくると考えられます。
まだ小さいお子さんのいるママ・パパは、国際バカロレアに興味を持ったなら一度くわしく見てみてはいかがでしょうか。
文/高谷みえこ
参考/IBとは | 文部科学省IB教育推進コンソーシアム https://ibconsortium.mext.go.jp/about-ib/
国際バカロレア公式ガイドブック https://www.ibo.org/globalassets/digital-toolkit/brochures/what-is-an-ib-education-2017-jp.pdf