かつては「裕福な家庭」「優秀な子」のためのもの、というイメージが強かった中学受験。しかし最近では、多くの家庭がチャレンジするようになっています。
気になるけれど、何から始めればいいのかわからない…。そんな保護者向けに、「中学受験の正体」を“イロハ”から進学塾VAMOSの代表・富永雄輔さんに教えていただきます。
今回は、受験をしない家庭にとっても気になる、学力を伸ばす夏の過ごし方について。
中学受験だけでなく、高校受験や大学受験も手がける富永さんだからこそわかる、学力の伸ばし方とは…?
「やらせすぎ症候群」に気をつけて
夏休みは学校がない分、家庭で自由に時間がコントロールできます。そのため、一般的には夏休みをどう過ごしたかで、学力に差がついてしまうと言われています。
ただ、僕としては、だからこそ「やらせすぎ症候群」の弊害が気になっています。やらせすぎ症候群というのは、保護者が子どもにたくさんのことをやらせたくなって、過密なスケジュールをたててしまうこと。
受験勉強に限らず、スポーツや芸術系もそうですが、子どものキャパを越えてやらせすぎると、身につくものも身につかなくなります。それどころか「やらされている」感が強すぎて嫌いになってしまうことさえあります。
よく「自分たちが忙しくて、子どもにまったく勉強をさせられない」と嘆く保護者の声を聞きますが、正直、嫌がる子どもに一日中勉強させて潰してしまうより全然ましです。やらなくてできないよりもやりすぎて嫌いになる方が、のちのち収拾がつかなくなってしまうからです。
入試問題が「座学重視」から変化している
最近の中学入試では、家庭での経験を問うものが増えています。
2008年には、慶應義塾普通部の理科で、カレーを調理する際の具材を入れる順番についての出題が話題になりました。麻布では2019年の理科でエスプレッソの入れ方、2020年の理科でお菓子の作り方について出題しています。
高校入試や大学入試ではさすがに家事にまつわる問題は出ませんが、座学以外の経験を問う傾向は年々強まっています。
ひたすら机で勉強すればいいという時代は終わり、家庭で子どもにどのような経験を積ませているかが問われるようになっているのです。
これは、子どもの座学の学力ばかりを気にする保護者にとっては盲点ともいえます。
4年生までは座学以外の経験を積もう
塾通いが忙しくない1〜4年生にとって、夏は座学以外の経験を積むチャンスです。
親子で、オセロ、トランプ、将棋などに熱中してみたり、電車の旅をするのもいいですね。「本を10冊読む」とか、そういう目標を作って取り組むのもおすすめです。
日常的なお手伝いも、子どもにとっては学びがたくさんあります。夏なら庭掃除とか、ふだんやらない家事を親子で一緒にやるのもいいでしょう。
とはいえ、机に向かう習慣も身につけておきたいところです。受験をしなくても、1年生なら1日30分、4年生なら1日2時間、学校の宿題にプラスしてドリルなどに取り組めるといいですね。
高学年からは「自己管理」を意識
5、6年生になると、中学受験をする子は塾の夏期講習に通うようになります。一方で、受験はしないけれども、中学受験組に差をつけられることなく、高校受験を見据えて過ごしたい…というご家庭もあるでしょう。
その場合、自由な時間が多い夏休みにある程度の学習計画は必要だと思います。受験をしない子でも1日3~5時間は机に向かって勉強したいところです。
ただし、保護者がエクセルで細かい予定表を組んでがっちりやらせるようなことは避けてください。「やらせすぎ症候群」になります。相手は子どもで、大人のビジネスではないということを決して忘れないでください。
予定表を作るにしても、ゆとりをもってが鉄則。達成できたらシールを貼るとか、そういう楽しむ要素はあったほうがいいと思います。
能動スイッチは一生の財産になる
おすすめは、毎日の学習時間のうち2時間分を、子ども本人に考えさせることです。高学年になってくると、子どもなりに「ここは苦手だな」「ここは誰にも負けたくない」といった意識が生まれてくるものです。
それを本人に考えさせ、目標を立て、計画し、実行させる。これが能動性を身につける練習になります。
能動性が身についていれば、中学、高校での成績アップにつながるだけではなく、社会人になってからも役立ちます。
低学年でも、少しずつ能動スイッチを意識してほしい。遊ぶ計画を立てるとか、お手伝いの内容を自分で決めてやるとか、そういうものでいいですよ。
夏は、能動的なスイッチを鍛えるチャンスです。ただあくまで「練習」ですから、最初から出来なくても責めないでくださいね。
早寝早起きは必須じゃない
受験する場合、冬からは本番を意識して早寝早起きのリズムを整えていくことをおすすめしています。
でも、夏休みのうちはあまり神経質になる必要はありません。帰りの遅い保護者に合わせて夜型になっても、それで楽しく一緒に勉強できたり話ができたりするならいいでしょう。
ただし「睡眠時間を削って勉強」はナンセンスです。睡眠時間はきちんと確保するようにしてください。最低でも8時間とらないと、何をするにしてもパフォーマンスが上がりません。
ゲームやYouTube視聴自体は、否定しません。ただ、夏は自由時間が長いからこそ際限なくのめり込みがち。親子で話し合って、なんらかのルールを作ることをおすすめします。
「夏は受験の天王山」「親力の見せどころ!」とはりきりたくなるけれど、やらせすぎは逆効果に…。
子どもの主体性を尊重しながら、夏だからこそできる経験や勉強に取り組みましょう。
監修/富永雄輔 取材・構成/鷺島鈴香 イラスト/サヌキナオヤ