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こんにちは。メンズカウンセラーの中村カズノリです。

 

夫婦関係に問題を感じている読者の悩みの解決方法を探っていく本連載。

 

前回

(※)

は、夫と2人の子どもと暮らすFさん(45歳)のパートナーとの生活スタイルの違いや、教育方針のズレに関するお悩みについて紹介しました。

異なる人生を歩んできた者同士が生き方をすり合わせるには

Fさんの家庭では、夫婦それぞれが育った環境の違いがテレビやゲー厶などとの関わり方への違いとして、如実に表れているようです。

 

とはいえ、食生活や就寝時間など、こまかな生活習慣において、それまで異なる人生を歩んできたパートナーと100%一致するということはまずあり得ません。

「この人と私は違う」と気づくタイミングは人によって千差万別

その差異をお互いが強く意識するタイミングもさまざま。新婚当初の場合もあれば、夫婦どちらかの転職や病気などのライフイベントがきっかけになることも。また、子どもが独立し巣立ったことで急に気になり始めるパターンもあります。

 

Fさんの場合は、子どもたちの年齢的に「受験」を意識しはじめた今が、まさにそのタイミングだったと言えそうです。

 

ここでお伝えしておきたいのは、年に数回の夫婦喧嘩などはあっても、そこまで大きな問題はおきておらず、家族で普通に会話もできる状態にあるこのタイミングでFさんが相談されたのは、カウンセラーとしてはとてもありがたい、ということです。

 

関係がこじれて手に負えなくなってしまってからだと、修復の意思がお互いにあっても時間がかかりがちです。たとえば、暴力を伴ったり、挨拶すら緊張するほどの状況に陥ってからでは、修復の糸口がなかなか見出せないことも多いのです。

 

「カウンセリング」というと、少し敷居が高く感じるかもしれません。でも実際は、他愛ないおしゃべりの中から悩みの棚卸しをしたり、ご自身が本当に望んでいたことを見つけるお手伝いをしているという感じです。

 

カウンセラーとの相性もありますが、決して怖いことではないので、「ちょっとモヤモヤするな」という程度でも、ぜひ気軽にカウンセリングを受けていただけたらと思います。

「家族にわかってもらえない悲しみ」が怒りの根底に

Fさんの悩みについて話を戻しましょう。

 

僕はその根っこに「家族にわかってもらえていない悲しみ」があるように感じました。

 

実は、怒りというのは「二次的感情」です。「二次」ということはつまり、怒りの裏には必ず別の感情が潜んでいます。

中村さん連載7 家族がバラバラ

Fさんの例だと、ご自身の中に理想の父母像があり、パートナーと協力していきたいと思っているのに、理解が得られない辛さ。Fさんによる様々なサポートが「やってもらって当然」になっていて、子どもたちからの「ありがとう」や労いの言葉もなかなかもらえない。心の中にそんな現状への「寂しさ」があるのではないでしょうか。

 

時にそれが積もり積もって、ある日爆発してしまうこともあります。実際Fさんは「普段は許せることでも、なぜか許せない日があって、ウワーッと怒ってしまう」と話します。その「なぜか許せない日」というのが、コップに溜まった水が溢れてしまう、トドメの1滴が流し込まれた瞬間なのだと思います。

 

Fさんの体感では、その頻度は年に2〜3回くらいとのこと。Fさんが爆発すると、家族の振る舞いも一時的には改善されるのですが、またすぐに戻ってしまう。その状況がまたストレスになり、少しずつ溜まっていってしまうそうです。

愚痴を吐き出すのが苦手なタイプは「感情語」を使ったコミュニケーションを

こういうとき、「毎日本当にお疲れさまです」と僕は心底思います。

 

僕の感覚では、年単位で溜め込まず定期的に発散できるのはとても良いことなのですが、本人からしたら、1人でずっと我慢している状態も、耐えかねて大爆発してしまうことも、どちらも苦しいんですよね。

 

人に愚痴を言えれば少しは気が晴れるかもしれません。でも、Fさんにはそういった習慣もあまりないようです。

 

本来なら、グループワークなどで様々な立場の人の悩みを聞いたり聞いてもらったりして、そこでまず「どこも大変なんだなぁ」「いろんな価値観があるんだなぁ」という“気づきの体験”をするのがおすすめです。でも、コロナ禍の昨今、なかなかそんな場も少ないですよね。

 

Fさんは、家族同士のコミュニケーションの質を上げること、テレビやスマホをそれぞれ1人で観ているだけじゃなく、同じ番組を見て語り合うなどのかかわりを希望しているとのことでした。

単純でもいい、「感情を表す」会話が大事

そこで、僕からは「感情語」を使ったコミュニケーションを提案しました。

 

「嬉しい」「楽しい」「悲しい」「寂しい」「腹が立つ」…そんな単純な言葉でいいのです。小難しい言葉を使うより、その方がむしろ伝わります。

 

例えば、お子さんがテストでいい点が取れたときに「良かったね嬉しいね」とか、パートナーが仕事で嫌なことがあったとき「その上司は困った人だね」とか、気持ちを汲んで言葉をかける。ご自身も「コロナの感染者がまた増えてきて怖いねえ」というように、感情を言葉にのせてみる。

 

あるいはテレビを見ていても、「主人公が危なっかしくてハラハラするね」とか、「あのキャラクターは意地悪でムカつくね」などと感想を言い合ってみる。これが「感情語」を使ったコミュニケーションです。

「自分の気持ちを自覚する」ことが大人も意外とできていない

これの何が良いかと言うと、こうしたコミュニケーションを続けていくことで、自分の気持ちを自覚しやすくなるんです。

 

たとえば、思春期のわが子について「何を考え、感じているのかちっとも教えてくれない」と親は不安に思うものですが、伝える伝えない以前に、本人が自分の気持ちに気づけていないことも。こういったことは子どもに限らず、大人にもよくあることです。

 

実際、普段の会話でどれくらい“感情”を表しているでしょうか。そう聞かれると、困ってしまう人が多いかもしれません。

 

子どもが小さいうちは、何かいたずらをされて「パパ怒ったぞー!」などと自然に言えることが多いです。でも、そういう場面は子どもの成長に伴って減ってきてはいないでしょうか。

 

感情を言葉で表現し、それを誰かに受け止めてもらえることで、「自分の気持ちを表明するのは悪いことじゃないんだ」という自信にも繋がります。そこから深いコミュニケーションに発展していくことも期待できます。

 

Fさんのような気持ちを感じている方はまず、この方法にトライしてほしいですね。もし家族に直接言いづらい状況があるなら、そのときはカウンセラーを頼ればいい。まずはできることから試してみてほしいと思います。

文/中村カズノリ イラスト/竹田匡志